「カラマーゾフ」創作ノート08

2013年8月

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08/01/木
久しぶりに茅場町のペンクラブに行く。秋葉原まで歩いて日比谷線に乗るという手もあるが、暑いので千代田線に乗り、大手町で東西線に乗り換える。言論表現委員会。帰って学生の宿題を見て、成績をつける。1年から大学院まで5つのゼミに講義が1つ。ただし卒業ゼミは通年なので、5クラスぶんの成績をつければいい。講義の成績はすでに入力してある。本日は2年と3年、それに大学院の成績を入力した。月曜日に1年生の入力を終え、もう一度点検して、登録を完了することになる。『釈迦とイエス』も進んでいる。

08/02/金
本日は休み。まず医者に行く。月に一度の検診。血圧は正常。まったく問題はない。午後、三宿の旧居に行く。引越の荷物を作った時に、書籍は大学の研究室に運ぶもの、新居に運ぶもの、寄付するもの、捨てるもの、などに分類して対処したのだが、もう一つ、仕事場に運ぶものというのがあって、それが旧居に置いたままになっていた。それをとりあえず車に積み込むために旧居へ行ってみた。妻は庭の掃除などで何度か行っているのだが、わたしは引越の時から三ヶ月、一度も行かなかったので、久しぶりだ。引越の日は、前日に荷物をトラックに積み込み、その日は業者の駐車場に置いて、翌日の朝から新居に運び込むという手順だった。そのため妻が朝から新居に待機し、わたしは荷物を運び終えたがらんとした旧居で仕事をしていた。電話線とパソコン用の光ケーブルの撤去のために午後にNTTの作業員が来るのを待っていたのだ。作業が終わり、仕事の道具をかかえてタクシーで新居に向かった。それ以来、三ヵ月ぶりの旧居だ。もうすっかり新居に慣れているので、昔、三宿に住んでいた、といったことを、感覚としては忘れてしまっている。荷物を運び出してがらんとした旧居に入っても、懐かしさというよりも、こんなところに二十数年間もいたのだと、意外な感じがする。さすがに広い。大邸宅だ。いま住んでいるマンションのすべてが、リビングと応接間を兼ねた一室にすっぽりと収まってしまう。まあ、そういうことだ。老後にそなえたダウンサイジングをはかったのだ。言い換えれば、いままではずいぶん無駄なスペースを使っていたということ。息子2人がいたし、わたしの母が時々泊まりに来たから、そのためのスペースが必要だった。とくに長男はピアニスト志望だったから、グランドピアノを置くスペースが必要だった。八王子にいた時からあったヤマハと、芸大に入ってから買ったスタンウェイが2台並んでいた。その2台はいまはスペインの長男の自宅にある。そのうちのヤマハは、八王子から三宿、それから息子が留学していたベルギー、スペインと大移動をした。数奇な運命のピアノである。何もかもがなくなってがらんとした室内を眺めると、いささか感慨があった。時の移ろいというものを感じる。しかし自分にはつねに「いま」しかない。本日は休みだが、大学の事務に提出する書類の期限だった。来年のビジョンを文書にして提出したのだが、わたしは文学部の部長をつとめているだけでなく、大学院と付属する3つの研究所の責任者もしているので、5種類の文書をメールに貼り付けて提出したのだが、折り返し担当者から返信があって、「文学研究所」と「日本文学研究所」というのがあって、違いがわからないと指摘された。前者は大学院の「文学研究科」なのだった。ファイル名がまちがっていたのだ。あわてて書類を作り直す、というようなことをやっていた。とにかく「いま」をやりすごすしかないのだ。自宅に戻って『宇宙論』の再校をちらっと見てから、新聞社から送られてきた本に目を通す。書評を頼まれている。レイモンド・カーヴァーの伝記。これはいい本だ。でもこの忙しいのによく本など読めるなと思うが、こういう時に読まないと読めない本がある。夜中は『釈迦とイエス』を書く。

