14GW8 /PCL86三結 ミニワッター





 ぺるけさんのミニワッターは回路が簡単

なのに音が良いと評判で、追試する方も多

いようですが、私は出力の点で満足出来ず

前に比較的出力の大きい14GW8で追試して

みましたが、1WクラスになるとOPTの

東栄T-1200が限界になるようでした。

 出力を上げると低域が飽和してしまうの

で、OPTにDCを流さない回路にしたの

ですが、根本的に容量不足でした。

 ところが14GW8の最大定格にはまだ余裕があるので、今回はさらに出力upを目指すべくARITOさん

の新型OPTで製作して見る事にしました。基本方針としてはぺるけ式ミニワッター回路をなるべく踏襲し

さらに出力upと広帯域化を計るというもので、とりあえずの新型OPTの作例と評価になるように、また

早い機会にレポート出来るようにバラックセットでの試作になりました。

 ちなみに本機の素になったミニワッターアンプは、ぺるけさんのご著書「真空管アンプの素」の製作例の

記事と、 「6BM8・6GW8/14GW83結シングル・アンプ製作ガイド」のページです。さらに以前に組んだ

小生の「OPTにDCを流さない方式のミニワッター」のページはこちらのページです。

 まず元記事よりも出力upを狙う訳ですが、14GW8三結の特性図を見ると、電源の制限を外して定格一杯

の300Vの動作点を選べば2W近い出力が取れそうで、その時点でのプレート損失も余裕があり無理な動作

ではなさそうです。元記事の場合は頒布シャーシに納める都合上、大きな電源トランスが使えなかったよう

ですが、今回はOPTも一回り大型ですし電源トランスの縛りもないので出力2Wを狙う事とします。

 この方針で特性図にロードラインを引いて動作点をみたのが以下の図です。



 これをみるとさらにプレート電圧を上げたくなりますが、定格オーバーになってしまいますし、こっそり

やるのならともかく、作例として公開するとなると定格無視は不適切なので、ここは定格遵守とします。

 次に前段の動作点を見たのですが、ぺるけさんの動作点は電流が少し多い気がします。今回私が選んだ動

作点は以下の図の通りで、この動作で歪率等も観測してますが概ね適しているように思います。



 それ以外はなるべく元記事に従ったのですが使用半導体は手持ちの流用で、新規に購入するのならば、元

記事に従った石を使えば良いと思います。ただ、本機では定電流回路に5Vのレギュレーターを使っていま

すが、例えば差動アンプの場合の定電流回路は動作電位が上下するので、バイアス電圧に対して充分に低い

基準電圧の素子しか使えませんが、当機の同所の動作電位はほぼ一定なので、カソード電位が10Vあれば

これで不都合はないのです。またリップルフィルターのバイポーラ素子もダーリントン石ではありませんが

それでも10kΩのベース抵抗を入れられたので十分なリップル除去効果が得られ、元記事と同等の動作をし

ています。唯一、音質に係わる事で元記事と大きく違うのはNF回路の補正で、今回はOPTが違いますし

音出し後の測定でも安定度を注意深く見たのですが、補正は不要という結論になりました。

 という訳で以下のような回路になりました。






  製作のポイントとしては

1.既に述べていますが本機に使ったOPTはARITOs Audio Labから発売された新型トランスで、今までと

  違って量より質を重視した設計法で作られているそうです。それを覗わせるのが最大出力4Wという半端

  な数値で、カタログスペックを考えたら同5Wと言いたいように思うのですが、低域特性を重視した結果

  の最大出力となったそうです。ただ実際に使ってみると高域特性の素直な伸びの方が特筆もので、当機は

  基本的に元記事の回路を踏襲するつもりでしたが、どうしても補正を入れる気にはなりませんでした。

   さらなる概要についてはARITO's Audio Labのページを参照して下さい。

2.電源回路について、本機は試作機なのでお手軽に絶縁トランスで組みましたが、OPTが端正なケース入

  りですから、これに見合うように標準仕様の電源トランスを載せてやりたいものです。さらにヒーターの

  点火法も本機ではお手軽にC点火としたのですが、シングル動作の為なのか元記事よりも残留ノイズが多

  くなってしまいお勧め出来ません。ただ14.5V巻き線のある春日の電源トランスには、当回路に適合する

  B巻き線仕様のものがないのですが、KmB150Fを使いヒーター巻き線を倍圧整流してB電圧を嵩上

  げすれば良いと思います。


   一方、リップルフィルター用の高耐圧トランジスターですが、今では入手難ですし個々のバラ付きに合

  わせてベース抵抗を調節しなければならず面倒なので、チョークを使った方が簡単確実と思います。

   という事で、上記のような電源回路にすれば良いと思います。

3.出力段カソードの定電流回路は、簡略化するのならば「470Ω1Wの抵抗」で代用できますが、特性と

  してはやや劣る事になってしまいます。バイアスの浅い出力管の場合は、ここを定電流化する効果は音的

  にも大きいようで、念のために元記事と同じLM317の場合の回路も紹介しておきます。


   なお本機のように5Vのレギュレーターを使う場合は7805の1Aタイプのを使ってください。電流が

  少ないからと78M05や78L05等の小電流用を使うとノイズが多いようです。手持ちの部品が使えないか

  と調べていたら、「■簡単な外部電源の実験 / かにこむ青木」というページを見つけて、それによると

  日立の17805Pが一番ノイズが少ないとの検証結果で、運よく手持ちがあったので使ってみたら、以下

  の「諸特性」の項に示すように好結果が得られました。

4.電源チョークを使わずにリップルフィルターとした場合、半導体の放熱対策として念のためシャーシに貼

  り付けましたが、動作中の損失は約0.2Wでしたので、20W級の石ならば無しでも可です。

5.さらなる基本的な動作については、私の説明より、ぺるけさんのオリジナル解説を参考にして下さい。



諸 特 性


 気になる最大出力は当初の目標通

り2W近い出力が得られました。な

お無歪出力というのはノンクリップ

出力の事で、私はこれを最大出力と

しているのですが、ぺるけさんの元

記事では歪率5%時の出力を最大出

力としているので、本章では併記と

しました。


利得 14.2 dB (5.1倍)

NFB 8.8 dB (2.75倍)

DF= 5 on-off法 /1kHz 1V

無歪出力1.8W THD2.1%/1kHz

最大出力2.3W THD 5%/1kHz

残留ノイズ 0.34mV




 次に周波数特性ですが、元記事とはOPTが違うので比較にはなりませんが、広帯域で十分な高域特性

を見せています。東栄のT-1200は高域端のアバレが大きく、どうしても補正を入れざる得なかったのです

が、本機の高域端はOPTの特性を反映して素直に落ちています。さらに山谷等もなく補正を入れる必要

が無かったので、最終的に10〜106kHz/−3dBの良好な特性が得られました。




 最後に高域安定度の確認で10kHzの方形波応答も見たのですが、負荷開放でも波形変化は少なく、全く

安定しています。これを見ても補正は必要ないようです。


 この14GW8/PCL86は今でも廉価で売られている球ですが、適切なOPTと組み合わせてやれば、予想以上

の性能を見せてくれるようで、私も過去に何度か使ってきた球ですが、この球で100kHzを超える広帯

域特性が得られるとは嬉しい誤算になりました。



 後  記

 この試作機を組んで今さらながら思ったのですが、安い球だから安いトランスと組み合わせるという過去

の考えは止めて、残り少なくなった真空管を生かせるように、優れたトランスと組み合わせてやりたいもの

です。今回のレポートのように、14GW8でもこれだけの高性能アンプに仕上がるのですから。





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