「新釈白痴」創作ノート2

2010年2月

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02/01
月曜日。W大学の今シーズン最終講義。著作権の話なので、面白い話ができたし、学生諸君にとっても有意義な授業になったと思う。聞き手の反応もよく提出されたレポートもレベルの高いものであった。さて、これで大学の仕事からしばらく解放される。W大学のレポートはすべて見て点数もつけた。あとは用紙に記入するだけだ。Mの方は郵送のレポートがまだ届いていないかもしれないが、そろそろ締切なので点数をつける作業を進めなければならない。それですべての手が離れる。

02/02
かんてき会に出席。よくわからない謎の会合。神楽坂のふぐ料理屋でなぜかアンコウ鍋を食べる。

02/03
W大学の成績は月曜日にレポートを読んで数字はつけてあるのだがまだ正式な用紙に記入していなかった。大学からの書類を読むと明日が締切だと判明したのであわてて記入する。でも月曜に最終授業があって、木曜日が締切というのはちょっと無理ではないか。ついでにM大学の書類を見るとこちらも明日が締切だ。あわてて記入。こちらもレポートと作品は読んではいたのだが郵送で届くものがあるかと記入を待っていたのだ。どうにか2時前に郵便局にもっていけたので、明日中には届くだろう。

02/04
本日も公用なし。しかしメールでいろいろな情報がとびかっている。並行して「白痴」も進めている。まだヒロインが出てこない。この作品はヒロインで決まるといってもいい。まあ、週末に一つの成果を出したいと思う。朝青龍の引退は残念。関脇くらいに降格して相撲をとってもらってもいいのではないか。

02/05
ペンクラブ言論表現委員会。グーグル問題は一段落。その他にさまざまな問題が起こっている。いろんなことを話して、何だか疲れた。

02/06
土曜日。散歩に出るとすごく寒い。今年一番の寒さだ。ひたすら仕事。来週必要な著作権関係のレポートを仕上げる。これに半日とられた。「白痴」も少し進んだが、まだヒロインが現れない。百五十枚を越しているのにヒロインが現れないというのは、いかがなものか。この作品は序・破・急という構成になっている。その序の部分がかなり長い。できる限り力をためておいてから矢を放つ。そんな感じにしたい。