08/03/土
マッサージに行く。思えば去年の夏、スペインの孫3人、四日市の孫2人がずっと三宿の自宅にいて、その喧騒の中、歯をくいしばるようにして仕事をしているうちに、つい膝に力が入ったのか、膝を痛めてしまった。医者に行ってレントゲンを撮ってもらったら何でもないというので、神経性のものだろうということになり、姉の三田和代さんの紹介で新宿のスポーツマッサージに通うようになった。マッサージのあいまにお灸をやってくれるのだが、腰のツボにカイロを貼るといいと教えられて実行したら、膝の痛みが軽減されるように感じた。いまは痛みもなくなったのだが、予防のために真夏にもかかわらずカイロを貼っている。マッサージに行くのも予防のためだが、本日は上半身が固くなっていると言われた。『釈迦とイエス』の調子が出ているので、キーボードを打ち続けている。疲れがたまっているのかもしれない。

08/04/日
この週末はのんびりしている。授業はもうないのだが、成績がまだ終わっていない。明日、大学に行って、すべてを片づける。『数式のない宇宙論』の再校ゲラを読んでいる。文章はまったく問題はないのだが、数字の表記にバラつきがあるのを発見する。算用数字と漢数字の使い分けの問題で、数字そのものに誤りがあるわけではないのだが、目についたものは修正していく。校正の入ったゲラは次の週末に届くことになっているのでそれまでに文章に目を通しておけばいい。文章そのものはいい。数式を使わずに、哲学として宇宙を語る。ずっと以前からやってみたかったことだ。年をとると、昔は夢だったことが、一つ一つ、実現していく。ドストエフスキーを書き直すという、夢にも見なかったことが実現しつつある。宇宙論もその一つだ。『星の王子さま』の翻訳などというのも、夢にも見なかったことだが、すでに実現している。そう考えてみると自分の人生は想定外の幸運に恵まれていると思う。がんばっているわりに読者が少ないなどと嘆くことはないと思うのだが。このところ出した本があまり増刷されなくなった。版元にも迷惑をかけているが、初版部数そのものが少ないので生活も厳しい。大学の先生をやっているので生活に困ることはないが、老後が心配だ。まあ、とにかく書き続けるしかないと思っている。本日は妻と秋葉原まで散歩に出かけた。ガード下に「ちゃばら」という地方の物品を売るスペースができている。いろんなものを買った。自宅のマンションは御茶ノ水が最寄り駅だが、昌平橋のすぐ近くで、秋葉原も5分くらいで行ける。日曜の歩行者天国に行くのは初めてかな。何年か前に狂った男がここで車を暴走させて何人かの死者が出た。何となく緊張して歩いた。昌平橋といえば朝のドラマの「あまちゃん」でヒロインたちが路上ライブをやるのが昌平橋の上だ。われわれが引っ越す前に撮影したのだろうと思うが、いま撮影があったら黒山の人だかりになるだろう。

08/05/月
午後の学科会。来年度の予算など必要な話をする。学部長なので責任はあるのだが、細かいことはこちらはよくわからないので皆さんにお任せする。頼りにならない学部長だが、とにかく何とかなりそうな感じになっている。お盆は事務局も休みになるので、われわれもしばらく休める。ただし明日は大学院の入試、明後日は学部長会議と、わたしの仕事はまだ残っている。さて、8月に入ってもまだ「カラマーゾフ」のスタートが切れていない。言い訳めくが学部長の仕事は少し大変だったかな。想定外の諸問題があって、時間をとられた。しかしコツがわかってきたのでこれからは大きな問題はないだろう。『早稲田1968』と『数式のない宇宙論』を書いたのだし、『釈迦とイエスが伝えたかったただ一つのこと』も半分書けている。大学の先生という職業をもちながらこれだけ書けるのは大したものだと自分を慰めつつ、『カラマーゾフ』の準備が遅れていることを担当編集者と数少ないファンの皆さまにお詫びしたい。しかしこれからエンジンをかけるつもりだ。続篇を書くというのは大変な作業で、そもそも原典は架空の土地に設定されているのだが、もう少し具体的な位置情報がほしいということで、あれこれ悩んできた。研究家は原典を深く読み込むことによって、ドストエフスキーがどのあたりを想定して作品を書いたかを推理したがるのだが、わたしにとってはその種の研究成果は、あまり重要ではない。『新釈悪霊』を書いた時も、場所の設定を強引にトゥーラにしてしまった。おそらくドストエフスキーはニコライ・フセドヴォロドヴィッチ・スタヴローギンのモデルとなったバクーニンをイメージしながら、バクーニンの生まれ故郷のトゥヴェーリを想定しているのかもしれないが、わたしの『新釈悪霊』にはバクーニン本人が登場するので、ニコライが同郷者だとそれだけで話が別の方向に進んでしまう。ということで、ドストエフスキーの父の領地のあったリャザン県のザライスクに近いトヴェーリということに設定したのだが、今回はリャザン県にこだわりたいと思っている。それから、これまで書いた3つの「新釈」シリーズに登場した人物を、今回も登場させたい。『新釈罪と罰』の主人公ザミョートフを活躍させたいと思っている。そんなふうにプランはふくらんでいる。『新釈白痴』や原典の『白痴』と同じように列車の中から話を始めようと思っているのだが、もう一つ、枠物語を設定している。誰だかわからない人物が作者になりかわって語り始める。語り手を登場させると19世紀の雰囲気になる。そのために謎の人物が語るという設定にしたい。いろいろと楽しみながらプランを練っている。これはわたしのライフワークであり道楽の極みなので、じっくりと時間をかけて楽しみたいと思っている。

