東京大学におけるMac OS X(UNIX)導入事例

UNIXアプリケーションの実行プラットフォームとして

前回のコラムの中で、Mac OS Xの普及事例の一つとして 「国立大学を含む教育現場での採用(東京大学での大規模な導入事例等)」を挙げましたが、それを詳しく紹介している記事がアップルコンピューターのサイトにて公開されています(現在は閲覧する事ができなくなっているので、リンクを外しました)。記事中でも紹介されていますが、NECリースが「Xserve」を中心とするMac OS Xベースのシステム構成を提案し、構築を担当しています。

NECといえば「PC9801」シリーズ(私が最初に手にしたパソコンです)をリリースして、日本にMicrosoftのオペレーティングシステム(MS-DOS)を普及させた先鋒的な企業としても認知されています。日本における開発当初のMS-Windowsの大半は、PC-9801の上位機種において稼働していたといっても過言ではなかったと思います。そんなNECの関連会社が、東京大学において Xserveを中心とした世界最大規模のNetBoot環境をMac OS Xによって構築したという事実は、IT業界に携わる者として非常に斬新な印象を持ちました。

仮に、Mac OS Xのライセンスが他社に供与され、1990年代のMichael Spindler(マイケルスピンドラー)の時代のように互換機の存在が許されているならば、自社のハードにMac OS Xを載せてみたいと考えるメーカーは思ったよりも多いのではないか?とも考えたりします(決して、NECがその一つであると断定している訳ではありませんが)。

システム構築の理想型ともいえるNetBoot環境

東京大学の情報教育システム「ECCS2004」にて採用されている Xserveを中心としたNetBoot環境は、インフラ等を含めた導入に至るまでの敷居が比較的高いと感じられるものの、システム管理に携わる者にとっては、一度は手掛けてみたいと思うシステムの一つといえます。

NetBootとは、サーバー上(東京大学のケースでは「Xserve」)に保存された起動可能なディスクイメージ(OSイメージ)を、クライアント(Mac)がネットワーク経由でメモリーに読み込む事によって起動可能とするシステムの事を指し、セキュアでメンテナンス性に優れたハードディスクレスな環境の構築等に貢献します。

この環境が齎すメリットとしては、以下の項目等が挙げられるかと思います。

従って、全てのクライアントを何時使用しても 同一環境下で作業する事が可能となり、エンドユーザーは 常に継続性を保った状態での作業が可能となります(一貫性の確保)。

これは、学生のみならず一般企業においても同様ですが、一定規模以上のユーザーで使用されるシステムの運用を想定した場合には、システム構成や環境設定(プリファレンス)は勿論の事、デスクトップにおけるファイル、フォルダー(アイコン)の名称やデザイン、配置等、箸の上げ下げまで細かく仕様を統一して、発生し得る局地的なローカルルールを排除していく必要があります。

その辺りの決め事を曖昧にしてしまうと、例えば転勤や部署間の移動時等にも 業務に支障をきたしてしまう事が想定されます。それほど現在の社会においては、パソコンを始めとする情報端末が深く浸透してきており、スキルが完全ではない初心者のユーザーでさえも、迷う事なく使用する事ができるシステム構成が望まれているという事です。

上記のような現状から見ると、人的負担やランニングコストを費やす事なく、安定したシステム構成を継続する事が可能なNetBoot環境は、システム管理者、エンドユーザーの双方の観点からしても理想的なシステム構成と言う事ができるでしょう。

UNIXとMac OS Xの橋渡し役に

Mac OS Xはコアとなる基幹部に、オープンソース(注)のDarwinにFreeBSDの機能を組み込む等、UNIXアーキテクチャーをベースに稼働していますが、このシステム構成がもたらす福音として、現存するUNIXベースのアプリケーションを移植する事なく、ネイティブに近い状態で実行する事が可能となっています。

これを実現するためには、Mac OS X上にUNIXのウインドウマネージャー(GUIの実行環境)「X Window System」を組み込む必要がありますが、この点においても「Mac OS X 10.3.x」に添付されている「X11 for Mac OS X」を使用する事によって、ユーザーに追加投資の負担を強いる事なく、UNIXベースのアプリケーションを利用する事が可能となっています(アプリケーション不足が、導入に二の足を踏ませる要因の一つともなっているMac OS Xにおいては、普及の鍵を握る大きな要素の一つに成り得るかと思われます)。

しかしながら、UNIXに向けたのオープンソースのアプリケーションは、入手したソースコードをユーザー自らによってコンパイル(注)する必要があり、「X11」を含めた実行環境は 一般ユーザーにとって身近なソリューションとは言えませんでした。

そこで、前述の課題を東京大学においては、「Fink」と称される オープンソースのソフトウェアをMac OS Xにパッケージとして移植するためのプロジェクトを専門の開発チームが推進する事によって、学内と家庭における同一環境の構築を手助けしています。

特に、X Window Systemにおいて実行可能なアプリケーションの一つ「OpenOffice.org」が、Mac OS X Aquaへのネイティブ対応のロードマップを修正して、暫くは「X11 for Mac OS X」を対象プラットフォームとして注力していく意向を表明した事によって、これまで以上に「Fink」の存在と普及がクローズアップされてくるのではないかと思われます。

そしてこれらの活動が、とかく敷居が高いと認識されがちな Mac OS XへのUNIXアプリケーションの組み込みを簡素化してくれるならば、Mac OS Xの未来像も明るく開けてくるのではないでしょうか。そうなる事を願いつつ、個人的にも「東京大学Finkチーム」を支持する事を ここに表明したいと思います。

本文注

オープンソース

プログラムの原文(ソースコード)をインターネット等で公開しているソフトウェア。リスクを伴うアプローチにも思えるが、世界中のエンジニア、プログラマー等の監視によって セキュリティー関連の脆弱性等を検知し、迅速な対応を行う事ができる等のメリットを併せ持つ。近年における公的機関等では、オープンソースのOSを採用しようとする動きがある。

コンパイル

高水準言語(C、FORTLAN、Java、COBOL等)で書かれた原始プログラムを、コンピューターが解釈できる形式(機械語)に翻訳する処理の事。尚、翻訳を行う言語処理プログラムを「コンパイラー」、アセンブラー言語を機械語に翻訳する言語処理プログラムを「アセンブラー」と各々称する。尚、本文中で採り上げた「OpenOffice.org」をミドルクラスの「Power Mac G4」でコンパイルした場合には、約25時間の処理時間を要するとされている。

ネイティブ対応

別途にエミュレーターや実行環境等を用意しなくとも、ホストシステムにおいて 原型のままで実行する事のできるプログラム。

初版作成日 2004年11月21日
最終更新日 2005年5月7日

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