02/07
日曜日。昨日から妻がいない。散歩のついでにコンビニで食べ物を買う生活。自分でものを買って食べるとつい買いすぎてしまって体重が増えそうになるので警戒しなければならない。頭の中は「白痴」で占められているのだが、散歩の途中でふと児童文学のことを考えた。「青い目の王子」。翻訳の「星の王子さま」はべつとして、すでに昨年、「海の王子」を出しているのだが、今回は講談社が青い鳥文庫ではなく、単行本で出してくれるということだし、佐竹美保さんのすごい表紙もできている。すごい表紙というのは、とにかくものすごい表紙なのだ。力を入れていただいたということが、はっきりわかる表紙。講談社の宣伝用の小冊子でもトップで扱っていただいているので、こちらも期待をかけているのだが、ちょっと待てよという気分にもなる。去年「海の王子」を出した時はこんな扱いではなかったので、ひょっとしたら、「海の王子」よりも「青い目の王子」の方が、作品としてすごいのかなとも考えてみた。確かに「青い目の王子」は、すごい話だ。その目の美しさに惚れた女が、王子から拒絶されたので逆恨みして、その目をえぐりだすという、ものすごい愛憎劇なのだ。こんなものを子どもに読ませていいのかというような話なのだが、それを美しい描いた自分の技量を評価したいと思う。でも、「海の王子」も心をこめて書いたのだけどね。しかしファンタジーとしては、お稲荷様が出てくる「海の王子」よりも、象や、鹿や、インコや、ヒマラヤや、仏陀や帝釈天や弁天様が出てくる「青い目の王子」の方が、キャラクターのおもしさはあると思われる。児童文学は年に一冊、と思っているので、次の作品を構想しなければならないのだが、当初は、日本神話と仏教説話を交互に、と思っていた。順番からすると次は日本神話なのだが、「青い目の王子」の方がおもしろいということになると、次も仏教説話で行きたいという思いが強くなった。次に予定しているのは、施身聞偈のヒマラヤ童子の話。これは人を食う悪鬼が歌った四句の偈(四行詩)の前半の二行を聞いて、残りの二行を聞かせてくれたら自分を食っていいと申し出た雪山童子の話。この四行詩は実際に残っていて、「阿修羅の西行」では章のタイトルに用いたのだが、そのままでは子どもに伝わらない。実際に四行詩があって、それを示して、読者の子どもが、こんなもののために命を捨てるのかと、しらけてしまっては身もフタもない。それで、この四行詩をどうするかというのが難問だった。その難問が、本日、散歩の途中に、急に解けた。禅問答みたいだが、こだんこれで大丈夫というアイデアがひらめいた。答えがわかってみれば、なあんだ、というようなものすごい解答なのだけれども、もちろんここには書かない。これでこの次の児童文学は、「ヒマラヤの王子」ということに決めた。
さて明朝はいよいよスーパーボウルだ。わたしは20年くらいにわたってスーパーボウルを見ているけれども、今年ほど楽しみなゲームはない。両カンファレンスとも、自分のヒイキのチームが進出したからだ。だからどちらを応援していいか困るのだが、どちらが勝ってもいいという気分だ。でも、どうなるか、という興味はある。日本人的な判官贔屓では、初のスーパーボウル進出で、5年前のハリケーン被害から復興したニューオリンズを応援したいけれども、わたしはペイトン・マニングを心の底から尊敬しているし、アダイーとかガーコン(背中を見るとフランス語でギャルソンと書いてある地震被害のあったハイチの人)とか好きなプレーヤーもいるコルツも支援したい。去年も、長年ファンだったスティーラーズを応援しているうちに、ものすごくがんばるカージナルスに胸を打たれて、最後はカージナルスを応援してしまった。今年はとりあえず最初からセインツを応援したい。そして、セインツはよくがんばった、しかしコルツはやっぱり強かった、ということになるのではないかといまは思っている。でも、セインツの奇蹟の勝利を期待したい。とにかくセインツが負けても、コルツの勝利を喜べる心境なので、まあ、試合を楽しみたいと思う。これが日本の野球だと、冷静ではいられないのだが。

02/08
早起きしてスーパーボウルを見ている。とりあえずセインツを応援しながら見ているのだが、コルツのディフェンスが元気で思うようにパスが通らない。コルツのパス攻撃も封じられているのだが、アダイーのランニングが好調で、いまのところ10対3でコルツがリードしている。まだ1タッチダウンの差だから接戦といえるが、セインツの攻撃から始まったので、後半はコルツの攻撃から始まる。このままコルツがじりじりと押し切りそうなムードだ。このままの点差で4クォーターまで行ってほしい。ハイチのガーソンがタッチダウンキャッチをしたのは喜ばしい。
ようやくセインツの攻撃が機能しはじめたのだが、あと1ヤードというところでタッチダウンがとれず、フォースダウンギャンブルにも失敗した。しかしその直後のコルツの攻撃を止めて、前半終了直前にキックで3点返した。10対6。接戦だし、コルツの攻撃を10点に押さえているというのはよくがんばっている。さて、後半の最初のコルツの攻撃を止めることができれば、何かが起こりそうな気がする。
後半の最初のキックオフが何とオンサイドキック。これを獲得してタッチダウンにつなげた。逆転。早くも何かが起こった。だが、これでフリダシに戻った感じだ。次のマニングの攻撃を止めないといけない。
と思ったら簡単にコルツがドライブしてまた逆転。ランニングバックのアダイーが今日は大活躍だ。逆に言えばマニングのパスが封じられているのだが、アダイーが個人技でラッシュしている。まだ4点差。ここからの攻撃に期待したい。
この攻撃がゴールキックの3点で止まってしまった。1点差。ここからまたマニングの攻撃が始まる。ここで7点とられると追いつけなくなる。ここを止められるかどうかが運命の分かれ目になる。ここまで両チームともターンオーバーがない。充実した試合だ。
マニングの攻撃は止められゴールキックも微妙にはずれた。セインツの攻撃はタッチダウン。しかも2ポイントコンバージョンが成功したので、逆転した上で7点差になった。奇蹟が起こりそうな予感がする。これでマニングががんばっても同点になるだけで、その後のセインツの攻撃で時間を使いながら得点すると、セインツが勝つのではという気がするのだが、コルツの側がどうやって攻撃を進めるかがおもしろくなってきた。
うわあ、奇蹟が起こった。エースレシーバーのウェインへのパスをポーターがインターセプト。これは試合を決めるターンオーバーだ。あと3分。これを逆転するのはまったくの奇蹟というしかない。ニューオリンズ・セインツが勝つのではないか。これ自体が奇蹟だ。すごい。これで5年前のハリケーンをすべて忘れてしまえるくらいの奇蹟だ。そして、マニングの奇蹟は起こらなかった。セインツの初優勝。いい試合だった。点差は離れたが、終了3分前のインターセプトまでは、どちらが勝つかわからなかった。あの2点コンバージョンで7点差つけたのが大きかった。前半はコルツのフリーニーのプレッシャーが大きくてタッチダウンが奪えなかったセインツだが、フリーニーは痛めていた足が悪化したようだ。セインツもタイトエンドのシャーパーが足を痛めていたはずだが、そのシャーパーが逆転のタッチダウンを決めた。後半はセインツの作戦がことごとく当たった。ヘッドコーチの勝利といっていいだろう。