08/06/火
大学院の試験。本日は有明キャンパス。ふだんの武蔵野キャンパスは三鷹からバス10分くらい。有明にはどうやって行くのか。三宿にいた時は、妻に車で恵比寿まで送ってもらっていた。恵比寿からなら直通で行ける。しかし御茶ノ水に引っ越したので、一本で行くというわけにはいかない。先日の説明会の時は車で有明まで送ってもらった。妻はビーナスフォートで買い物をして、終わったころにまた迎えに来てもらった。しかし本日は早朝なので、電車に行くことにした。大学の出張費計算のモデルでは、大井町乗り換えということになっている。これがシンプルそうだが少し遠回りだ。千代田線で日比谷まで行き有楽町まで歩いて有楽町線という手もあるが、JRの東京駅で地下の京葉線乗り換えということにした。乗り換えに時間がかかるけれども、以前、有明で仕事をしてから新幹線に乗ったことがあるので、動く歩道のある長大な通路のスケールはわかっている。初体験の時は途方もなく時間がかかった気がしたが、覚悟していけば、意外と速い感じがした。

08/07/水
大学。学部長会議。そのあと2時間ほど研究室で仕事。木曜の3年ゼミと4年ゼミの飲み会をやったので、そのあとにある大学院のゼミを休みにしていた。申し訳ないので本日、最終回のゼミを開くことにした。といっても学生は一人だけなので、そのまま飲み会になる。昨年の2年ゼミの教え子で、イーブックジャパンに2作品が掲載されている高橋くんも来たので、大学近くで唯一の飲める場所である「どん亭」でしゃぶしゃぶ食べ放題。この店は老人割引がある。65歳以上なのだが、ついにその年齢に達した。割引になるのはしゃぶしゃぶ食べ放題だけで、飲み放題は割引にならない。この割引、小学生と65歳以上、という設定になっているので、小学生のことしか考えていないのではないか。

08/08/木
仕事場に移動。それだけで疲れる。明日はまた東京で仕事があるのだが、電車で出かけることになる。

08/09/金
下丸子で『文芸潮流』の「まほろば賞」の選考会。同人誌の作品の中からベスト1を選ぶというもので、これは疲れる仕事だ。自分よりもキャリアの長い書き手がいると、同人誌の合評会などで批判にさらされてきた経験からがっちりした文章を書く人が多い。しかもエッセーに近い私小説ふうの作品から中間小説、ライトノベルに近いものまである。他の選考委員のご意見を参考にしながら、ベストの選択ができたと思う。あとで軽く飲み会。仕事場からの往復なので多少、余分に時間がかかったが、役目を果たしたのでほっとした。来月は日大文芸賞の選考もあるのだが、こちらは学生の作品なので気楽に選考できるだろう。妻に鷲津の駅まで迎えに来てもらったのだが、午後9時だというのに熱帯夜だ。昔スリランカに行った時の夜を想い出した。こんなに暑い夜は日本では初めての体験だという気がする。

