■美和編■
2日目【7月22日】


 
 
Marine Blue Serenade
2日目

【 朝 /  /  /  】


◆7月22日<朝>◆
『弘と美和と』


 


「まことよ〜、なんか退屈そうだな。心配するなよ、俺は昼過ぎには消えるから」

 天乃白浜海水浴場。
 今は朝の11時位か。

 今日もまったくもって見事な夏空が広がっている。
 そろそろ海水浴客の数も増えてきて真夏の一日、いよいよ本番と言ったところだ。
 俺と弘、そして小野寺さんは昨日の約束通り、このビーチにやって来ている。

 いつもは遅刻の常習犯である弘だが、小野寺さんが無理矢理引っ張ってきたみたいで、時間ぴったりに二人は現れた。

 今は小野寺さんは海に泳ぎにいっていていない。俺と弘の二人で体を横たえて肌を焼いていた。

「なんだよそれ。それじゃぁ、俺が無理に頼み込んでるみたいな言い方だな。もともとお前が言い出した事じゃないか?」
「まあ、そうだけどさ…。でもお前だってまんざらじゃないんだろ」
「そ、そんな事は関係ないだろ。それにしても、弘。もしお前がその相手と一緒の時に、俺達と鉢合わせたりしたら、どうするつもりなんだ?」
「あ〜、それは大丈夫。俺、待ち合わせ三本松海岸の方だから」
「じゃあ、あそこまで行くつもりかよ」

 三本松海岸はここから東へ徒歩で20分くらい行った所にある海水浴場である。

 この町には西に天乃白浜、東に三本松と大きな海水浴場が二つある。
 天乃白浜の方は設備が充実しているのと、地形的にいい波がうち寄せるなどの条件から若者向き、三本松の方は穏やかな波と何処までも遠浅の海なので家族向きと言った感じだ。海の家が建ち並ぶ三本松は昔ながらの日本らしい海水浴場といえるだろう。

「当然だろ? せっかく上手くいっているのに、変な誤解でおじゃんなんて避けたいからな」
「はいはい。まったくお前らしいよ」

 内容はともかく、こういう行動力というか努力は確かに感心する。

「まぁ、昼飯食い終わった後に俺は消えるから、その後はよろしく」

 まったく暢気な奴だ。
 俺は小野寺さんと二人になるって言うだけでけっこうドキドキしてると言うのに。
 こいつはこの後、知り合ったばかりの女の子と二人で会うのによく平然としてられるなぁ。
 この度胸を見習いたいものだ。

「ほぉ〜ら、二人ともなにそんなところに転がってるの。アザラシの日光浴みたいだよ〜。ほら、泳ごうよ」

 なにがアザラシの日光浴なんだか分からないけど…。

「お前、昨日、国営放送の特集見ていやがったな」
「あは。ばれた?かわい〜よね。赤ちゃんなんてぬいぐるみみたいで」

 なるほど。昨日のTVでアザラシの特集やっていたんだな。「北の海、最後の秘境・○○島〜動物達の楽園〜」なんてタイトルでやっていたのに違いない。
 でも、二人ともシブイな〜。
 俺なんて家族とかが見てない限り国営放送ってめったに見ないのに。

「そんな事はどうでもいいから行こうよ」

 小野寺さんは弘の腕を持って立ち上がらせようとしている。弘の方は抵抗してなかなか立ち上がらない。

「嫌だよ。かったり〜よ」
「もぉ! なにしに海に来てるのよ。せっかく来たのに泳がなきゃもったいないって」

 弘の腕をぶらぶらさせて起きあがらせようとするが、弘が彼女の手を払いのけた。

「まったくガキじゃあるまいし…。俺はここでこうして寝転がって女の子達の水着姿を楽しんでいれれば幸せなんだよ。ついでにビールなんてあれば最高なんだけどな」
「弘、それもの凄〜くオジサン入っているよ。格好悪ぅ〜」
「何とでも言ってくれ」

 小野寺さんは深くため息をつくと俺の方を見る。そして俺を手招きして呼んだ。
 彼女の隣に行くといきなり顔を近づけてきた。俺は少し驚いたがすぐその意図に気づいて俺も彼女に顔を寄せる。
 そして彼女は俺にある事を耳打ちした。もちろん弘は気付いていない。

「弘。ど〜しても動かないって言うのなら私にも考えがあるからね」
「はいはい」

 目をつぶったまま手を振って受け流す弘。その間に俺は奴の足の方へ近づく。
 それを見て小野寺さんが強くうなずく。

「じゃあ、行こう、宇佐美君。弘を連れて」
「まったく。俺は行かないって言って……うわぁ!!」

 小野寺さんはとっさに弘の両手をつかんでひっぱりあげる。それと同時に俺は足をつかみ引き上げる。
 手と足を引っ張られてハンモッグ状に体を持ち上げられた弘を二人で波打ち際まで抱えて行く。

「わ! 馬鹿、止めろ。格好悪いだろ! 降ろせよ、まこと、てめぇ〜、痛っ、美和〜そんなに引っ張ったら腕がもげちまうって!!」

 などと叫びながら抵抗する弘。それにかまわず海にざぶざぶ入っていく俺達。
 ある程度まで入ったところで立ち止まる。

「宇佐美君、行くよ〜。せ〜の」
「あ、アホ! まさか…止めろって…おい!!」

 本気で焦る弘を俺達は思いっきり海面に放り投げた。
 思いっきり波と激突して沈む弘。
 おや?浮かんでこない。
 俺達は顔を見合わせた。

「まさかねぇ…」

 俺達がゆっくりと近づくと、弘が姿を表しゆらゆらと起きあがった。

「お〜ま〜え〜ら〜な〜」

 凄い剣幕で俺らを睨む弘。俺達は思わず立ち竦んだ。

「人を殺す気かぁぁぁ! 一瞬、死んだ婆ちゃんが白い世界で手招きするのが見えたわい!! お前らも同じ目に遭わせちゃる!!」
「逃げろぉぉ!!」

 俺と小野寺さんは一目散に海岸を走り、弘から逃げた。

「まてぇぇ! 絶対に許さん!!」

 俺達はけっきょく捕まって、一人ずつ海面に投げ捨てられた。