<主な登場人物>
『 断絶 』
劔持隆太郎
(70歳)
長男 一郎
嫁 和恵
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汐灘一区選出の民自党の代議士、10回当選。来年の選挙では後継者に譲るつもり。妻は10回目の選挙告示前に突然心筋梗塞で逝く。
一郎:今は経営状態盤石の汐灘建設の社長、劔持家からの国会議席保持の5代目の跡継ぎとして期待されているが、弱い面も持ち合わせている。
嫁の和恵は叔父の豊田の姪。
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豊田 |
劔持の後援会会長、5歳年上。 |
北川 |
県北部汐灘二区地盤の民自党二世議員。県連会長。一郎と同い年。 |
高畠修平 |
劔持の公設第二秘書。北川の甥。 |
椎名 |
劔持の地元秘書として32年間仕えている。 |
花輪一三(カズミ) |
汐灘県知事、次の選挙で劔持に自分を押してくれるよう働きかけている。 |
石神謙(43歳)
妻 直美
父親 石神創(70歳)
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県警本部捜査一課の15年刑事。汐灘海岸での身元不明の女性に関する担当刑事。養子。
父親の石神創は劔持の幼なじみで長い付き合いがある。10年前県知事の贈収賄事件に巻き込まれ県庁の出納長を辞任。
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坂東 |
汐灘署の180cmを超える大柄刑事。石神の助手として活躍。 |
梅田係長 |
石神謙の直接の上司。 |
伊逹明人 |
上園署の刑事。石神謙とは今年の春まで捜査一課で同僚だった、同期。 |
相澤沙希 |
寒い夜の汐灘海岸で身元不明の、猟銃による自殺者として処理されようとしている女性。 |
(補足) 汐灘地区は東京から来るまで2Hほど、止まらない地盤沈下の中、起爆剤として新線建設で盛り返しを計ろうと画策中も、地区により環境問題で反対運動があったりと保守王国も揺らいでいる。
『長き雨の烙印』
伊逹明人
妻 直美
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県警捜査一課刑事。庄司とは高一で同じクラス、卒業後も交流深まるも、20年前逮捕されたとき何もしてやれず。
東京の大学卒業後、地元に戻り警察官となる。
日下部 当初は脇坂とのコンビで活動するも、脇坂は単独捜査をするため解消。伊逹と行動を共にする。
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脇坂雄三 |
県警捜査一課刑事、伊逹の先輩。20年前の庄司逮捕の牽引者。
庄司が出所してきたことでこういう人間はずっと刑務所の中にいるべきとの信念から勇み足・・・。
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庄司智明
兄 康司
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20年前の幼児殺害事件の犯人として13年の判決受け、服役、出所後8年、再び幼児殺害未遂事件で拘留、釈放される。
20年前のことも冤罪と訴えをいいだす。
兄の康司、出所後の弟の面倒を見るも、半年前胃癌でなくなる。 |
有田龍之介
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汐灘中央法律事務所勤務。“庄司を支援する会”の弁護士。庄司が出所後、別件逮捕で再び拘留された後、隠れ屋に潜伏させるが・・。
・狭間 所長
・本郷 “庄司を支援する会”会長
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桑原直弥
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“マルベリー・モーターズ”の社長。20年前の女児暴行殺害事件の被害者の父親。庄司に対する復讐の思いで・・・。
・市井 桑原が引き上げた若き後継者。以前の自動車販売会社の不正を告発、伊逹の後押しで桑原の所に雇われる。
・柳澤 広域暴力団の幹部。桑原とは幼なじみ。
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<物語の概要>
『 断絶 』
閉塞感漂う地方都市・汐灘に全てを捧げた大物代議士・剱持隆太郎。息子か現知事か、激化する後継者争いの中、発見された女性の遺体。刑事・石神と剱持、2人の運命が交錯する…。渾身の人間ドラマ、長編書き下ろし。
『長き雨の烙印』
捜査一課の刑事・伊達明人は、女児暴行事件を担当するが、幼児殺人の前科を持つ親友が容疑者に。予断とも思える強引さで執拗に友を追う先輩刑事に対し、伊達は無実を願い、懸命に捜査を続ける…。渾身の警察小説。
<読後感>
『 断絶 』
劔持という70歳になる代議士と石神という40代の刑事を主人公に、その視点から展開する選挙がらみの問題。身元不明の自殺(?)事件を巡って展開する物語に、世代の移り変わりに伴う考え方の変化。警察組織の上からの指示に対して、真実を追究するという正義の行動を絡ませて、生き方、情という人間の泥臭い面に感情移入を起こしつつ、なかなかおもしろいストーリーの展開となっている。
劔持の視点から描かれていることで親の情の為に、自分のこれまでの生き方を曲げざるを得ない決断に、こちらも感情移入がおこり、苦悩を理解できるようなところがある。
一方、政治の世界の世代交代の風潮を、最後に思い知らされる事になる展開は、判っていてもそうだったのかとちょっと悲しい気も。
石神謙の身元不明の被害者の身元調べから、上からの指示に反発して事件を追いかける姿は、高村薫の作品の合田雄一郎とはちょっと感じは異なるが、すがすがしい感じで好感が持てる。
そして同じく久しぶりに高村薫の「新・リア王」にみる政治ドラマとはこれも少し異なるが、政治の世界を扱った物語もおもしろかった。
『長き雨の烙印』
はたして20年前の女児暴行事件の犯人は庄司なのか、殺された親の桑原ははたして庄司に復讐を果たすのか。庄司を支援する会の有田弁護士は、本当に庄司が犯人でないと確信できるのか。一方、警察では20年前に庄司を犯人としてあげた脇坂は、出所してきた庄司が、再び女児暴行未遂事件を起こしたとして別件逮捕して勇み足をしたが、犯人を憎む思いは通じるのか。他方伊逹刑事の方は、庄司と親交があったことから助けられなかったことに負い目を持っているが、本当に犯人は庄司であるのか、追跡を辞めないでいる。
それぞれの思いで物語が展開していき、果たして真実は何か、なかなか見えてこない。
それぞれの立場(桑原、有田、伊逹)で描かれているので最後まで惹きつけられて、読む方としては目が離せない。
伊逹刑事については先に「断絶」の中に石神謙の同期の人間としてちょっと出てきたことから、この人物は信用できるのではとの思いで読んでいたが。
今の世の中も性犯罪社は服役したからと云ってそれが矯正されるとは思えないことがしばしば、世間ではそんな人間は自分たちの周りには居て欲しくないのは当然。でもそれではいったん罪を犯した人間はずっといる場所がなくなってしまうことになるし、悩ましいが・・・。
弁護士の有田の、信用できるのかどうかの迷いも切実。
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