08/10/土
今週も週末になったが、世の中はお盆休みだし、大学も休みになった。授業はすでに終わっているのでふつうの先生は休みになるのだが、学部長なのでハンコが要るとか、そういう仕事がある。事務所が開いている限りは、どんどんメールが入ってくる。何とかメールだけで対応できるようにしているので問題はないのだが、メールをつねに見張っていないといけない。本日からは少し楽になる。仕事場での休日。しかし朝一番で『数式のない宇宙論』の再校ゲラが届いた。これが最後のゲラだ。すでに著者用のゲラは受け取って読み返して赤字も入れている。校正者のチェックが入ったゲラに、著者用にチェックした箇所を転記していく。とりあえずその作業は済ませた。直した箇所はすぐにわずかなのですぐに終わった。あとは最初から、校正者のチェックを確認していくだけだが、ざっと見た感じでは大きな問題はない。猛暑だが夕方、散歩に出る。あまりに暑いのでいつものコースの半分くらい。とにかく歩いた。去年の夏に脚を痛めて以来、つねに痛みの恐怖に怯えている。適度な散歩が毎日必要だ。夜はのんびりとテレビで世界陸上を見る。

08/11/日
日曜日。とにかく暑い。夕方に、昨日よりは多めに散歩。汗をたっぷり流した。この仕事場を開設したのは1981年のことで、今年で32年目になる。自分の人生の半分くらいを、夏はここで過ごしてきた。さまざまな想い出がある。小学生の息子たちと遊んだことや、犬と散歩したことが、ここを散歩するとよみがえってくる。三宿の家を引き払ったので、いまはここしか想い出を偲ぶ場所がないが、ここには楽しい想い出がたくさんある。『数式のない宇宙論』の校正終わる。これで完全に手が離れる。いい本になったと思う。『釈迦とイエスが伝えたかったただ一つのこと』も半分が終わった。これからピッチを上げたい。

08/12/月
お盆で世の中が休みなのでこちらものんびりできる。急ぐことはないのだが、妻が買い物に出かけたので、集中して3件ほど残っていた締切の近い雑文を仕上げる。ただちにメールに貼り付けて送る。昔はFAXで送ったりしていたなと思う。わたしがパソコンを使い出したのはウィンドウズ3・1のころからで、20年くらいになるだろうか。当時はパソコンを使う編集者もいなかったから、原稿はFAXで送るしかなかった。しかしプリントする必要はなく、電話線につながったパソコンから直接FAXを送ることができた。はるかに懐かしい記憶だ。本日も暑かった。でも湖岸を散歩すると、ぬるい風が吹いてきて少しはましな感じがする。本日も散歩には出かけた。残っているのは『釈迦とイエス』の後半だけで、「カラマーゾフ」も前進させたいと思っている。導入部はすでにできているのだが、昨日くらいから出だしの文章を書き始めた。いい感じで前進していると思う。

08/13/火
妻が友だちに会いに出かけたので、ひとりで仕事。この仕事場にはギターはあるのだが、楽譜をもってくるのを忘れた。いまは物置になっている書斎を探すと、さだまさしの初期の楽譜が出てきた。まあ、これでもいい。御茶ノ水の新居はマンションなので大声を出せない。それでも昼間に歌うことはあるのだが、抑え気味で声を出している。ここは一戸建てだし、エアコンをかけて閉めきっているし、両隣は昼間は不在なので、思いきり声を出す。『宇宙論』の再校ゲラは編集部に届いたようで編集部から電話で問い合わせ。大きな問題ではない。奥付の確認もメールで届く。これでほぼ手が離れたと考えていいだろう。共同通信に送った書評のゲラがPDFで届く。この仕事場はFAXがないので短いゲラのやりとりに困っていた。いまはPDFがあるので楽だ。ただし自宅にいればプリントして赤字を入れてスキャニングして送るということが可能だが、ここにはプリンター(兼スキャナー)もないので、文字の訂正はメールで言葉で説明するしかないのだが、幸い、修正の必要はまったくなかった。本日は『釈迦とイエス』のイエスの章に取りかかった。イエスについては何度も書いている。これはイエスの本ではないので必要なことを圧縮して書く必要があるのだが、とにかくどんどん書いていけばいい。

08/14/水
本日も猛暑。仕事をして、少し昼寝して。夕方、ショッピングモールへ行って冷房の効いている中を散歩。これはいい感じだ。ジョッキ2杯飲んで帰ってくる。夜中は陸上競技を見ながら仕事。順調に仕事が進んでいる。

