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 この歌も「アカシヤの雨が止む時」や「誰よりも君を愛す」と同じ60年安保の年(昭和35年)に流行った歌である。安保反対デモは安保自然成立の6月19日を境にして急速にしぼんでいった。6月23日安保改訂条約批准書が交換され発効したのだが、これを終えて岸内閣は退陣し、池田勇人内閣が成立した。池田は「政治の季節は終わった。これからは経済の時代だ」といわんばかりに流れを切り換え、「高度成長、所得倍増政策」路線を打ち出した。世の中の雰囲気は一変し、先日までの安保闘争は何だったのかという思いにさせた。
 一生懸命デモをしてみたものの、何も変わらなかった。政治などというものはこんなものだという感じは、人々全体の中にも広がった。こんな状況の中で、浜口庫之助作詞、森一也採曲で、守屋浩が歌った『有難や節(ありがたやぶし)』が爆発的にヒットした。「ありがたや ありがたや ありがたや ありがたや……」という実にばかばかしい歌なのだが、みんな真面目にいろんなことを考えて行動しても結局だまされてしまうだけだ。そんなものなら「ありがたや ありがたや」と言っていたらそれでいいという世情にぴったりとなったのだった。
『YAMAKEN'S ESSAY(雑感・戦後日本の世相と流行歌(17))(http://www.asahi.co.jp/call/diary/yamaken/essay_17.html)から』

有難や節

作詞 浜口庫之助
採譜 森  一也
唄  守屋  浩
1.有難たや有難たや 有難たや有難たや
  鐘がなければ くよくよします
  女に振られりゃ 泣きまする
  腹がへったら おまんまたべて
  寿命(いのち)尽きれば あの世行(ゆ)き
  有難たや有難たや 有難たや有難たや

2.恋というから 行きたくなって
  愛というから 会いたがる
  こんな道理は 誰でもわかる
  それを止めたきゃ 字を変えろ
  有難たや有難たや 有難たや有難たや

3.有難たや有難たや 有難たや有難たや
  デモはデモでも あの娘(こ)のデモは
  いつもはがいい じれったい
  早く一緒に なろうと言えば
  デモデモデモと 言うばかり
  有難たや有難たや 有難たや有難たや
4.近頃地球も 人数がふえて
  右も左も 満員だ
  だけど行(い)くとこ 沢山ござる
  空にゃ天国 地にゃ地獄
  有難たや有難たや 有難たや有難たや

5.有難たや有難たや 有難たや有難たや
  酒を呑んだら 極楽行きと
  思うつもりで 地獄行き
  どこでどうやら 道まちがえて
  どなる女房の 閻魔顔(えんまがお)
  有難たや有難たや 有難たや有難たや

6.親の教えは 尊いものよ
  俺もそろそろ みならおか
  親父ゃええとこで 酒呑んでござる
  勉強ばかりじゃ 親不孝
  有難たや有難たや 有難たや有難たや

1960年(昭和35年)