■真澄編■
4日目【7月24日】


 
 
Marine Blue Serenade
4日目

【 朝 /  / 夕 /  】


◆7月24日<朝>◆
『ボディーボード』


 

 


「先輩、胸を張って肘を立てて」
「お、おう」
「もっと力を抜いてください。ほら、次の波にのりますよ」
「お、お、おう」
「ほら来ましたから前向いてキックして」

 俺は必死にばた足をする。次の瞬間、体が後ろから浮き上がる。

「うお?」

 体が押し上げられる感覚。そしてボードは岸に向かって勢いをつけ始める。

「うおおお!」

 一瞬の快感。波に乗るってこういう事なのかと思う。
 それもつかの間、

「うおおおおぉーーーもが、ぐげ、ごげ!」

 次の瞬間、俺はバランスを崩して波にのみこまれていた。俺の体は水中をぐるぐる回り上下の感覚が一瞬にしてなくなった。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 波が通りすぎて俺はなんとか起きあがる。
 うひー。死ぬかと思った。

「先輩ー! 大丈夫ですか!?」

 真澄ちゃんが波に乗ってこちらに来ている。
 うわー! またぶつかるって…。

 と、思った瞬間、彼女は小さくターンして波から降りた。

 なんだよ。ちゃんと止まれるんじゃん。

「だめ、だめ。ボードに体が乗り込みすぎです。だからノーズが引っかかってひっくり返ってしまったんですよ」
「う〜ん、分かった。じゃぁ、もう一回」

 俺は再び沖に出る為にボードに乗りこんだ。
 でも、波を越えて進むのも最初は至難の技なんだよな。ボードで鼻をぶつけたり、そのまま流されちゃったり。何回溺れかけたか…。でも、そのおかげで今では上手く波を越えれるようになった。
 俺は真澄ちゃんとともに再び沖に出て波を待つ。

「ほら先輩、次の波、行って下さい」
「おう」

 俺は今度は乗り込まないように気おつけながらボードを漕いだ。
 浮き上がってくる感覚、
 よし!いくぞー!!

「…あれ?」

 波は俺を通り越して先に行ってしまった。

 ありゃりゃ。なんで?

「先輩、今度は乗り込みが足り無すぎです。いいですか? 腕は直角に曲げて下さい。顔は進行方向。波が来たら軽くノーズを押し出して…分かりました?」
「はい、先生」
「分かればよろしい。…なんてね。じゃぁ、私が先に行きますので、それを見て後から来て下さい」

 真澄ちゃんは手慣れた仕草で沖を向いていたボードを岸側にターンさせ、振り返って、波とのタイミングを取った。

 俺より沖にいる彼女の様子はよく分かる。
 波がくる。かなり大きい。彼女は軽くキックしてボードを進めると、彼女の体が波に押し上げられた。
 一層、力を込めて彼女は水面を蹴る。そして胸をはってボードを押し出すと一気に波に乗った。

 「すげぇ」

 波の上の彼女を見上げるような姿勢で見る俺。彼女は波をすべるようにして俺の横を通り過ぎる。

 ダッバン!

 次の瞬間、俺は真澄ちゃんの乗ってきた波に飲まれていた。