08/15/木
猛暑は続く。本日は夕方に散歩に出ただけ。この仕事場を32年前の1981年に開設したのは、77年の芥川賞で30万部ほど売れた本の印税が版元の経営不振で半分くらいしか払われていなかったのが、問題が解決して一挙に支払われたため、もともとなかったお金が入ったので何かに使おうと思って土地を購入したのだった。まだ子どもが幼稚園くらいで、自宅にいると子どもと遊んでしまうので、仕事場が必要だと思った。とにかく東京から離れていると仕事に集中できる。この夏もここに来て一週間にしかなからないのだが、毎日コンスタントにパソコンに向かって仕事をしている。築32年の木造家屋だがよくもちこたえている。エアコンは最近取り替えたのでまだ元気だ。

08/16/金
まだ世の中も休んでいるようだが、『宇宙論』の担当者は働いているようで本日もメールで問い合わせが来た。が、これで最後になるかな。あとは本が出来るのを待つばかりだ。今日も暑いが、この仕事場に来ると必ず行くレストランに行く。32年前、この仕事場を開設した時に、ここの別荘地のレストランでシェフをしていた人が、西気賀の駅舎内に開いた店。その縁でずっと通い続けている。古く懐かしい感じの洋食を出す店で、ここではいつもビーフシチューを食べる。本日は『釈迦とイエス』のイエスの章を書く。まだイエスは登場しない。イエスが出現した当時の時代状況を説明する。ここを押さえておかないと先に進めない。

08/17/土
土曜日か。このところ曜日の感覚がなくなってしまった。昨日、散歩の時に、犬がいたころよく犬を泳がせた浜に行ってみた。胸が痛んだ。わが犬は水泳が好きで、泳がせるとどこまでも泳いでいった。湖の沖まで出てしまい水面に出ている後頭部が点になったころ、目を凝らすと黒い後頭部ではなく、隈取りのあるシベリアン・ハスキーの顔になっていた。犬がUターンにしてこちら向きになっているのだ。そして彼は悠然と岸まで泳いでくる。さすがに疲れているらしく、もういいやという感じでわたしのいるところまで来て、おとなしく綱につながれる。それがこの仕事場での日課だった。犬がいないと生活にメリハリがない感じがする。犬がいなくなってもう10年以上になるのだが、いまでも犬のことは忘れない。犬とのさまざまな想い出のある三宿の家を引き払ったので、いまではこの仕事場だけが、犬の想い出のしみついた場所になっている。

08/18/日
今月も半ばを過ぎた。仕事場にいられるのもあと数日。だが、東京に戻っても大学は模擬授業があるだけなので、しばらく自分の仕事に集中できる。昨日はマタイについての記述が終わり、本日はマグダラのマリアについて書いた。いよいよイエス本人が登場する。イエスの教えのうち、ポイントとなる部分を最後に書いて盛り上げるため、ポイントでない部分は弟子の紹介とともに済ませた。あとはイエスについて語り、この章のエンディングに向かって進んでいくだけだ。

08/19/月
お盆のあとの週末も終わり、世の中が急に動き出した。メールがどっと来た。『宇宙論』はまだ疑問が出てきてPDFが送られてきた。適宜に対処して送り返す。今回、仕事場に来て、ひたすら仕事をしていた。本来は夏休みなのだから、一日くらい休んでもいいかと思いつつ、朝は少し仕事をして、午後からドライブ。といっても妻が運転するのだが。1時間くらいで行けるアウトレットで買い物。わたしはアウトレットへ行く度に運動靴を買う。黒っぽい運動靴をどこへ行く時もはいている。高級な革靴ははかない。運動靴で充分だ。5000円くらいの靴を二足買う。タイムサービスをやっていて4割引になった。孫にレゴを買う。妻も何か買ったようだ。上着みたいなものも買いたかったのだが、狭いマンションに転居したので、衣類を置くスペースも限られているので、何か買うと、そのぶん何を捨てなければならない。わたしは身に合ったものをぼろぼろになるまで着るのが好きで、新しいものを買っても前からあるものを着てしまう。結局、何も買わなかった。靴だけは消耗品なので買わざるをえない。昨夜は豪雨だった。本日は夜中にパラッと雨が降った。雨が降っても蒸すだけで気温は下がらない。スペインにいる長男のブログを見ると涼しそうなところで孫4人と遊んでいるようだ。次男は黙々と働いている。わたしもかなり黙々と仕事をしている。

