中脇初枝著 『わたしをみつけて』
 

 

 

              2016-07-25



(作品は、中脇初枝著 『わたしをみつけて』  ポプラ社による。)

           
 

  本書 2013年(平成25年)7月刊行。書き下ろし作品。

 中脇初枝:(本書より)

 1974年、徳島県生まれ、高知県育ち。筑波大学卒業。小説作品に「魚のように」「祈祷師の娘」「あかい花」「きみはいい子」、絵本に「こりゃまてまて」「あかいくま」などがある。「きみはいい子」は第28回坪田譲治文学賞を受賞、第1回静岡書店大賞第1位、2013年本屋大賞第4位となった。神奈川県在住。

主な登場人物:


山本弥生
<わたし>

慈森会(じしんかい)桜ヶ丘病院の准看護師になって11年、33歳。
捨てられて施設を点々、「いい子じゃないと捨てられる」思いでやらなくてはいけないことさえやっていればと。

藤堂優子 新任の師長。小柄で化粧っ気もなくいつも笑顔を絶やさない。ハートの熱い熱血師長。
桜ヶ丘病院の人々

・院長
・大野先生 内科外科医。30分遅れでの登院が常。看護師を困らせ、患者に冷たい、自分だけが偉いと思っている。
・小森先生 整形外科医。
看護師:
・今井看護部長
・五十嵐 日勤リーダー。師長の不在時は代理をつとめる。
・神田 正看護師。わたしと同い年。
勤めて1年、打撲の跡が残る。
・関
・飯野 今年入職の准看。

患者たち

・一宮シメ 骨折入院、認知症も。毎日看病に訪れる40代の娘さんを口汚くののしる。
楠山幸一 時間外、虫垂炎の緊急手術を院長に受けるも痛がって・・
・菊池勇 便潜血で大腸がん検査のために検査入院、66歳。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

施設で育ち、今は准看護師として働く弥生は、問題がある医師にも異議は唱えない…。「きみはいい子」で光をあてた家族の問題に加え、今作では医療現場の問題にも鋭く切り込んでいく。新境地となる書き下ろし長編。

読後感
  

 以前ドラマで見たことがあるこの作品。はたして原作はどんなだろうかと思って。ちょうど著者の作品で「きみはいい子」と「みなそこ」を読んだ後だったので是非読みたかった。
 読んでみるとどんどん読み進んでいけるとともに、藤堂師長のイメージと、ドラマの鈴木保奈美の師長のイメージがぴったりあっていることに感動。

 小説で読むと弥生の生い立ちもつぶさに想像できるし、師長とのやりとりも素直に胸に染みこんできて震える思いが深かった。
 一宮シメの生い立ちや娘さんの立場を思うと、師長の最後の言葉は素晴らしいとしか言い様がない。菊池老人と弥生の交わりもすなおに心に響き、日頃入院には縁のない世界ではあるが、こういう病院なら良いなあと思ったり。


印象に残る場面:

 藤堂師長のわたしに言った言葉:

・大野先生のことを「大野先生は自信のないかたなのね。」「自信がないからためしてるのね、患者さんに。」「あなたにもためしているのよ。俺でもいいのかって。あなた試されてるのよ、大野先生に」
「気にしなくていいのよ。あなただけじゃないから。だれも文句言わないんでしょ、大野先生に。この病院、みんなためされてるのよ。自信のない俺さまに」

・師長が楠山患者のことを家族の方に真実を告げることを避けるため引き留めたことに:
「あなた、かわいそうなひとね。」「あんな先生しか知らないんでしょ。」「患部とカルテしか見ない先生。自分の思い込みで治療して、失敗しても認めない。患者のことも、看護師のことも、自分と同じ人間だと思ってない。患者は自分の言う通りにしていればいいし、看護師は自分の補助さえしていればいいと思ってる。」
「あなた、ずっとあの院長とやってきたんでしょ。ほんとにかわいそうね。」

  

余談:

中脇初枝という作家の作品、これからも機会があれば読んでみたい。
 ひとこと、院長は作品中ほとんど悪者扱いされていたけれど、そんな悪いばかりの人じゃないと思うので、何かいいエピソードも欲しかったなあと思ったりして。

  

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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