ま、いいか。
もし間違っていたら恥ずかしいもんな。
だいたい、俺の知ってる真澄ちゃんって、あんな感じの娘じゃなかったしな。
俺は彼女たちに関心を無くしてそのまま少し眠った。
しばらくして暑さに目が覚める。
何気なく周りを見渡す俺。
相変わらず家族連れやカップルばっかりだ。
隣にいる恋人達が楽しそうに話をしている。時々お互いをつつきあったりして…。
そんな中に一人の俺って…なんか惨めな気分になって来たぞ。
おや?
視線を空に戻そうとした時、一人の女の子が目に入った。
サングラスをしているので、はっきりとはいえないが、相当の美人だ。
腰まである長く綺麗なストレートの髪を潮風になびかせ、海を眺めながらこちらに歩いてくる。
俺より少し年上だろうか?
赤いセパレートタイプの水着がよく似合ってる。
腰の括れ、スラリと伸びた足の脚線美がスタイルの良さを強調していた。
周りの他の野郎達も彼女に視線を巡らせているようだ。
隣のカップルはいつの間にか険悪な雰囲気になってる。彼氏がその美人を目で追った事に彼女が腹を立てて拗ねているらしい。
俺も彼女に目が釘付けになっていたが、あんなに美人ならどうせ彼氏付だろうと視線を外して寝転がる。
あ〜あ、やっぱ軽い思いつきだったなぁ。だいたい一人でナンパなんて俺が出来るわけないよ。弘じゃあるまいし…。
「ねぇ、君?」
最近、俺はあいつに感化されすぎなんだよ。
こんなやり方で恋人を見つけようなんて良くないよな。だいいち俺は…。
「ねぇってば、聞こえてないの」
「え?」
俺は声をかけられて慌てて飛び起きる。
そして相手の顔を見て、さらに慌てた。
さっきの綺麗な女の子だ。
「な、なんでしょう?」
我ながら間抜けな受け答えをしてしまう。
「さっき、わたしの事、じぃ〜と見ていたでしょう?」
「え? いや、その…」
少し怒ったような素振りで俺を見る彼女。俺は恥ずかしさで頬が熱くなる。
「もしかして、君、わたしに気があるのかな?」
そういって俺の顔をのぞき込む。
な、なんなんだいきなり。
美人だけど、なんだか馴れ馴れしいぞ。
でも、これって逆ナンパっていうやつじゃぁ…。
「君、一人? だったらわたしと遊ばない?」
「え?えええ〜?」
もう頭がパニックになってしまう。
そりゃぁ、こんな綺麗な娘に誘われて嬉しくない訳じゃないけど、なんか話が上手すぎるんじゃないのか?
「ほら、立って」
彼女が俺の腕を引っ張って立ち上がらせる。
「ちょ、ちょっと待て! いきなりなんだ? だいたい君は何者だよ」
彼女から少し乱暴に手を離す。
「ぷ……ふふ…ふふふふ」
急に堪えきれないように彼女は笑い出した。俺は思わず身を引いてしまう。
もしかして見かけによらず、危ない奴?
「あはははは! まだ気付かないの、宇佐美君」
「え?」
突然名前を呼ばれて驚く。
「わたしよ。わ・た・し」
そういってサングラスをずらして目を見せる彼女。
あ……、あれ、なんで?
そこには見慣れた顔があった。
「小野寺さん!」
「びっくりした?」
「そ、そりゃあ、まぁ」
「こんなに上手くいくとは思わなかったなぁ。あ〜、もしかして、宇佐美君の中では、わたしってそんなに存在感なかったの?」
彼女はすこし怒った表情をして俺を見上げる。
「い、いや、そういうわけじゃぁ、…それより、どうしたのこんな所で」
「どうしたって、いやだなぁ。宇佐美君に会いに来たに決まってるじゃない」
「え?」
俺は思わず彼女の顔を見返してしまう。
「三人で海で遊べるなんて、こんな時しかないでしょ?」
「三人?」
「もちろん弘も来てるのよ。まったく、あいつってば、何処にいちゃったんだか…」
そういって辺りをきょろきょろする小野寺さん。
やっぱ、そんな事だろうと思ったよ。
わざわざ俺の為だけに来てくれるわけないもんな…。
少しがっかりしたけど、嬉しいのは嬉しい。
一人じゃ寂しかったし、小野寺さんの水着姿も見れたし。
「え? 何? あんまり似合ってないかな? この水着」
彼女は自分の姿を見下ろして言う。
あちゃ、まじまじと見るからだぜ。
「あ、いやぁ、凄く似合ってると思うよ。うん」
俺は思わず目をそらして答えた。
「本当?ありがとう。これ、お気に入りなのよ」
小野寺さんは嬉しそうにくるりと回ってみせた。
|