印象に残る言葉:
◇一鬼が帰国して半月後、長野の郷里に帰り、弟泰助(名古屋の下町で開業)と義母(老いのために頭が壊れかかっている)とに会い、交わした会話から、一鬼が泰助に言う言葉:
「しかし、いいな、人生というのものは。つくづくいいと思うな。人間、自然に老いて行くということは、何といいことだろう。たまらなくいいな。恩讐も消え、愛憎も跡形もなくなり、結婚と、出産と、香典だけになる。神さまは、ちゃんと考えて下さっている。そういうようにして、人間を終着点に持って行く」
・・・・
人生に価値があるかないか、意義があるかないか、そんなことは、どうでも良かった。あるがままの人生を、そっくりそのまま肯定できるような気持ちになって、ふいに、それが感動を伴ったのであった。人間老いることもいいし、もうろくすることもいい。長生きする者もあるだろうし、若くして死ぬ者もある。幸運な者もあるし、不運な者もある。百人百様である。だけど、みんな、それでいいじゃないか。
―――逝くものは、かくの如きか、昼夜をおかず
◇ 一鬼の半島建設時代の先輩、須波耕太(余命1ヶ月の癌患者)が会いたがっているというので赴き、あと一年寿命があればどう生きたいかとの問いに須波耕太の答えは:
・いつも身辺が清潔である生き方をしたいですね。
・他人のことを、もっと考える生活をしたいですね。
・人を押しのけて、自分がのしあがろうとするのは嫌ですね。
・金、金、金と金を追いかけのも嫌ですね。
・鳥の声を聞いて、ああ鳥が鳴いていると思い、花が咲いているのを見て、ああ花が咲いていると思う。そんな生き方がいいですね。
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