08/20/火
本日、東京に帰る算段をしていたのだが、つごうでまだ仕事場にいる。イエスの章が終わった。あとは短いエンディングをつけるだけでこの本は完成だ。

08/21/水
御茶ノ水に戻る。『釈迦とイエス』最終章に突入。

08/22/木
散髪に行く。ものすごく乱暴な1600円の店。髭剃りあとが痛い。メンソレタームみたいなものをたっぷり塗ってくれる。転居して2度目の床屋。時間がものすごく早い。今日はすいていたので超早かった。

08/23/金
『釈迦とイエス』とりあえず最終章に入っているが、ここでプリントして読み返してみたい。

08/24/土
大学のオープンキャンパスで模擬授業。1時間という制限時間で「小説とは何か」ということと、「小説の書き方の基本」を話す。そんなの無理だと思ながら、毎年話している。まあ、楽しく語れた。

08/25/日
郵便局に簡易書留の速達を出しに行く。日曜だが本局の郵便局が通り一本渡ったところにある。これはありがたい。昔、まだ原稿を郵便で送っていたころには、引っ越し先の選択のポイントの一つがポストと郵便局までの距離だった。いまは大長篇でもメールで送るので郵便物を出すことはほとんどなくなったが、それでも急ぎの郵便を出すことは時々ある。日曜でも開いている本局に近いのはありがたい。郵便局に近いというのはマンションの申し込みをしたあとで知ったことで偶然である。AKB48の劇場まで歩いて行けるというのもあとで知った(行くわけではないが)。妻は孫に会いに行った。四日市の孫が嫁さんの実家に来ていて写真館で写真を撮るのを見に行ったのだ。去年、スペインの孫が来ていた時に、3人娘の写真を撮に行った時、四日市の孫もついていって、数枚だけ孫5人で撮った写真がある。今年、われわれが引っ越した時、大量の荷物を捨てることになったのだが、その中に長男、次男が幼稚園くらいのころに着ていた和服があったので、四日市の孫たちに渡したのだが、それを着せて写真に撮ったようだ。わたしは自宅で仕事をしていた。いっしょに行くかとも聞かれなかったし、聞かれても行かなかっただろうと思う。昨日、研究室のプリンターで『釈迦とイエス』をプリントしたので、最初から読み返している。序章の導入部はいいのだが、釈迦の章に入ると文章が甘い。手探りで書いているようなところがある。大学の仕事をしながら書いていると集中力が持続しないので、こういうムラができる。しかしわずかな修正で何とかなりそうだ。イエスの章は夏休みに入ってから書いたのでこういうムラはないだろうと思っている。

08/26/月
大学では予算の申告などたいへんな時期なのだが、学部長のわたしは細かいことがわからないので、先生方にお任せするしかない。新参者なのに年齢の順で学部長になってしまったので、まことに申し訳ないが、いまだに何もわからないままだ。申し訳ないと思ながら、自宅で作業をしている。著作権関係の問題も過熱していて、新聞記者から取材が入ったり、何かとあわただしい感じだ。プリントを読み返す作業は急ぎたくないので、『カラマーゾフ』も並行して考えている。最初から読み返して文体の最終チェック。ここで文体を確立してしまえば、あとは自動的に進んでいくはずだ。これまでの3編も、ドストエフスキーの霊が憑依して、知らないうちに書けていた。ただしこの最後の作品は、自分にしか書けない作品だと思っている。ドストエフスキーはロシアで革命が起こることを知らない。わたしは知っている。後出しジャンケンみたいだが、21世紀に住むわたしが書けば、ドストエフスキーの問題提起を拡大することができる。今回は宗教と政治の問題が前面に出てくる。かなり理屈っぽい作品になりそうなので、流れをよくしてスピード感を出していきたい。昔、八王子の住宅地に住んでいた時のご近所の奥さんが遊びに来た。ご主人の入院中とのこと。わたしの小説にも登場する友人なので心配だが、術後の経過は良好だとのこと。いまも近いところに住んでいるので、快復されたら近所で全快祝いの祝杯をあげたい。

