わずか37歳で世を去ったフランスの作曲家、ジョルジュ・ビゼー(1838〜1875)の最後のオペラで、最高傑作の一つとされる「カルメン」がパリのオペラ・コミック劇場で初演されたのは1875年。当時、オペラといえば華やかな舞台に着飾ったヒロインが登場、物語の題材は神話や貴族社会など雲の上の世界を描いたものがほとんど。観客も当然そうした作品を期待していたのだが、この日登場した「カルメン」のヒロインは、汗にまみれて働くたばこ工場の女性労働者。そのうえ女同士取っ組み合いのけんかはするわ、男をあからさまに誘惑しては袖に振るわで、上品で美しいオペラを期待していた聴衆はびっくり仰天。最後に逆上したホセにカルメンが刺し殺される場面で幕が下りると、客席は息を飲むばかりで拍手もおきず、初演は失敗に終わったそうである。
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