1997/02/08(SAT)

1997/02/08(SAT)



原点に帰ってみるというのは、火に焼かれてみるということだ。彼女が倒れるという事実の前では、実際もう何もかもが色あせて、意味を失ってしまう。それは、事実上、いまのわたしには、想像さえできないことなのだ。それは、起こってはならないこと、それについて考えることさえ、タブーとすべきことといっていい。
しかし、それは、起こり得る。いや、明日、起こるかもしれないことなのだ。これが火である。この火に焼かれていまの現実に向き合わねばならない、ということだ。
だが、それにしても、わたしはほんとうに十全に、この火を浴びたであろうか。充分に焼かれて出てきたのだろうか。いまわたしの目を曇らせているものはなんなのだろう。やはり、この病み衰えた体のせいか。さまざまな薬の副作用のせいか。
わたしにはいま一つ、現実が鮮明に見えないという思いがある。
わたしにあっていちばん歯がゆい思いというのがこれだ。
体が弱るということは精神も弱るということだ。精神力である程度は頑張れても、そこには自ずと限度がある、とわたしは思う。
体がしっかりしている時には、ある遅れをとっても挽回がきく。
しかし、体が弱ってくると、精神だけでは、なかなか挽回がきかないものだ。
したがって、自分のやるべき仕事の量を調節するよりほかなくなる。
仕事を絞って、極度に限定するのだ。わたしの場合でいえば、目下のプランに入っている例のふたつの仕事、つまり『印刷物』と『ネッシー』と、あとわずかのもの、たとえば『ヘルクレス座』くらいで充分だと思う。このプランは、したがって、手ごろなものであろう。

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