Marine Blue Serenade
■7日目■
【 朝 / 昼 / 夕 / 夜 】
◆7月27日<朝>◆
『最終日』
とうとう俺が家に帰る日がやってきた。
姉貴達に別れを告げてバス停でバスを待っている。
振り返れば長いようで短い旅行だった。楽しい事もあったし辛く悲しい事もあった。しかし今回の旅行は俺の今までの人生の中で最も輝いていた一週間だったのかもしれない。
「まこと!」
呼ばれて振り向くと、姉貴が小走りで俺の前にやって来た。
「なんだ、姉貴。俺、忘れ物でもしたか?」
「ちょっと見送りにな。ところで直美ちゃんの事なんだが…」
「わかってるよ。彼女とは昨日話した」
「ぜんぜん分かってないじゃないか、彼女の気持ち。さっきお前が家を出ていくとき、彼女、二階から寂しげにお前の方を見ていたぞ」
姉貴は手を腰にあてて俺を見る。
それくらい俺だって気が付いていたさ…。
「でも、俺にはどうしようもないよ。お互いの居場所が、こんなに離れていたら…」
「お前なぁ、離れてるったって隣県同士たかが数百キロじゃないか。外国にいるとかじゃないんだぞ。まこと、彼女の事本当に好きなのか?」
「す、好きだぜ。今まで会った誰よりも…悪いか?」
「悪くはない。じゃあ何でつき合うなりなんなりしない」
「だって、遠距離恋愛なんて長続きするわけがないだろ?」
「じゃあ、お前の気持ちは偽りなんだな」
「違う! でも現実じゃどうしようもないだろ?だから一般的には長距離恋愛は…」
「お前なぁ、試してもいないうちからあきらめてどうする。長続きしないなんてやってもいないのになんでわかる?」
姉貴は少し怒ったように俺に言った。
思わず俺も声を荒げ、答える。
「だって無理だよ! 俺は高校生だし、直美さんはここが気に入ってるし」
「あのなぁ、どんなにお互いの物理的距離が離れてたって、精神的距離が近かったら、本当にお互いを想う気持ちがあれば、長距離だろううとなんだろうとやっていけるさ。お前は距離が離れてることに理由付けして逃げてるだけだ」
姉貴は諭すように静かに俺に言う。
「でも、直美さんだって無理だって…」
「馬鹿か? お前は。男なら「距離なんて関係ないさ」ぐらい言えないのか? 直美ちゃんはまことの言葉を待ってたのかもしれないのだぞ」
「……」
確かにそうである。
悔しいが姉貴の言うことはもっともだった。
体裁のいい逃げ口実で、俺は大切な事から逃げていたのかもしれない。
「まぁいい。家に帰ってそこの所をよく考えてだな、夏休みの終わり頃でもまたこの町にくればいい」
「姉貴…ありがとう」
そこで、ちょうどバスがやってきた。そして俺はバスに乗り込む。
「姉貴、世話になったな。康太郎さんによろしく」
「じゃあな。夏休み中にまた来たくなったら電話しな」
俺がうなずくとバスのドアがしまってバスは走り出した。
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