■直美編■
1日目【7月21日】


 
 
 「ああ、ごめん。気付かなかった」

 俺は荷物を膝の上に抱えた。彼女のこちらを見る視線から威圧感がなくなる。

 「分かればいいのよ。最近はこの時間帯でもけっこう混んでいるもんね。荷物おいてて、座れない人がいたら可哀想でしょ?」

 「そ、そだね」

 その女の子は少し微笑んだ後、それ以上、こちらに関心がないといった感じで、窓の外を向いて外の景色を眺めてた。

 それにしても、すごく勇気がある子だなぁ。知らない他人のマナーの悪い所をちゃんと注意できるなんて、なかなかできるもんじゃないよ。
 
 電車はその後、しばらく森林地帯を走る。
 景色が市街地に変わったかと思うと、駅に到着のアナウンスが流れた。