「ああ、ごめん。気付かなかった」
俺は荷物を膝の上に抱えた。彼女のこちらを見る視線から威圧感がなくなる。
「分かればいいのよ。最近はこの時間帯でもけっこう混んでいるもんね。荷物おいてて、座れない人がいたら可哀想でしょ?」
「そ、そだね」
その女の子は少し微笑んだ後、それ以上、こちらに関心がないといった感じで、窓の外を向いて外の景色を眺めてた。
それにしても、すごく勇気がある子だなぁ。知らない他人のマナーの悪い所をちゃんと注意できるなんて、なかなかできるもんじゃないよ。
電車はその後、しばらく森林地帯を走る。
景色が市街地に変わったかと思うと、駅に到着のアナウンスが流れた。
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