◆エピローグ◆
『夏休みが終わって』
つくつくぼうしの鳴き声がうるさい。
多分近くの木にとまって鳴いているのだろう。それに妙にへたくそだ。
テンポが早く音程が妙に狂っている。
蝉にも音痴がいるんだなぁ〜なんてどうでもいい事を考えてしまっていた。
俺は赤トンボが飛び交う教室の窓の外をぼーと見ていた。
9月4日の放課後。
教室にはもう数人が雑談しているだけで、あとは帰るなり部活に行くなりしている。
あの日から真澄ちゃんとは会っていない。何回か電話したのだが、塾のセミナーとかでいなかった。忙しいんだろうな…きっと。
最近、彼女とは夏の思い出だけでこのまま自然消滅してしまうんじゃないかという不安に駆られる。
今日、帰ったらもう一度、電話してみよう。
俺は少しブルーの気持ちのまま席を立ち上がり鞄を手に取った。
さて帰るか…。
俺が廊下に出ようとすると誰かにぶつかった。
「きゃ! なにすんの! ちゃんと前見てなさいよ!」
あうぅぅ。この身勝手な言いぐさと声は…。
「なに慌ててんだよ美鈴」
「ああ! まーったく、誰かと思えば馬鹿男じゃない。ちょうどよかった。校門の所でであんたを呼んできてって頼まれたのよ」
「校門で?」
「他校の生徒みたいよ。あんた何かやったの?」
まさか…。
「どこの高校の生徒だった!」
俺は思わず美鈴の肩を掴んで聞いていた。
「知らないわよ。他校の制服なんて興味ないし…。ちょっと、放してよ。痛いから」
「ああ、ごめん」
「とにかく女だったわよ」
きっとそうだ。次の瞬間、俺は昇降口に向かって走りだしていた。
「ちょ、ちょっと、宇佐美? …まったく、なんなのよ」
美鈴のぼやきを背中に聞きつつ俺は階段を降りた。
昇降口の所で他の男子生徒達が話してるのを耳にする。
「おい見たかよ。校門の所で聖華院の生徒が誰か待っていただろ?」
「羨ましいよな。誰だよ相手は…」
間違いない…きっと真澄ちゃんだ!
俺は急いで靴を履き変えると校門に向かって駆け出した。
あれ? …いないぞ…。
外に出て校門を見てみると、そこにはうちの生徒達しかいなかった。
遅かったか…。
でも、急げばまだ近くにいるかもしれない。俺は勢いよく校門を出て左右を見渡した。
駄目だ。いない…。
|