読後感:
この作品の語りというか記述の方法が一寸変わっている。本稿を作成するためのインタビューの形で進行している点にある。
そんなところから色んな情報が錯綜していて果たして何が真実であるのかは暫く立たないと分からない。
一方で、高層の高級マンションという場で起きる様々の人生模様があぶり出されていて、現実の世の中の世相が色濃く出ている点は興味深い。
一家四人の殺人という華々しい惨劇ながら、競売、占有屋、買受人という一般の人には経験のない事柄について初めて知ることが出来たこと。
殺害された2025号の砂川家が偽家族であったという思いがけない事実、その素性と共にどのような理由でこのようになってきたかも謎が深まるばかり。
ミステリーの内容も興味深い。
さらに高層マンションの住民の色々な問題も現実感が味わえ世情を思う礎にもなった。
色んな家庭の事情を持つ家族が出てきたが、現代の世情もよくにじみ出ていて、単にミステリー作品という範疇のものでなく、味わえる作品であった。
印象に残る言葉:
事件が終了後石田直澄がインタビューに答えて語る言葉:
「片倉さんねえ、いい人でしたなぁ。・・・
あの娘ねえ、片倉さんが私の寝ていたベッドのところにあがってきたとき、ビニール傘をね、こう前に構えてね、そりゃ一所懸命な顔をしてたですよ。お父さんを守ろうってね。あれはねえ、たまりませんでしたよ。なんか、あれで私、いっぺんに里心がついちまったというか、うちの娘のことなんか思い出しましてね、あのとき信子ちゃんが居なかったら、私もね、正直に話す決心が、すぐにはつかなかったと思います。ホントにね。信子ちゃんのあの顔見てね、この家の人たちに、人殺しだと思われるのは嫌だなあって、思ったですよ。逃げ回るのにくたびれてたのはとっくにとっくだったけども、本当に弱気になって、なんかこうね、私は人殺ししてないよって言いたくなったのは、片倉さんたちに会ったからですわ」
|