02/09
9時半に文部科学省。グーグル問題や国会図書館データベースへの文藝家協会の対応について、副大臣に説明。十時まで。自宅に返ってもまだ昼前。一日が長い。夜はメンデルスゾーンの運営委員会。疲れる。
午後、新聞記者からの電話で立松和平の死を知る。続いて文藝家協会やペンクラブからも連絡があった。葬儀は密葬のようだ。中上健次さんが亡くなった時は、死者を悼む気持があるだけで、自分の死のことを考えたりはしなかったが、立松さんがいなくなると、自分もそろそろ、と考えてしまう。とりあえずドストエフスキー論のシリーズはカラマーゾフまでやりたいし、児童文学もあと何冊か書きたい。いま死ぬわけにはいかない。体調に気をつけたい。無理をしないようにしたい。

02/10
羽沢ガーデンを守る会の理事会。この運動に深く関わっているわけではないので、とにかく出席しただけ。夜、実家に戻っていた妻が帰ってくる。ようやく日常が戻ってきた。

02/11
祝日。何の日だ。今日が建国記念日だといわれても、何の根拠もないのだから、この祝日は何とかしてほしい。節分とかを祝日にした方がいいのではないか。そろそろ2章が終わりそうだが、まだ物語の中の最初の一日が終わっていない。まだ設定を語りきっていないところがあるので、長い一日はまだ続く。しかし3章のすべてを費やすわけにはいかないので、3章の途中で時間を飛ばしたい。そこで白痴の行きつけの飲み屋に話を飛ばしたい。「罪と罰」でスヴィドリガイロフが陣取っていたセンナヤ広場の近くの酒場。スヴィドリガイロフはすでに死んでいるので、そのあと、白痴の定位置となっている。これ、むちゃくちゃな話だが、わたしの小説では、ストーリーがつながっているのだ。「罪と罰」に出てきたレベジャートニコフも出したいと、主人公だったザミョートフも最後には出したい。ちょっとしたギャグみたいなものなのだが。

02/12
金曜日。自宅にて毎日小学生新聞の取材。ドストエフスキー論に入ってから頭がロシア語になっているので、新聞記者との接触を断っている。ただでさえ忙しいのに、新聞記者にいちいち応えていることができない。メールのやりとりで情報は発信している。が、本日は本の宣伝。「青い目の王子」の販売促進なので記者に自宅に来てもらって取材を受ける。担当編集者、画家につぐ3番目の読者だから、ありがたい。

