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 昭和35年8月に発売された、松尾和子の代表作。  当時、オーストリアの小説家カフカの作品がベストセラーになっていた時代である。不条理の文化といわれたカフカの作品を、いわゆる知識階級の人たちが盛んに読んだ時代である。作詞の佐伯孝夫は「“再会”はカフカの作品がきっかけになって出来たものです。」と語っていたほど、当時の歌謡としては異色の作品だった。その詩に感動した吉田のサウンドが見事に合い、吉田メロディーの一つの頂点を極めた作品。
 制作してから半世紀近く経っているいまでも、生きるということの切なさ、そして人生の哀しさが、聴く人の心にひしひしと迫ってくるのも、そんな作家の熱い思いが、この曲に強く込められているからに他ならない。
 なお、松尾和子については末尾に記載。
再  会

作詞 佐伯孝夫
作曲 吉田 正
唄  松尾和子
1 逢えなくなって 初めて知った
  海より深い 恋心
  こんなにあなたを 愛してるなんて
  ああ ああ 鴎にも
  わかりはしない

2 みんなは悪い 人だと云うが
  私にゃいつも いい人だった
  ちっちゃな青空 監獄の壁を
  ああ ああ 見つめつつ
  ないてるあなた
3 仲良く二人 およいだ海へ
  一人で今日は 来た私
  再び逢える日 指おり数える
  ああ ああ 指さきに
  夕陽がしずむ






1960年(昭和35年)

 松尾和子(1935年−1992年、東京都出身)は戦後、ジャズ歌手を目指して疎開先の箱根から上京、進駐軍キャンプやキャバレーで歌っていた。やがてフランク永井が彼女のささやくような歌唱法に注目、スカウトして作曲家・吉田正に紹介。昭和30年代に入って人気が出てきたムード歌謡に彼女の甘く悩ましいハスキーヴォイスがぴったりで、フランク永井と組んだ『東京ナイトクラブ』、和田弘とマヒナスターズとともに歌った『グッドナイト』『誰よりも君を愛す』、そしてこの『再会』など数多くの吉田正作品を歌ってヒットさせた。
 その後も映画に出演するなど人気を集めたが、私生活ではさまざまな不幸に見舞われ、晩年は必ずしも幸せではなかったようだ。平成4年(1992)、自宅の階段から転落、その数時間後に帰らぬ人となった。享年57歳。
 『「二木紘三のMIDI歌声喫茶」(http://www5f.biglobe.ne.jp/~futakoz/versoj/v-sengokayou/saikai.htm)による』