「姉貴、俺、やっぱり、家に帰るわ」
海から戻って来た姉貴に、俺は帰り支度をしながらそう告げる。
せっかく来たのだが、あまり楽しくない。ちょっと疲れも感じるし、とりあえず、帰って休もう。まだ6日もあるんだ。海に来るチャンスはいくらでもある。無理しないほうがいい。
「帰るって、ちょっと、来たばっかりじゃないか?」
「なんだか、一人だとやっぱりつまらないや」
「一人って、私たちがいるだろう?」
あのなぁ…。
これじゃあ一人で来てるのと変わらないじゃないか。いや、一人で来たほうがマシだったかも。
「はいはい、ここは夫婦水入らずで楽しんでな」
「まこと君、別に気を使わなくてもいいんだよ」
姉貴に次いで海から戻ってきた康太郎さんがそう言った。
「ホントに帰るのか?」
「まあ今日じゃなくても、海には来れるしな。姉貴、家の鍵を貸してくれ」
「しょうがないなぁ」
ため息混じりにバックからキーを取り出す姉貴。
俺は姉貴から鍵を受け取ると、そそくさとロッカールームで着替えて姉貴の家に向かった。
しかし歩いて帰るとなると、けっこう距離があるなぁ。
そうだ、松林の中を抜けて行けば少しは近道になりそうだぞ。
よし、ついでだから少し探検してみるか。
姉貴の家はここから国道を西へ徒歩で20分位の所にある。
その国道へは天乃白浜海岸から、北へしばらく市道を歩かないと出られない。普通に歩くと少し回り道になってしまうという訳。
それを北西方向へ松林を抜ける事でショートカット出来るはずだ。
俺は松林の獣道を歩く。
しばらく行くとロッジが何軒も立ち並ぶ場所に出た。
大きな看板に「別荘分譲地、入居者募集中」とある。
ここら一帯が、天乃白浜の別荘地になっているようだ。
その中でも、いちばん大きくて立派なロッジ風の建物の庭に出た。
このままだとここを通り抜ける形になるけど、どうしよう?
見た感じ、人はいないみたいだし、柵とかがある訳じゃないし、大丈夫だよな。
俺はそのままその別荘の庭を通り抜ける事にした。
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