02/13
土曜日。パソコンの挙動がおかしい。バッテリーがすぐに減る。バッテリーの劣化か。わたしのラップトップ歴は専用ワープロの時代からだが、パソコンになってからは、W大学からの貸与の東芝4年、ソニー4年、また大学からの貸与のIBM2年、それからいまのHPが3年になる。そのうちバッテリーをかえたのはソニーだけ。つねに自宅での使用なのでバッテリーだけで駆動させることはないのだが。電源コードの断線、または接触不良も考えられるが、ちゃんとつながっているようにも思える。とにかく3年は経過しているので、バッテリーを購入することにした。どこで買えばいいんだ。この前のソニーの時は、渋谷の西口のビックカメラに直接出向いたら、置いてないと言われた。電話をかけて調べてくれて東口店にあるとのことで少し歩いて購入した。そこでバッテリーというものはつねに在庫があるものではないことが判明した。で、ネットで調べたら、バッテリー専門店というものがあることがわかった。購入しようとすると、説明の日本語が怪しい。どうやら香港のサイトのようだ。これはまずいと思い、いろいろ調べて、代金着払いで買えるところを見つけて注文した。350円アップになるが、知らないところにカード番号を教えるわけにはいかない。

02/14
日曜日。冬季オリンピックが始まった。夜中にジャンプのノーマルヒルを見た。スイスのアマンが好調だ。わたしは国粋主義者ではないので、外国人でも応援する。女子モーグルはカナダのハイルを応援していたのだが、カーニーに負けた。上村は4位になったのは気の毒だった。滑った時点で2位で後に4人残っていたのだから、そのままなら6位だと思われたが、2人転んだので4位になった。どうせならもう一人転べばよかった。バッテリーは届いたが、パソコンの調子がよくないので、新しいバッテリーを充電させることもできない。じっくりといろいろと試してみたら、ACアダプターの電線の中で切断があるのではないかと思われる。切れたところがついたり離れたりしているので、バッテリーが放電と充電をくりかえし、急速に劣化したのだろう。もともと3年経過したバッテリーだから替え時ではあるのだが、このままではすぐにまた劣化してしまう。電線はアダプターから直接出ているのでコードだけ変えるわけにはいかない。コンセント側に差し込む電線ははずれるし、これは別売なので、アダプターだけ購入すればいいと考えた。すぐに注文。とにかくいろいろ試してみるしかない。
第二章、完了。ちょうど200枚。つまり1章が100枚ということ。まだ物語の最初の一日が終わっていない。これでは10章まで書いても3日しか時間が経過しないことになる。4章のアタマで時間を二ヵ月ほど飛ばすことを考えている。それから一挙に半年後になる。そんなふうに章のアタマで時間を飛ばして、全体として半年間くらいの時間経過を描くことになる。ともあれヒロインも出てきたし、2人の白痴も出てきたし、ラゴージンも出てきたので、主要登場人物が勢揃いした。まだ出ていない人物としてはエパンチン将軍と、イッポリートの父親くらいが残っているのだが、これはそれほどの重要人物ではない。面白い作品になりつつある。今月の終わりくらいに3章を完了させたい。

02/15
ウィークデーが始まった。本日は文化庁著作権分科会のあと、ペンクラブ理事会。文化庁は午後3時終了、ペンクラブは3時開始。タイムマシンでもなければ移動不能だが、ペンクラブはいつもの茅場町の事務局ではなく、二重橋前の東京会館。霞ヶ関から地下鉄で向かうとぴったり3時に到着した。文化庁の会議が少し早めに終わったようだ。理事会のあと例会と称する懇親会。いつもこの例会には出ないのだが、会長と専務理事に伝えておきたいことがあったので参加。タイミングを見て立ち話。必要なことを伝えたので早めに退出。この例会は平均年齢がいやに高い。しかし今回の例会では急逝した立松和平理事を偲ぶ言葉があり黙祷などもあったので、参加してよかったと思う。立松さんは平和委員会の委員長でペンクラブにはなくてはならない人だった。立松さんとは早稲田文学の編集委員を長く務めた。新宿で飲んだこともある。ずいぶん昔のことだが。最後にお目にかかったのがいつだったか。「道元」の出版記念会には参加した。その後、早稲田文学のパーティーでちらっと話をしたように思う。そうだ、いま思い出したが、一昨年、4人目の孫が生まれた直後だった。立松さんに、おたくは孫何人、と訊くと、5人という答えだったので、負けた(孫の数を競っても仕方ないが)と思った。いまとなれば懐かしい思い出だ。

02/16
ACアダプターが届いた。ただちにパソコンにつなぐ。よく見ると、断線したこれまでのコードよりも、新品はコードが太くなっている。やっぱり断線が多いので太くしたのではないか。車ならリコールになるような欠陥ではないか。

