※このコンテンツでは、再現映像をまじえてレポートしています。


「走れ、もっと力強く!」

〜team138(仮) LEADio製作プロジェクト〜





2002年8月、1台のDIOが三重県桑名市のとあるガレージに運ばれた。その黄色い車体は、チーム138(仮)のシンボル的存在としてこれまで様々な手段が施されていた。

そして今、限界を超えるためにやってきたのだった。
傍らには一人の男が付き添っていた。




DIOオーナー、横井。

ことの起こりは、彼の発案だった。
それまでの性能に不足を感じていた彼は、さらなる性能を求めその方法を考えていた。

ボアアップを組み込んでも、その排気量には限界がある。
手作業によるポート加工などもあるが、それにも膨大な手間と費用がかかる。

そこで思いついたのが、エンジンそのものを換えてしまう事である。
選んだのは89ccの排気量を誇るホンダの2種モデル「リード90」のエンジン。
このエンジンなら、現在のエンジンでは不可能な排気量まで、一気に大きくすることができる。
他にも成功した例があり、「これならいける!」 そう思った。





だが、そこで重大な問題が浮上したのである。

電気系統は問題ない。だがエンジンマウントの形状と位置が全く異なっているのである。従ってなんらかの方法で車体構造そのものを変更するか、多少の無理を承知でエンジンマウントを作り直さなくてはならない。
早速彼は、チーム138(仮)を名乗る仲間たちにこの計画を持ち込んだ。

彼らはこれまでにも、それぞれのマシンに熱い魂をそそぎ込んできた猛者達だ。

これまでスーパーDIOで同様の改造に成功した例があったが、それらは何らかの使い勝手を犠牲にしなければならなかった。その上、横井のDIOはより旧式のAF18型である。まったく同じ手法はできない。

「この作業は、慎重に進めるべきだ。」
そうかたくなに訴える男がいた。



チ−ム138(仮)メンバー、浅野だ。

彼はこれまでにも、スーパーDIOやPALへのリード90エンジンのスワップを経験してきた人物である。しかしそれは苦闘の連続でもあったのだ。

自身の苦い経験から、横井の理想とするプランに安易な方法は使えないことを悟っていた。
これまで知られている方法では、オイルポンプやセルモーターなど、エンジンの装備を使うことができなかったのだ。
自分で取り扱うのなら、多少の無理や勝手の悪さは目をつむることができる。しかしそれが横井にとって重大な負担になると思ったのである。



浅野はなんらかの方法で理想的なエンジンスワップを実現できないものか、苦慮していた。
そんなおり、とある知人が製作したスワップマシンを見る機会があった。

「四軒家の狼」の通り名で呼ばれる男が製作したマシンだった。
 

浅野、まさに目から鱗が落ちるようだった。
目の前に存在するマシンは、ほぼ理想的な装備を実現していたのである。

「この方法なら、理想を実現することができるかもしれない!」
浅野は早速、四件家の狼に協力を要請した。四件家の狼はこれを快諾。以降、強力な助っ人になった。


横井は、エンジンを求めネットオークションを探した。
リード90のエンジンは、予想を超える高値で取引されていた。
だが、全てはエンジンがなくては始まらない。

勝負に出た。
きっとチーム138(仮)のメンバーなら、投資をしても余りある成果を上げてくれるに違いない。
横井はそう信じた。
問題は他にもあった。エンジンは入手の目処が立ったものの、まだ必要なエンジンマウントが入手できていない。

幸運に恵まれた。
エンジンマウントを、他からの好意でわけて貰う事ができた。



浅野は早速、四件家の狼の例を参考にプランを練った。

例では車体がスーパーDIOであったため、そのまま同じ事をしても無理だ。AF18の車体にあわせて設計を変更する必要があるのだ。

もともとエンジンハンガーの位置が違うため、新規に取り付け位置を設けなければならない。そのために四件家の狼は、強固な部材でアダプターを設計し、車体に取り付けていたのだ。

これを参考に、強固な部材で組んだアダプターを、なんらかの方法で車体に取り付けることにした。ただ、取り付け方法、位置などを工夫して、限られた機材での作業、より低コストな方法を模索していた。

しかし、なかなかプランはまとまらなかった。
メットインスペースの下方にあたるフレームに部材を橋渡しに取り付け、そこにアングル材を介してエンジンハンガーをマウントする。だがそれでは、フレーム側の支持ポイントが2カ所しかないため固定を確実にしなければならない。
しかし円筒パイプのフレームにボルト固定用の穴をあけるのは困難が予想された。
ここにUボルトを使い、穴あけをなしで行く方法も検討した。だがそれでは、どうしても部材が大きくなり、カウリングにあたり外観を損なう恐れがあった。
溶接での固定も考えた。だが技術が未熟なため、溶接のみでは強度に不安が出る。また、チーム138が作業場としている横井のガレージでは、必要な機材を揃えることができない。

「設備なら、ウチのを使ってくれ。」
1人の男が手をあげた。

チーム138のメンバー、丸藤である。

浅野は、これまでにも何度か丸藤のガレージで共同作業をした経験があった。
「あのガレージの設備なら、作業が進められる。」
そう思った。

早速、横井が丸藤のガレージにDIOを移送する手筈を整えた。





●チーム138(仮)のみんなでツーリングに行ったときの写真です。なんでチーム138(仮)っていうかというと、愛知県一宮市(あいちけんいちのみやし)を主な活動拠点にしているから。