08/27/火
昼間は『釈迦とイエス』のプリントをチェックし、夜は『カラマーゾフ』を書いている。両方ともまだ手探りだ。後者は書き始めたばかりだから手探りなのは当然だが、前者は9割くらいの草稿はできている。ただ結論がまだ書けていないので、手探りの状態が持続している。9割の草稿を読み返しているうちに結論が引き出せるのではないかと考えて読み進んでいる。確かにようやく的が絞れてきたという気はしている。

08/28/水
孫2人来る。老夫婦2人の静かな生活に嵐が来襲する。われわれも昔、男の子2人を育てていた。いまは次男が男の子2人は育てている。同じことがくりかえされている。そうやって人間は生きていくのだろう。スペインで暮らす長男のところは3人姉妹だったが、今年、男児が生まれた。男親にとって、男児というのは、いろいろな思いをもつきっかけになる。自分の人生を振り返るきっかけであり、過去の自分をミニチュアのように再現してくれるものだ。夕食は隣のビルのピザ屋。初めて入ったのだがいい店だった。

08/29/木
本日は孫へのサービスの日とする。年に1回か2回のお祭みたいなものだ。お祭でお神輿をかついでいる人が、その重みで苦しんで大汗をかいている。そんな感じだ。まずは神田駅に行く。孫2人は東北新幹線のマニアで、車体を見ただけで区別ができる。とくにお気に入りなのが緑のハヤブサと赤いコマチ。そのハヤブサとコマチがつらなった編成が出発する時刻を嫁さんがチェックして、その時間の神田駅の1番線で待ち受ける。なぜ神田駅かというと、東京駅ではホームから発車するところしか見られないし、秋葉原では地下に潜ってしまう。神田駅の1番線から見ると、動いている新幹線がよく見えるのだ。このスポットはわたしが発見したもので、孫たちは大いに喜んでくれた。それから上野の動物園に行った。よーく考えてみたら、パンダを見るのはわたしも初めてだ。残念ながらハシビロコウは工事中で見られなかった。しかしアザラシやホッキョクグマは食事中の姿が見られた。長い一日だったが、これで役目が果たせた。ところで次男の嫁さんはITに詳しい。以前、デスクトップがネットにつながらなくなった時も、必要な部品を買ってきてくれた。今回は妻がスマホを使いたいと言ったので、無線のルーターを秋葉原で買ってセットしてくれた。4月に引っ越した時に無線ランの設定をしようかと思っていたのだが、このマンションは各部屋に有線のコードの差し込み口が設定されていて、配電盤の隣にNTTが光電話用の有線ルーターを設置してくれたので、無線にする必要がなかったのだが、嫁さんが小さなルーターをとりつけてくれて、これでスマホが使えるようになった。しかもスマホではなく代用品みたいなものもプレゼントしてくれた。中古を500円で入手したらしい。何だかわからないがこれで妻の要望が実現した。やれやれ。これで気持が楽になった。

08/30/金
一週間ぶりの大学。当大学には能楽資料センターというものがあるが、わたしはここのセンター長ということになっている。学部長になると付属の施設がセットになってそのすべての責任者になるのがつらいところだ。で、その資料センターについて、学院長と面談。まあ、なごやかに意見交換しておしまい。とにかくこれで本日の仕事は終わり。

08/31/土
この週末は休み。先週から続けている『釈迦とイエス』のプリントのチェック。釈迦の章が終わった。イエスの章はこの夏に一気に書いたのであまり直しがないかと思ったが、けっこう直しがある。これはスピードが上がったのでミスタッチがあったりするせいだろう。夕方に散歩。今日は暑さがぶりかえしている。神保町の古書店街に行ったのだが、行きは山の上ホテルの横から下り、帰りは女坂。水道橋の近くにある女坂は、女坂といいながら、途中に少し進路が斜めになっているところがあるだけで、勾配も落差も、少し先にある男坂と変わらない。というか気分としてはこちらの方がきつい感じだ。とにかく散歩だから、汗をかくのはいい。夜中は『カラマーゾフ』を少し進める。今月もこれで終わりだ。よくがんばっているのだが、仕事はあまり進んでいない感じだ。


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