02/17
パソコンは快調。断線したコードは最終的にはほとんどつながらなくなっていた。パソコンの画面の右下にある電源マークがふだんはコンセントの形なのに、円筒形の電池のマークになると、断線してバッテリー駆動になっているという印。円筒形のマークを見る度に何度もドキッとしたし、目をつねに画面の端に這わせなければならないというのが、何とも心休まらない状態だった。ようやくその緊張感から解放された。本日は「なりひらの恋」のゲラが届いたので、パソコンは使わない。メールをチェックしたあとでバッテリーを交換。丸3年経過しているし、今回の断線騒ぎでかなり劣化した感じがするので、早めに交換しておく。ゲラは大きな直しはない。とくに冒頭部分は何度も書き直した確立した文体だから、下手にいじりたくない。漢字の間違いを直す程度で、1章の半分くらいまで来た。全体が4章なので、8日あればチェックが完了する。もっとも明日は飲み会の予定。
夜中のテレビでカーリングをやっている。これは実に面白い競技だ。もしかしたら、アメリカンフットボールと同じくらいに知的でタフな競技ではないか。日本の女の子たちは、最強のカナダを相手に、実によく闘っている。惜しむらくは、戦術では負けていないのに、手に具わった技術が少しだけ劣っている。勝つチャンスは充分にあったのに、チャンスを活かせなかった。そんな場面を見ているうちに、いつの間にか、白痴とイッポリートの議論が驚異的に深まってしまった。この段階でこんな議論をしていいのかといぶかりつつ、もう250枚くらいのところに来ているのだから、深は話をしないと読者に見放されるという思いもある。ここであるレベルの議論をすると、その先ではもっと深めないと読者を感動させることはできない。そのように自分を追いつめて深みへ深みへと導いていくのがこの作品の狙いだ。すでに第1章で、原典の「白痴」では最も深い白痴とイッポリートの議論を提出している。ドストエフスキーが書いた最高に深い哲学議論を冒頭に置いて、その先に進もうというのが今回の狙いなので、ハードルはつぎつぎに高くしていかないといけない。この3章で、第2段階の高さのハードルになった。すごいことになってきたが、これはもう、先に進むしかないのだ。
本日はゲラが届いたので夕方までは「なりひら」をやっていた。夜半までは雑文を仕上げていた。あとはカーリングを見ながら酒を飲んで寝ようと思っていたのだが、カーリング娘たちのがんばりに刺激されて、わたしの頭脳が思いがけずがんばってしまった。ところで、立松和平の死について情報が得られるかと思って『週刊朝日』を買ったのだが、高橋三千綱の与太話が出ているだけだった。高橋三千綱の話は本人の口から同じ話を聞いたことがある。解離性大動脈瘤というのがどんなものかよく知らない。司馬遼太郎はこれで死に、加藤茶は生きのびた。そういう結果だけでは、何が何だかわからない。たとえば、わたしに動脈瘤があるのかどうか。それはわかるのだろうか。血圧とか、コレステロールとか、そんなことが関係するのか。酒がよくないのか。食い過ぎがよくないのか。わたしは酒を飲みながら仕事をするタイプなので、飲むなと言われると、仕事ができなくなる。仕事ができないと、死んだ方がましだと考えるまじめな作家なので、いまの状態をこのまま続けたい。「なりひら」のゲラは冒頭の部分を読んだだけだが、わっ、わっ、すごい作品の雰囲気が伝わっていく。何を書いたかはほとんど忘れていたのだが、すごいことが書いてある。少し歴史にとらわれていて、かったるい。でも、歴史にとらわれないと書く意味がない。空疎なライトノベルを書いても仕方がないのだ。太宰治の「人間失格」や「グッドバイ」の文体で歴史小説を書くというのがコンセプトで、この狙いの面白さをわかってくれる読者が第1のターゲットなのだが、わかってくれなくても、何となく面白いと感じてくれる読者はもう少し幅広く存在しているのではないかと思う。期待したい。そろそろ「青い目の王子」のイラスト入りのゲラも出るころではないかと思う。こちらはもう文章をいじるつもりはないが、自分のとっての最高傑作ではないかと思われる作品なので、もう一度、熟読をして、慎重に考えてみたい。もはやいじらない方がいいという気がするのだが、ケアレスミスみたいなものがあれば発見して修正したい。「なりひら」についても、文体が確立されているので、もはやいまの自分には、修正は不可能なのだ。だから、なるべく加筆は抑えようと思う。去年の11月と12月のわたしが、何かに憑かれたように書いた、そのオートスクリプトのような文章を尊重したい。

