Tatuya Ishii & Asato Shizuki Special Project 2003
SUN
桜一号−千羽鶴−
――2人連れだって中央へ登場
柏木:さらにこっからが『粋』な戦いってことになるんだ。味方が誰も死なない戦争なんてねぇんだかんな。俺が千羽鶴をこの空層部分に入れた弾丸を富山にわたすだろ。それを富山が丁寧に撃つ。ヤツの腕はたかがしれてる。致命傷を与えられるわけがねぇ。撃たれた相手は早速野戦病院に送られて弾丸の摘出手術を受けることになるんだ。弾丸が取り出されて受け皿に落とされる。そんときの音が違うんだ。なんつうか、こう、軽いいい音がするわけよ。野戦病院の軍医なんてのは弾丸を腐るほど見てきているからよ、その違いに気づく。そんで、敵の大将が空層部分を開けてみると、そこに俺の作った千羽鶴が…
熊田:小さくたたまれて入ってる!かぁ。なるほどねぇ、そいつぁ粋だねぇ。
柏木:だろう? 弾丸に鶴を折って入れる、富山狙撃兵がそれを撃つ。自分が撃つワケじゃねぇから自分の腹も痛まねぇ。どうだい、これが俺の『粋』な戦いってやつよ。
と、こういうわけで、俺はこうやって千羽鶴を折ってるわけよ。
熊田:そうか…
――大きな火柱、大音響。はねとばされる2人
熊田:柏木ぃ!
柏木:熊田ぁ! い、痛ぇ…
熊田:柏木ぃ、こういうときは…おまえの千羽鶴は、どうなんだ。
柏木:こ、こういうときはよ。こういうときのことは…考えて…なかった……。
――2人の腹部から赤いスカーフが
熊田:こういうのはどうだ。
柏木:ど、どうゆんだ。
熊田:戦争が終わって何年かして、ちょうど今日みてぇにぽかぽかしたいい天気の日によ。ここいらの子供が、落ちている桜1号を見つけるんだ。そんで後ろを開けてみる。そしたらおまえの作った折り鶴が…
柏木:(なんとか立ち上がろうとしながら)俺の作った折り鶴がよぉ、折り鶴が…(がっくりと座り込む)
熊田:…柏木? 柏木! 先に往きやがった。
――下手上に富山が腰を抜かして後ずさりながら登場。
富山:おい!柏木!例のヤツをくれ。(敵の狙撃を受ける、上がる火花)
熊田:柏木は今息を引き取った。
富山:え?…熊田、そっちに桜1号があるだろ。
熊田:そのへんに落ちているだろう、好きなだけ持ってけ。
富山:それには柏木の作った鶴は入ってるのか。…お願いだから少しこっちに放ってくれよ。
熊田:むりだ。俺だってこうやってしゃべってるのがやっとなんだ。
富山:だめなんだ。あれがねぇと。なにせ柏木の怨念が隠ってるからよ、効き目が違うんだ。お願いだ30発でいい。こっちに放ってくれよ。あれじゃねぇと俺ぁだめなんだ。敵の狙撃兵にねらわれてんだ。(撃たれる)あっ!(左腕に赤いスカーフ)
熊田:は、はは、こりゃいいや。戦場で折った鶴で千羽(戦場)鶴か。(こときれる)
富山:熊田ぁ、どうなってるのか俺に言ってくれよ。俺に、おれに桜1号をくれぇ!(絶叫)
――急速に−幕−
(ナレーション)
もしあなたがいろんなことがつらくなったら、空を見てください。飛行機のマークが見えるでしょう。彼の折った千羽鶴は世界の空を飛んでいる。by JAL
アンコールで幕が開くとすでにメンバーがスタンバっている。ダンサーと石井、手に桜の枝を持っている。曲は【この世のHEAVEN】、石井の衣装はテレビ番組『男たちの風景』で辻村ジュサブローとコラボレーションして作った赤の着物地に仮面をあしらったもの、引きずるほどに長い上着の裾には金糸の裾模様が広がっている。
間奏で中央上に上がった石井、桜を振りながら歌っている。場内も桜並木を思わせるように林立する桜の花で煙って見える。最後列からは、なだらかに続く桜の絨毯の先にステージがあるように見え、一続きの絵を見ているようだった。
最後はコレ、というわけで【HIP SHAKE!】へ。石井、衣装の後ろ中心に配された白いフリンジ(房?)をぐるぐる回している。ダンサーの踊りの頭のところ、1度目のフリが替わっていてと2度目が従前のフリがだった(が、両方同じように踊ってしまった)。
「というわけで桜一号、いかがだったでしょうか?」
6日に見たときはまだ緊張感が漂っていた問いかけだが、8日には余裕のある表情で、自信をつけていっていることがわかった。
…こんなきな臭い世の中ですが、世界中が恋人たちの笑顔で満たされることを祈って最後の曲を歌いたいと思います。ってコレ聴いたらとっとと帰ってくださいね。それではお送りします。【星空】
例によってまじめは発言をまぜっかえす石井、どうにも照れが隠せない。
nipopsに収録されているこの曲、バックの星空、ブルーの淡いライトと相まってなお優しく聞こえた。
幕がおりSUNのテーマ、ピアノバージョンが流れ始める。やがて幕が開くとキャスト・ミュージシャンが一列に並んでのカーテンコール、全員が深々とおじぎするその角度に、なぜかさっきまで見た芝居がだぶってくる。一度幕がおり再び1列でのカーテンコール、キャスト・ミュージシャンの区別なく並んで、一様に笑顔なのがうれしい。客席からは大きな拍手がわいていた。
そして−幕−。しかし客は帰らない。ほどなく3度目の開幕、ステージにいるのは石井一人。それも後ろを向いて段に片足を置き、かっこつけまくったポーズで立っている。きっ、という様子で振り向くと満面の笑顔で応え、場を制して「サンキュー!」 大歓声と拍手の中、最終幕が下りた。