異国の丘


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吉田 正(作曲家)
 1921(大正10年)年1月20日茨城県生まれ。日立工業専門学校卒業。陸軍伍長として従軍、敗戦。ウラジオストク郊外アルチョム収容所 で捕虜となる。祖国への帰還を願って増田幸治がつくった詩に、吉田がセメント袋のしわをのばしながらメロディをつけ『異国の丘』 を生む。昭和23年8月1日、NHK「のど自慢素人演芸会」に1人のシベリア復員兵が出場、収容所でうたった歌だといって『異国の丘』 をうたう。
 アナウンサーが声をつまらせ鐘を打つ人も絶句、そのあと連打が起こった。佐伯孝夫はこれにうたれ加筆し、清水保男が編曲、竹山逸郎と中村耕造が吹き込み、同年9月、ビクターから発売され爆発的なブームを起こす。ブームのさなか吉田は帰還し、・・・軍隊生活の中で 作曲した「昨日も今日も」が「異国の丘」として歌われていたことを知る。・・・
(現代人物辞典 朝日新聞社「吉田 正」http://www.asahi-net.or.jp/~at5n-smgm/about/about02.htm) および(「吉田正メモリアル」 http://www.city.hitachi.ibaraki.jp/upload/freepage/yosida/yosida_top.htm)による。
 なお、末尾の「作曲者が発見されるまで」もお読みください。



異国の丘

作詞 増田孝治
補作 佐伯孝夫
作曲 吉田 正
唄  竹山逸郎
   中村耕造
1.今日も暮れゆく 異国の丘に
  友よ辛かろ 切なかろ
  我慢だ待ってろ 嵐が過ぎりゃ
  帰る日も来る 春が来る

2.今日も更けゆく 異国の丘に
  夢も寒かろ冷たかろ
  泣いて笑って 歌って耐えりゃ
  望む日が来る 朝がくる

3.今日も昨日も 異国の丘に
  重い雪空 陽が薄い
  倒れちゃならない 祖国の土に
  辿り着くまで その日まで
1948年(昭和23年)




「作曲者が発見されるまで」
 昭和23年8月1日の日曜の午後、いつもの様にNHKラジオから人気番組「のど自慢」が流れていた。「のど自慢」は昭和21年1月19日から放送され、聴取者直接参加の公開番組である事が大いに受け老若男女がこれに挑戦しのどを競った。カーンと鐘が一つだけで舌を出して 照れ笑いする者や、鐘の連打で満場の拍手を受け得意満面な者、「のど自慢」の会場内の雰囲気はラジオであっても容易に窺い知ること ができた。
 そうやって何人かが歌い終わった頃、復員兵らしき男の番になった。男は「10番中村耕造!“明日も今日も”」と曲目を紹介した後、「この歌は自分がシベリヤ抑留中、戦友達とよく歌った曲です。我々はこの歌によって励まされてきました。」と口上を述べたのち、この作者不詳の歌を唄った。極寒の収容所の重労働に耐え抜いた精神力がこの歌に良く表れていた。ざわめいた会場がどよめきに変わりそして静寂となった。敗戦から3年が経つ年であるが、戦争の傷跡はまだまだ深く、誰もがこの歌を興味深く聞いた。会場内は外地よりまだ帰らぬ父や夫や息子を思ってか涙する者も多くいた。
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 作詞家の佐伯孝夫は、これを書斎で仕事をしながら聞いていた。ジャーナリスト出身の佐伯は、この作者不詳の「明日も今日も」という曲に異常に興味を覚え、早速、所属のビクターにレコード化を掛け合った。詞は佐伯が若干手直し、曲名を「異国の丘」とした。歌手には 本人(中村耕造)に人気歌手竹山逸郎を加え9月にレコードを発売した。それと同時に、ビクターとNHKはこの作者を懸命に探した。 やっと作詞者は増田幸治である事が判明したが、作曲者は不明のままであった。「異国の丘」は大ヒットし、巷にこの曲が良く流れた。
 そういった時、吉田正がシベリヤより復員してきた。吉田は自分が作曲した「大興安嶺突破演習の歌」という軍歌が戦後の日本で流れて いることが不思議でならなかった。当時、流行歌の様な曲調が兵隊達に大いに受け、曲は一人歩きしこれの替え歌「明日も今日も」を 吉田もシベリヤ抑留中よく唄った。友人達の勧めもあり吉田は自分がこの曲の作曲者であることをビクターに名乗り出た。しかし作曲者が 吉田であるという証拠がなく認められなかった。吉田は戦争が終われば、作曲家として生きていく願望があったので“異国の丘”のヒット は大変惜しいものであったので吉田は落胆した。
 しかし幸運な事にシベリヤより復員した戦友が吉田の譜面を偶然持っていた。吉田が困っている事を知ったこの戦友は吉田を懸命に探した。そして、「吉田さーん、吉田さーん!探しましたよ。これ、これ、吉田さんの譜面ですょ!」譜面はたしかに吉田のものであった。吉田は戦友の有難さに深く感謝した。そして、苦労を共にして死んでいった戦友達のことが偲ばれた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「大興安嶺突破演習の歌」

♪今日も越え行く 山また山を
黒馬よつらかろ 切なかろ
我慢だ待ってろ あの嶺越えりゃ
甘い清水を 汲んでやる♪
(「異国の丘」 http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Cinema/7897/ikokunooka.htmによる)