■直美編■
2日目【7月22日】


 
 
Marine Blue Serenade
2日目

【 朝 /  /  /  】


◆7月22日<朝>◆
『澄み渡る空の青』



 さて、三本松町へ来て初めての朝だ。
 今日も外はスカッとした快晴。せっかく海に来てるんだ、暑くても天気がいい方がいいよな。
 う〜ん、やっぱり日頃の行いがいいからなぁ。うん。うん。

 とりあえず庭でゆっくりしていよう。

 「おはよ! まこと君」
 「あっ、直美さん。おはようございます」

 直美さんはシーサイドパークの帽子にTシャツにショートパンツとジョギングでも行くような格好をしている。

 「なんだか、退屈そうね。いまから散歩にいこうと思うんだけど行く?」
 「散歩ですか?」
 「なによ、年寄り臭いって言いたいの?散歩は健康にも美容にもいいのよ。それに結構長い距離歩くんだから」
 「おはよう、直美ちゃん。お、早速デートのお誘いか?」

 姉貴がからかい口調で割り込む。
 うわぁ、ややこしいのが出てきた。

 「そうなんですよ。せっかく散歩に誘ってあげたのに年寄り臭いってつきあってくれないの」
 「誰もそんなこと言ってない!」
 「まこともたまには運動してこい。部活に入っているわけでもないし家でも運動らしい運動やってないだろ?」
 「わかったよ」

 と、いうわけで、俺は直美さんと散歩に行くこととなった。

 それから1時間ほど歩き続ける。
 最初は元気でふざけたりしていた俺も、だんだんと疲れてきて、今は無言で直美さんの背中を必死で追っていた。 最初は海沿いの国道を歩いていたのだが、途中から山に入った。
 整備された遊歩道を歩く。
 けっこう階段がきつい。森の中、蝉の大合唱が暑さをさらに誇張し、汗がどんどん落ちていった。

 確か弘の話だとこの辺りは国定公園なんだよな。
 大きなキャンプ場もあるらしい。海と山、両方を楽しめるのでキャンプやハイキング目的でやってくる人が多いとか。この先には天狗岩という景色の名所があったはずだ。

 ふう。ふう。
 直美さん何処まで歩くつもりだよ。
 登り坂がきつくて歩く速度が落ちたので彼女とずいぶん離れてしまった。

 「直美さん、待って下さい。少し休みましょうよ」
 「情けないわね…。男でしょ。もう少しだからがんばってよ」

 直美さんが振り返り腰に手をあてて俺を見下ろした。待ってくれるみたいだ。いまのうちに彼女に追いつこう。

 「でも、ずっと歩きっぱなしで…足が…痛くって…」
 「博子さんの言った通りね。まこと君、少しは日頃から運動しないと、これくらい歩いただけで息をい切らせていたら、歳をとってからから大変よ」
 「直美さんは全然平気なんだね」
 「軟弱な都会の若者と一緒にしないで。これでも体力には自信あるのよ」

 得意げに胸を張る直美さん。こんなに階段を上って来たのに、息ひとつ乱れてない。

 「ところで、何処まで歩くの?」
 「ほら、そこよ」

 森を抜けると、一面に草原が広がっていた。その向こうには青々と夏の色をした海と空。緑の合間を縫うようにして遊歩道がある。直美さんは遊歩道を抜け出して、丘の上へ駆け出していった。

 「まこと君もこっちにおいでよ。ほら、海がこんなに綺麗」

 緑に輝いて振り向く直美さんの笑顔にドキリとした。俺は生き生きとした彼女にちょっと心惹かれていた。

 「私、この緑の匂いが好きなんだ」
 「ここに来たかったわけだ」
 「いい所でしょ? いつもは一人でしかこないんだけど今日は特別」
 「それは光栄だね」

 緑が眩しい。草の香りが漂う芝生に直美さんを追って足を踏み入れる。

 「昼もいいけど、夜もいいわよ。星がとっても綺麗で。夏場は虫が多いから来ないけど、他の時期なら天体望遠鏡をもってよく来るの」
 「星とか好き?」
 「本格的にはやってないけど、夜空を眺めるのは好きよ。嫌なことがあっても、星を見てると心が落ち着いて優しい気持ちになれるの。まこと君もそう思ったことない?」
 「俺ん家から星はあまり見えないから…」
 「そうなの? まあ、都会の方だからね。よし、機会があったら一緒に星を見に行こうよ。夏場は海岸によく見に行くんだ」

 生き生きと話をする直美さんの横顔を見る。
 出会ったばかりなのに、俺に親しげにしてくれる彼女。

 直美さんってもしかして俺のこと気に入っているのかな? それとも元々こういう性格なのかな?
 俺の隣で柵に寄りかかり海を見ている直美さんを横目で見ながら朝の風を感じていた。