(仮)ってなに?・・・なかなかチーム名が決まらなかったときの名残みたいです(笑





丸藤のガレージに移送されてきたDIOは、既に外装とエンジンが外され作業を待つばかりであった。傍らにはボール盤やブラストキャビネット、自作のバッテリー溶接機材もあった。
機材は十分。様々な作業が可能になった。

浅野、エンジンを車体に近づけ、マウント方法を検証した。
「下側のピポットも使えるかもしれない。」
不意にアイデアが浮かんだ。

ホームセンターで安価に売られていた汎用部材を取り出すと、目測で必要な長さを決め、切り出し、穴をあける。
そして車体にそれをあてがうと、左右の幅のズレにあわせて器用に部材を曲げ加工した。

浅野自身が「エーモンステーテクノロジー」と名付けた常套手段である。この方法で、浅野は過去に様々な作業を施してきたのだった。

その部材を使い、早速仮どめをした。

横井、仮どめに成功した姿を見てはしゃいだ。

しかし新たな問題も発生した。
「ショックアブソーバーの取付角があわない。キャブレターとエアクリーナー、シュラウドに干渉してしまう。」

皆が愕然となった。

車体側にショックアブソーバーのマウントを新設する案も出たが、それも困難だった。丁度オイルタンクの真下。車体側にはそれに適したフレームなどなかった。


浅野が言った。
「他の例でも車体側のショックマウントは使える。どこかに原因があるはずだ!」

原因は、エンジンマウントの位置だった。
これの高さを変更することでエンジン全体の角度がかわり、干渉を最低限に抑えることができることがわかった。


仮どめに成功した後、浅野は自宅に戻り部材の設計に着手していた。

エーモンステーテクノロジーは仮どめには有効だが、強度面には不安があった。横井が使用する以上、不安のある仕様にはしたくない。
そこで四件家の狼の協力のもと、強靱な部材を製作することに決めたのだった。

寸法どりは、仮どめ時のデータをもとに、さらに30ミリ下にくるように計算した。
部材は5tという強靱だが加工の困難な部材を使うことにした。


(※画像をクリックすると、より大きな画像になります。)
(※図面検討上で、一部間違いがあります。短い方のスペーサは右側45ミリ、左側25ミリとしてください。また、免振マウントのネジ穴位置も横に10ミリ変更してください。メーンフレームとの接合部分は、フレームの位置を逆にして配置したのち、溶接としました。)
(※車体側は、下側のエンジンマウント取り付け部材の一部(箱状になった所の内側への折り曲げ部分)を削り落とし、セルモーターと干渉する部分を折り曲げ加工が必要になります。)
(※その他現物あわせすると、若干きつくて入りにくかったりします。下側のマウントはほんのすこし内側に曲げても良いです。)

できあがった図面を、四件家の狼のもとに持っていった。
浅野は、図面に無理や不足がないか心配だった。

「この図面で、製作できるか?」
その問いに、問題ないところろよい返事がかえってきた。
うれしかった。

だが、スペーサーは他の業者でないと製作できない。ならばと、ナットやワッシャを駆使して代用することを思いついた。



部材は、1週間ほどで出来上がった。いよいよ車体に組み付ける時だ。
実際に組み付けると、左に10ミリのズレが出た。

採寸のミスだった。
「失敗か!?」
浅野、後がなかった。

「スペーサーの代用に使っているナットの数を変更すれば、補正が可能だ。」
とっさの判断だった。
車体に対して、マウントの幅がわずかに大きく、入らない。
ハンマーでたたいて微妙な曲げをつくった。

エンジンを載せるのに、人力で持ち上げて保持しなければならなかった。
横井、指先に渾身の力を集中した。
エンジンを載せ角度をあわせようとすると、部材が車体の1部に干渉した。
設計どうりの位置に置くことができない。
「上側の部材の向きを反転させれば、なんとかなる。」
丸藤が意見を出した。

こうすると、エンジンハンガーのボルトが外から脱着可能になり、部材の固定にも利点があった。

そうしないと、車体と部材の固定をボルトによる脱着式にしなくてはならない。だがそれは最も困難な作業のポイントと考えられていた車体の円筒部分への穴あけ加工を意味する。それが一気に解決できた。
車体の円筒部分と部材の固定に、溶接が可能になった。
下側の固定にボルト、上側の固定に溶接を用いることで、心配の少ない2方式による4点固定となった。

ショックアブソーバーの固定は、エンジンの位置がわずかに変更できたことで可能になった。
横井がハンドソーで左シュラウドの1部を切り取る。

しかしアショックアブソーバー自体の長さが足らない。

「わかった、俺の車体から部品を外して使おう。」
丸藤が自ら制作中だったスカッシュから、ショック延長アダプターを外した。

英断だった。

(※出来上がったところです。ハンガーの形状とか固定方法の参考にしてください。リヤフェンダーはどうしてもタイヤにあたってしまうためカットしてあります。)





●まだ50ccの頃のDIOです。前後キャストホイールにエンジンはスーパーDIOに換装。バーハンドルはクレアスクーピーの部品を流用してます。

このマシン、横辰さんがキレイに乗ってます!
鉄馬祭に行ったときには雑誌の取材もうけてたし、KN企画さんのホームページにも載せていただいています。

チーム138(仮)の看板マシーンなんですよー





02年9月。横井のもとにDIOが帰ってきた。
排気量を89ccにまで高めた車体は多少全長が延びたものの、横井はそのその勇姿に見とれた。

 

「まだまだパワーアップしよう。」

これから先の黄色いDIOの行く末は、まだ誰もわからない。