02/18
「なりひら」のゲラ、1章終わる。2日で1章のペースで見ていきたい。中村くん来る。他1名。これは昔の「海淵」の編集者。三宿で飲む。かなりいい気分で飲んだ。

02/19
大手町で協議会。報告者が何人もいたのでただ聞いているだけだったが、最後に一言だけ発言。何かしゃべらないと行った甲斐がない。その後、文化庁へ。著作権課長が会いたいと言ってきたので出向いた。電子書籍について意見交換。今日は何だか疲れた。花粉が舞っているのかもしれない。

02/20
土曜日。カーリングを見て興奮。コーラス。久々のほぼ全員参加。明け方ジャンプを見る。けっこうオリンピックを見てしまう。

02/21
日曜日。雑文3件、片づける。雑文といってもそれぞれ大切な原稿。心をこめて書く。

02/22
今週は公用が少ない。ありがたい。リミットが近づいてくるので「なりひらの恋」のゲラに集中。

02/23
『青い目の王子』の最終ゲラ届く。さし絵が入っている。佐竹美保さんの素晴らしい作品。児童文学の喜びはここにある。もはや自分の書いた文章とは思えず、文章に手を入れることはできない。すごい作品だなとひたすら感心するし、読むと涙ぐんでしまう。これと同じくらいのレベルのものを次々と書けといわれも難しいが、もしかしたら、あと一つくらいは書けるかもしれない。気持を立て直して次の作品に挑んでみたい。
『なりひらの恋』ゲラ完了。一日で2冊のゲラが完了した。これで今年に入って3冊目と4冊目の本が出る。5冊目はいま書いている『新釈白痴』だ。あと1冊くらい、年内に出せないかと考えているが、白痴はあと何ヶ月かかかるだろう。その間に、何かアイデアが出てくるかもしれない。

02/24
すべての作業が終わって『白痴』だけが残った。少し前に進んだ。白痴の告白。主人公のキャラクターを示す重要な部分。これで作品の深さが読者に伝わることと思う。全体の3分の1くらいのところ。中盤の手前で全体の構想が読者に提示されるようになっている。夜はW大学の懇親会。今年で文芸専修は終了する。わたしが学生として大学に入った年からスタートした専修で、わたしは文芸に入ったわけではないのだが、非常勤として9年、客員教授として6年つとめた。新人賞を5人出した。いまは文化構想学部の講師として2年目が終わったところ。あと1年で辞めさせていただくと伝えた。後期だけとはいえ、公用が多忙になってきたので、これ以上は続けられない。合計すると18年、先生としてW大学に通うことになる。学生としても5年通ったので、ずいぶん長い時間をここですごした。懇意の先生方も多く、ここを去るのは寂しい気もするが、あと1年、つとめを果たしたい。

02/25
創作者団体協議会幹事会。久しぶりにジャスラックへ。往復徒歩。4月の気温とかで風が心地よい。

02/26
雨。風雨をついて散歩。あとはひたすら「白痴」。

02/27
土曜日。何事もなし。姉の三田和代さんを呼んで宴会。姉は旅役者。長い地方公演から帰ってきた。わたしより何歳か年長なので、長期の地方公演は疲れるだろうと思う。わたしは作家だから、たいてい自宅で仕事をしているのだが、それでも地方に講演に行くことがある。それでもたいていは日帰りか一泊程度の旅だし、講演は一人でしゃべればいいだけなので楽な仕事だ。講演の嫌いな作家もいるだろうが、わたしは大学の先生をしているので、しゃべることには慣れている。ただ往復の交通機関は確かに疲れる。旅役者というものは、移動してその日の夜に公演ということも多く、厳しい肉体労働だし、一座の座長みたいな感じで旅をするのは疲れるのではないかと思う。まあ、姉はわたしに比べて、精神的にも肉体的にもタフな人間だし、それが生業なので慣れているのだろう。

02/28
日曜日。何事もなし。


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