2SJ49 シングルFETアンプ






 FET式のシングルアンプは以前にも製作

していたのですが、そのアンプは無謀にも抵

抗負荷式だったので真空管アンプ並みの発熱

に悩まされて、普段使いで鳴らす事はほとん

どありませんでした。そんな時にトランスの

自作をされている知人に負荷専用チョークを

巻いて頂ける事になったので、これを機会に

旧作はバラし、全く新しく作り直しました。


 新しくといっても素子は当時のMOS―FETをそのまま使う事にして、出力には2SJ49を、

ドライバー素子にはJ―FETの2SJ72を使いました。ただ、負荷が抵抗からチョークに変更に

なって電源電圧を下げたので、各段の動作点を変更する必要がありますが、それもセルフバイアスな

ので、個々のバラ付きに合わせて丁寧に調整する必要があります。

 しかし大きな特徴として各段とも自己帰還が掛かるので、FET本来の五極管特性ではなく三極管

特性に近くなり、特に出力段では山型特性を持つ出力チョークとの相性も良くなるはずです。これは

五極管の場合は定電流特性という事で、チョークの山型の周波数特性がそのまま出力に表れてしまい

ますが、三極管の場合は定電圧特性を持つので、出力側に表れる周波数特性がフラットになる傾向が

あるのです。もっとも本機の場合は、8Ωの低インピーダンス負荷がチョークと並列になるので出力

特性は自然とフラットになるのですが、三極管特性なら負荷変動の影響も受け難くくなります。

 またJ49は入力容量が大きいので、その対策の為にもセルフバイアスとしていますが、さらにド

ライブ段のトレイン抵抗を1.5kΩとして出力インピーダンスを下げる事で、高域特性の改善を図っ

ています。ただ、通常はここまで負荷抵抗を下げるとドライブ段の利得が取れないのですが、高感度

な2SJ72を使う事で必要充分な利得を得ています。

 なお当機のFETは全てJch素子なので、プラス接地マイナス給電としていますが、これをもっ

てしても、とあるプロの方が「貴方らしい回路だ。」との感想を漏らされていました。

 というわけで、以下のような回路になりました。



 このアンプを組み立てるときの注意点としては、といっても今では各部品が入手難なので工夫が必要

になります。2SJ49と2SJ72はまず入手困難ですが、2SJ49のペアとなる2SK134は

流通量が多かったので入手出来ると思います。ただ2SJ72はコンプリが無いのですが2SK170

のランクVかBLが使えると思います。この場合は当然ですが電源等の極性は全て反対にしなければな

りません。さらに出力と電源にチョークを使っていますが、これも廃版等で今では入手難なので特注に

なってしまいます。それでもトランスと違って構造が簡単なので、何処のトランス屋さんでも特注に応

じてくれると思います。ただ電源チョークについては、電源の巻き線電圧を上げてLM333(Nch

素子の場合はLM350)等の3端子レギュレーターを使って平滑しても良いでしょう。



   
諸 特 性

 歪率特性は高域だけ離れたカーブを

描いていますが、それでも全般的にシ

ングル方式アンプとは思えないほどの

低歪カーブを描いています。


利得 22.3dB(13倍)

NF 10.4dB(3.3倍)

DF = 6.7on-off法1kHz 1V

無歪出力 2.8W/1kHz/THD1.8%

最大出力 3.4W/1kHz/THD5.0%

残留ノイズ 0.25mV


 次に周波数特性ですが、先に色々と述べた対策が功を奏したようで高域まで素直に伸びていて、高域

のカットオフは、補正無しの場合で180kHzまで伸びていました。しかし無負荷の方形波応答では

オーバーシュートが出て不安定なようなので、補正を掛けたところ最終的に120kHz/−3dBと

なりました。それでも途中に凹凸などがない素直なカーブを描いていて、シングル方式とは言っても、

トランスを使ったアンプとは一線を画す素直な特性になっています。




 その方形波応答ですが、先に述べたように負荷開放では不安定になったので微分補正を掛けたところ

下段の波形のように整った波形になったので、これで最終特性としました。余談ですが、補正用のコン

デンサーもこれだけ値が大きくなると、廉価で特性の良いマイラーコンが使えるので、これは手持ちの

種類も多く、波形を見ながら丁寧に調整出来るので良かったです。



 先に述べたように、当機は各段ともセルフバイアスを採用しているので、素子の個々のバラ付きに合

わせてバイアス抵抗を調整する必要があるのですが、自作アンプの場合はどうせ一品料理ですから大し

た手間ではなく、むしろ回路自体は上記のように簡潔にする事が出来ます。

 という訳で、当機の回路は大量生産には向かない方式なので、メーカー製アンプでは絶対に採用され

ないバイアス方法ですが、プロの設計法が絶対に正しいとは限らないと思うので、アマチュアにはアマ

チュアなりの設計法があっても良いのではないでしょうか?


 後  記

 この2SJ49はペアとなる2SK134と共に発売されると一世を風靡した石で、当時はディスク

リート全盛で石の種類も星の数ほどありましたが、その中でも一番人気の石でした。このデータシート

を見たプロの方も「直線性が良く内部抵抗値も低く、入力容量も少なめと良い石ですね。デジタル動作

向けの最新のMOSFETよりリニア増幅には適していると感じました。」との評価をされていて、流石に

プロの方は、データシートを見ただけでオーディオ用として多くの支持を得たJ49の素性を見抜いて

しまうのかと、妙なところで感心してしまいました。

 本機の奏でる音は、最近のデジタル制御用に特化したFETとは一味違う「古き良き石」の音が楽し

めると思います。



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