牧場の朝


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 牧場におとずれる朝の爽やかな様子、聴く人にまで高原のすがすがしさを伝えるような歌である。1912(大正元)年、『尋常小学唱歌(四)』に発表された。
http://www.d-score.com/pg/A02011424-1.html

 歌のモデルとなったのは福島県鏡石町の岩瀬牧場といわれている。岩瀬牧場は、日本初の欧州式牧場として有名なところ。明治初期、明治天皇の東北巡業の際に、鏡石町と、近隣の矢吹、須賀川におよぶ広大な原野の開墾を指示されたのがその始まりだそうで、もとは宮内省直轄で、明治40年、オランダからオランダホルスタイン13頭が輸入され、そのときに友好の印として贈られたのが、歌にでてくる「鐘」である。
 作者の名が伏せられていた当時の文部省唱歌の例にもれず、この歌もつい最近まで「作者不明」とされてきた。チェコスロバキアの民謡ではないかという説もあったほどである。
作詞・杉村楚人冠の根拠を発見したのが、地元鏡石町の医師であり、郷土研究家である最上寛氏。朝日新聞の記者であった楚人冠が、河合英忠画伯とともに、岩瀬牧場を取材したことがあり、最上氏は、地元の古新聞でこの取材のときの訪問記を発見、そこには歌詞のもととなる言葉が記されていた。
 楚人冠作詞の説に異を唱えていた人もいあった。他でもない息子の武氏だそうだ。何でも楚人冠という人は、文章の中に「かんかん」とか「りんりん」といった擬音語は絶対に用いなかったというのがその理由であったが、現在では、やはり楚人冠作詞ということで落ち着いているようである。
 杉村楚人冠は、明治5年、和歌山県生まれ。元朝日新聞社顧問で、同社の調査部長時代には、石川啄木を朝日歌壇選者に推薦したり、アサヒグラフ創刊者としても有名。作曲の船橋栄吉は、明治22年、兵庫県明石市生まれ。東京音楽学校教授で、日本で、ベートーベンの第9を歌った最初の人としても知られている。
岩瀬牧場は、現在は民間に委譲され、毎年20万人が訪れる観光牧場として観光客を楽しませている。

http://plaza26.mbn.or.jp/~ikebe/raum/monthsong/july.html

牧場の朝

作詞 杉村楚人冠
作曲 船橋 栄吉
1.ただ一面に たちこめた
  牧場の朝の 霧の海
  ポプラ並木の うっすりと
  くろい底から 勇ましく
  鐘が鳴る鳴る かんかんと

2.もう起きだした 小屋小屋(ごや)の
  あたりに高い 人の声
  霧に包まれ あちこちに
  動く羊の 幾群れの
  鈴が鳴る鳴る りんりんと

3.今さし昇る 日の影に
  夢から覚めた 森や山
  赤い光に 染められた
  遠い野末に 牧童の
  笛が鳴る鳴る ぴいぴいと
1912年(大正元年)