◆７月２７日＜朝＞◆
『海を去る日』

「お前が、あの優紀とねぇ…」

　含みのある笑い方をしながら姉貴が俺の横を歩く。

　今日はとうとう家に帰る日。
　俺は途中まで送ると言った姉貴と共にバス停へ向っていた。

「なんだよ。変か？」
「いやぁ、あの甘えん坊の優紀が、お前みたいな子供を相手にするなんて意外だと思って」
「悪かったな子供で」

「まぁ、頑張れよ。いろいろと障害もあるだろうけどな」
「その障害の原因の一つに励ましてもらってもなぁ」
「私としては予想外の展開だったが、万事丸く収まったので文句はない」
「あのな…」

　おどけた表情で言う姉貴。
　なんかそういう言い方されると、踊らされたみたいで少し悔しい。

「姉貴、あの夜、俺を康太郎義兄さんに浮気させない為の見張りとしてパーティーに行かせたんだろう？」
「まぁね。それと優紀に対する牽制。まさか実弟が来てる前で浮気を迫ろうなんて思わないだろうからな」
「まったく…」
「いいじゃないか。そのお陰でお前は優紀と親しくなれたんだから」
「はいはい」

　白々しくいう姉貴。俺は深くため息をつく。

「あっ、用事を思い出した。わたしはここで帰らせてもらう」
「なんだよ急に」

　急に立ち止まって引き返そうとする姉貴。

「いいから。それじゃぁ気を付けて帰れよ。親父達によろしくな」
「？？？」

　俺は怪訝な表情で姉貴を見送る。
　変な奴だな…なんだってんだよ。
　まぁ、いいか。

　ふたたび俺はバス停に向かって歩き出した。