「寺山修司の迷宮世界◎百年気球メトロポリス」

8月10日現地レポート

????まぼろし寺山学校の学園祭????

もどる

京王多摩センターの駅をでると、銀行やデパートに挟まれたなだらかな坂を上ることになるが、坂を上りきったところはパルテノン多摩の大階段である。その階段を昇ったむこうに、普段は公園であるはずの緑地が、今日は異界としてぱっくり口をあけているはずだ。野外劇の会場は夏の夜にだけ開く異界への入り口だ。

 いそぎ坂をあがってゆくと、その向こうには巨大な赤を基調とした布絵を挟んで巨大な人の壁があった。そしてそれがうごめき始めていた。18時30分の開演を前に、階段で待っていた人達が動きはじめたからそう見えただけなのだけど、真夏の暑い1日が暮れて行くその時に、別の時間が流れだすような胸騒ぎを感じさせた。

 18時30分の開演を真に受けて、ぎりぎりに来た私はその前からこのイベントは始まっていたようだったことのようやく気付いた。チケットのあるなしに関わらず、整理券がくばられていたようだった。入場口といっても単にビニールパイプの柵で仕切られているだけで、異界の入り口にしては平凡だったが、異人のしるしのリボンを渡された。どうも整理番号によってリボンの色が違うらしかったが、その違いは最後までわからなかったけど。

 リボンと一緒に公園内の地図が渡された。なだらかな起伏をもつ公園のさまざまなところにステージや仕掛けがつくられていて、それぞれの見世物の開始時間や簡単な内容が記されている。まるで寺山の遺伝子が発芽して、夏の太陽で異常に発生したような感じだ。階段ではすでに異界の始まりを告げる儀式が始まっていた。黒い衣装で白塗の異人が大声で叫ぶ。観客のなかにもそれらの声がする。これから3時間、観るのではなく、この異界の一つの細胞として自由のに動きまわれ。

 階段での様子はまわりの街路からもみることができるので、買い物帰りの人達が不思議そうにこちらを観ていた。どちらかと言えば年配の人のほうが多いような感じもする。本当はこういう人達も放り込んで、この公園すべてで「事件」をおこすなんてのもおもしろそうだ。でもね、時代は今だから。

 入場してあたりを見回すと、外国の人や親子連れ、50代以上の人も多い感じがした。暗くなってからおばさん軍団に「トイレはどこですか」なんてすごまれたのには閉口したけど、あの人一人一人に寺山に関していろいろ聞いてみるのもおもしろいなと思った。

 階段での儀式はすぐ終わり、人のながれは階段をあがり公園ないにちらばっていった。階段をのぼるとすぐにステージがあって、オープニングアクトとして「万有引力」の「地球空洞説」が始まるのだったが、既に大勢の人がいたし、まだ空も明るいことから、挨拶がてら一周してみることにした。

 変装したい人のための「青猫衣装館」や白塗が体験できる「仮面術」はまだ客待ちの状態で、リラックスした雰囲気。池の上に組んだ「特設水上ステージ」の前も人はまばらで、踊り子がくるくる回っていた。その横でジャンケン戦争がおこなわれていて、異様なパワーの白塗男が走りまわっていた。そのほかにも怪しげな格好をした輩が、一般人に声をかけたり、追い回したり、うーむ異界というよりなんか寺山フリークのコスプレ大会、もしくはディズニーランドと言った様子。「7時から・・・を上演します」なんて言ってたりするのは、ほとんど学園祭のノリ。

 そのなかで日暮れとともに、舞踏が始まった。ライト一本のみで20人位がしずかに動き始めた。大地からはいだしてきたような冷たいエネルギーが発散されていた。周囲が暗くなると、人が増え始めた。閑散としていた広場がにぎやかになったのは、「万有引力」の「地球空洞説」が終わったて、その客が流れてきたためだ。地図を改めてみてみると、タイムテーブルは意外にちゃんとしていて、人の流れもあるていど読めるようになっていた。だからさっきまではリラックスしていたのか、などど少々がっかりする。

 人の考える必然、予定調和をみだすような、偶然というのはあまりなさそうだ。偶然がおきそうでおきない、なんとなくこれも学園祭みたい。管理された祝祭?もはや異界ではないのか。

 そういえば「郵便配達人」からもらった封筒の中身も刺激のないものだった。「尾行されています」みたいな内容がワープロで打ってあった。脅迫状にしては正直だし、予告状としては面白みがない。なんだかよくポストにはいっている「絶対儲かる極秘の投資」の案内状みたいで、すごくしょぼい。化石の方法論?観客を観客として扱うアトラクションならちょっとおもしろい遊びなのかもしれないけど、そんなもの期待していないよ。モノローグのキャッチボールならまったくやる気ない。観客をその安全な身分から引きずり降ろすような、そういう勢いもよいのではないの?せっかくのこういう機会なんだから、実験という危ない遊びもよいのでは。一般客に追い返されるような気構えなら始めからくるなっての。こっちだってだてに10年以上も寺山の影をひきづりながらやってきたんじゃねえんだぞ、っての。

 辺りはすっかり暗くなり、特設ステージでは「阿呆船」が始まるころには、結構ステージ前には人が集まってきた。なかには既に白塗の観客もみえる。カップルの彼女の方だけ白塗だったりして、ひきこもごも。「阿呆船」はなかなかよかったです。音楽はパーカッションだけ生だった。ステージの上の器材箱にローマ字で「TENJYO SAJIKI」の文字もあった。ステージ上ではなかなか声の良い人もいたが、本当に美しい肉体にはめぐりあえなかった。やっぱり彼がいないのは、さびしい。

 9時もすぎて50名以上がステージあがりエピローグ。さすがにこれだけの人間が集まると、よい雰囲気になるものだなと感心。でも国家論はやはり昭和さんじゃないと、など言い出すと切りが無いのでやめる。

 でももう少しパワーのある勢いのある奴が、走り回っているようになるとよい。一般観客がそれらしく口をひらくと逃げ出すようでは寂しいぞ。虚構の徹底した先に、本当の現実が現われるかもしれないよ。

 なにはともあれ役者、観客ステージに集まり記念撮影。無事終了。

 真夏の夜の夢ということで。

TOP |