14GW8cspp アンプ





  はじめに

  何時もお世話になっているARITOさんの

 ご厚意により、今回はCSPP用バイファラー

 巻出力トランスを巻いて頂きました。このCS

 PPというのがどういう動作なのか、詳しくは

 他章に譲りますが、代表的なアンプとしては有

 名なマッキントッシュアンプやLUXのA30

 00などがあり、どちらも高い評価を得ている

 アンプです。




 出力管の選定

 この回路では出力段のプレート巻線とカソード巻線が同じ巻数なので、出力管には出力電圧の半分もの
カソード帰還電圧が発生し、これにより入力電圧が打ち消されるので、出力段の利得が非常に低くなって
しまいます。必然的に三段アンプとなるので、省スペースとなる複合管で、サンエイで10本2500円
という破格値で購入出来るPCL86/14GW8を使う事にしました。

 一方で、この方式に使われているOPTは、1次巻線と3次巻線を密着させて巻くという大変手間の掛
かる巻線構造になっています。過去、このようなOPTが一般に市販された事は一度もなく、私にとって
非常に貴重なOPTなので、色々試してみたいところですが、まずは上記の球を使って、なるべく簡単な
マッキントッシュタイプCSPPアンプとして組んでみました。

 回路としては

 従来のCSPPアンプは、上記の市販アンプを筆頭にWEB上に発表されているセットにしても、高性
能を目指すあまり複雑な回路のセットばかりでした。そこで今回のアンプは、性能よりもなるべく簡単な
CSPPアンプとして組む為に、ポプュラーな三極五極の複合管による二段アンプ(実質的三段)という
構成の回路になりました。

 初めてマッキントッシュタイプCSPPを見た方は出力段の接続が何やら面妖なと思われるかも知れま
せんが、これを説明していると長くなるので、接続についてはあまり深く考えずに、こんな物だと思って
下さい。ただマッキントッシュタイプの特徴としては、前段の電源を逆相の出力段から取る事でブートス
トラップ式の打ち消しを掛けていて、カソード帰還により著しく感度の低下した出力段を効率よくドライ
ブしているのです。

 当初は真空管だけの純粋な二段アンプとしたのですが、それでは最大出力時に約2Vもの入力電圧が必
要になり、これに組み合わせる機器を選ぶなど使い難い面がありました。そこで入力感度不足解消の為に
初段にFETを追加しました。

 ただ、なるべく簡単にという思いから追加部品点数の少ないカスコード接続としました。通常カスコー
ド増幅はそれで1段という解釈のようですが、実質的には2段増幅と同等の利得が得られるので、当初の
ような欠点はほぼ解消出来ました。

なお14GW8は動作例でも最大出力14Wとされているので、10Wオーバーを目指す事にしました。
まずはカソードバイアスとして耐圧目一杯の電圧を掛けようと思ったのですが、このPTの電圧としては
300Vまでしか上げられないのでB電圧は300Vとなりました。この程度なら14GW8のSG電圧
も300Vまで許されているので、従来通りの固定バイアスで問題ないですし、あとはバイアスを少し深
くするだけで済みそうです。

 気になるのは出力管の最大定格ですが、一見すると固定バイアスであっても、KNF巻線のDC抵抗約
50Ωがカソード抵抗として入っている事になりますし、SG電流が含まれるカソード電流を30mAと
して、プレート損失を9W以下に抑えているので問題ないでしょう。

 という事で以下のような回路になりました。





 今回のカスコード接続ではグリッド電位用の10V程度の正電圧を用意する必要がありますが、これは
B電圧を分圧して供給するようにしています。さらに最大出力時でも、ピーク入力での一時的なグリッド
電流ならケミコンで吸収出来る筈です。ところが諸特性を測定する為には発振器の連続信号が入るので、
こうなるとコンデンサーは無力ですし、10K近いブリーダー抵抗ではグリッド電流を流しきれません。
そこで本機では、測定用にヒーター電圧を整流した正電圧を与えて、ブリーダー抵抗を低く抑えています
が、本来の使用法である音楽信号を鳴らしている分には、ここまでする必要はないと思います。

 一方、このFETはYランクのを使いましたが、さすがに無選別という訳にはいかなくて、Idssを
当たって大体近い石を選んでいます。ただ三極管の方が揃っていませんので、厳密に揃える必要はなく、
大きく外れていなければ大丈夫だと思います。それでも実装状態での三極管プレートの上下の電圧差は、
左右とも2V以内に納まっているので、これ以上厳密に選別しても大した差は出ないと思います。

 またCRDのE102の電流値は、1mAを中心に0.88〜1.32mAのバラツキがあるとされてい
て、さらに温度変化もあるとの事なので、出来る事なら余計に入手して測定する事により1.2mAのもの
を選別すると、よりベターです。

 本機もCRDも真空管も一応は選別したのですが、初段の負荷抵抗を高めにしているので、選別を省い
たCRDが1mA以下のものだったとしても、特性の低下は少ないと思います。



     諸 特 性


  ようやく14GW8本来の実
 力である10Wオーバーを実現
 する事が出来ました。
  グラフで特徴的なのは1W以
 上の各曲線がよく揃っている事
 で、またクリップの手前で歪率
 の上昇が緩くなっている事など
 から、あれだけ難しかった出力
 管のドライブが、今回は効率よ
 く出来ているようです。

  さらに、PP回路なのに高域
 特性が一番低歪になっているの
 で、上下の対称性が回路的にも
 優れている事を窺わせ、ようや
 くCSPPの本領発揮という処
 ではないかと思います。


 最大出力12.5W THD 2.5%

 利得 20.5dB(10.6倍) 1kHz

 NFB 9.4dB

 DF=6.3 on-off法1kHz 1V

 残留ノイズ 0.22mV



 周波数特性では80kHz付近で僅かに盛り上がっていますが、その後はディップ等もなく素直に落ち
ています。ただ、後ほど紹介する方形波応答で負荷解放時に立ち上がりが乱れるので補正を入れています
が、最終的な高域特性でも120kHz/−3dBまで素直に伸ばす事が出来ました。




 最後に10kHzの方形波応答ですが、負荷8Ωでは僅かにオーバーシュートがある程度で、きれいな
方形波が見られるのですが、負荷解放にすると500kHzくらいの寄生発振のようなリギングが観測さ
れます。そこで三極管のプレートに小容量のCを入れたところ、この乱れを半分くらいに抑える事が出来
ました。この補正方法はMTタイプの複合出力管に特異な方法で、そのような複合管の場合は、両ユニッ
ト間のシールドが五極管のカソードに接続されているので、このカソードがアースから浮いているとシー
ルドの役目を果たさなくなってしまうのです。

 そこで三極管のプレートを小容量のCで接地する事で、超高域でのシールド効果を狙っているのです。
この容量を増やせばさらに効果的に抑えられますが、その分音質に影響しそうなので本機では最小の値と
しました。



 実は、このリギングを補正で潰そうとしたのですが、なかなか手強くて、NF抵抗に抱かせた微分補正
でも、OPT2次側のゾベル補正でも上手くいきませんでした。全段差動アンプのように複合管のシール
ドがグランドから浮いている事が原因だったようで、これらシールドのある複合管はCSPPには不向き
だったのかも知れません・・・今後の課題を残してしまいました。

 さて、これだけの特性が得られれば他に効果的な改良点も思い浮かばないので、PCL86/14GW
8CSPPアンプとしては、ここらで完成にしたいと思います。その代わりというか、結果的にやや複雑
になってしまいましたが、それでもマッキントッシュやLUXA3000に較べれば遙かに簡素だと思い
ますし、とにかく、この程度の回路でマッキントッシュ型アンプの音が楽しめるのですから、追試する価
値は十分あると思います。



・・・染谷電子というところから待望のバイファラー巻きトランスが発売になりました。

染谷電子のページへ

バイファラートランスの第二段であるASTR−20は、インピーダンスも容量も14GW8にピッタリ

のトランスなので、マッキントッシュ型アンプの音に、ぜひチャレンジしてみて下さい。





 関連ページ、参考ページの紹介

バイファラートランスを提供して頂いたARITOさんの掲示板 ARITO's チョロQ

ARITOさんの製作例のページ CSPPへの誘い ・・・トリファイラ巻のOPTを使ったセットまであります。

話の発端となった、めのさんの掲示板 ものつくりの掲示板

いつもアドバイスを頂いているAyumiさんのCSPP解説ページ 並列給電プッシュプル、同トップ Ayumi's Lab.

上条さんのCSPP回路解説ページ、CSPP回路の基礎解説、同トップページ 進化するパワーアンプ

かつさんのCSPP回路解説ページ、クロス・シャント・プッシュプル、同トップページ オーディオ&SF&博物館

鱸@日野さんの製作と解説のページ、SEA BASS SOUND、同リンク集 CSPP 繋がり

宮崎@大蔵さんの製作例のページ、SG電源を定電圧化したCSPPの製作、同トップページ 真空管アンプとLTSpice

黄金のアンコールさんの製作した、15KY8A CSPPアンプ、同トップページ 音楽とオーディオの部屋




 謝 辞

 さて、このアンプを設計するに当たっては貴重なトランスを巻いて頂いたARITOさんを始め、もの
つくりの掲示板を運営するめのさんには、当初からシミュレーションでのアドバイスを頂き、またAyu
miさんからは定数の求め方など大変勉強になるアドバイスも頂戴しました。私としては、出力段はとも
かく、マッキントッシュタイプの特徴であるブートストラップの掛かったドライブ段の動作点の求め方な
どはまったく分からず、通常の考え方で計算していたので大いに参考になりました。お三方をはじめ、他
にも様々なアドバイスを頂いた諸先輩の皆さまに感謝申し上げます。