6CW5 島田式csppアンプ






  CSPP動作の第三の方式に島田式という

 のがあり、名前からも分かるように日本人が

 考案した方式で、そもそもクロス・シャント

 PPという名称を初めて用いたのも、この方

 式の考案者である島田氏と云われています。

  いわばCSPP回路の元祖とも言える記念

 碑的な方式が島田式CSPPなのですが、ど

 ういう訳か島田氏の発表した元記事以外には

 追試レポートや製作記事が書籍にもWEB上

 にも全くありませんでした。

 私が試作機を組んだ段階では、ラ技全書に載っていた島田式アンプの回路図一枚だけを見て組んだので

(先に述べたように、島田式CSPPに関する詳しい解説記事は一切無かったのです。)理解不足の面も

多々あったのですが、ARITOさんの掲示板に試作レポートを載せたところ、それを見て下さった諸先

輩方から貴重なご指導ご鞭撻を頂戴し、実用的な回路に仕上げる事が出来たという次第です。

 そのように、色々と紆余曲折もありましたが最終的な回路としては以下のようになりました。




 島田式CSPPの特徴はカソードチョークを使うことで、このチョークはOPTと電磁結合されていな

いので抵抗で代用する事も出来ます。ただ抵抗の場合は、その抵抗値のまま高インピーダンスに出来ない

のでロスが大きくなり、出力がチョーク式の半分程度になってしまいます。この辺りの事は、事前に試作

機を組んた時の顛末を別章に纏めましたので、そちらも参照して頂けたらと思います。

 またチョークの他にも、それぞれのプレートから反対側のカソードにタスキ掛けにケミコンが渡されて

います。これによってOPTとカソードチョークは交流的に並列負荷となるのですが、カソードチョーク

は二次側巻線がなく高インピーダンス状態となっているので、負荷インピーダンスはOPTの900Ωの

ままでほとんど変りません。一方で、プレート側にチョークを入れてカソード側から出力を取り出しても

特性的には変りませんし、両方から出力を取り出してもまた同じような動作をします。

 このチョークの働きとして、直流は通しますが交流は通さないので、出力管の出力ループは下図のよう

になり、このタスキ掛けに渡したケミコンが左右それぞれの電源として擬似的に働くので、電源は一つで

も交流的には個々に独立した電源を必要とするサークルトロンと同じ動作をするのです。


 という訳でこのタスキ掛けケミコンにはある程度の容量が必要で、これをケチると低域特性が悪くなる

ようです。島田氏の元回路では40μFでしたが、これは当時としては仕方ない値で、良質な部品が手軽

に入手出来る今だからこそ見直される回路なのかも知れません。

 なお、この島田式CSPPでは先に述べたようにOPTとチョークをどちら側に入れても同様の動作を

するのですが、出力管をカソードバイアスで動作させる場合だけは、チョークをカソード側に入れた方が

有利です。それはカソード抵抗にパスコンが必要ない為で、回路図を見ると分かるようにカソード抵抗に

は交流は通りませんから、パスコンが無くても利得が打ち消される事はないのです。

 それ以外の回路は、ブートストラップもバイアス電圧とカソード抵抗を併用する折衷バイアス方式も前

章のサークルトロンと同じですが、少々出力Upを狙ってカソード抵抗を100Ω程度下げてみました。

その分バイアス電圧を上げなければならないので、ドライブ段のカソードはマイナスへは繋がず単に接地

として、消費電流を下げることでマイナスの電圧を上げています。また本機に使用したOPTとチョーク

は例によってARITOさんが巻いて下さった特製トランスで、さらにPTは、シールドがない為にボツ

になったサークルトロン用PTを流用したものです。


諸 特 性


 最大出力としては狙い通りに

前章のセットより増えていて、

6CW5にとっては少々きつい

動作ですが、これは上條さんの

作例が20Wだったので、敬意

を表して、同様の出力を目指し

てみたものです。

 それでも各特性曲線が揃って

いて、全域でバランス良く動作

している事を覗わせます。



無歪出力 18W THD1.6%1kHz

NFB  11.8dB

DF=12 on-off法1kHz 1V

利得 24.1dB(16倍)1kHz

残留ノイズ 0.25mV


 次に周波数特性で、これも思いのほか広帯域特性となっていて、本機に使用したOPTは「量産化も見

据えてボビン巻にした」との事だったので、あまり高域の伸びないOPTなのかと思っていたのですが、

ご覧のように10〜230kHz/−3dBという特性が得られました。

 さらに、これは何も補正を掛けていない状態での特性で、それでもピークを生じる事もなく高域端まで

素直に伸びているのは特筆ものだと思います。一方、私のメインシステムはフルレンジSPなので、本当

はゾベル補正くらいは入れた方が良いのですが、今のところ問題は起きていないようです。




 この良好な高域特性は方形波応答にも現れていて、下のようにリギンクなどのない整った波形で、僅か

にオーバーシュートがありますが、負荷開放でも乱れはありませんでした。




 さらに低域特性を見る為にノンクリップ出力18W時の低域波形を観測してみました。OPTは25W

の容量を持つというのは分かっていたのですが、カソードチョークについては最大容量が分からなかった

ので、順次、周波数を下げて確認してみたものです。

 これを見ると50Hzから30Hzまでは、まだ余裕があるようで整った波形でしたが、20Hzまで

下げると、さすがに僅かにピークが尖り段差も目に付くようです。ただ、これはおそらく40Hz/25

Wで設計されたOPTの限界が現れた物で、チョークの方にはまだ余裕があるように思われます。




 最後にクロストーク特性をご覧頂きたいと思います。5kHzより下の領域はほぼ平坦ですが、これは

残留ノイズを測っているようなもので、それより上の領域でも急激に跳ね上がる事無く左右とも良好な特

性を見せていると思います。当初はR→Lの数値が極端に悪かったので、あちこちにシールド板を差し込

んでみたところ、ボリュームの端子の所で信号の飛び付きが起こっていたようです。そこで、ここを覆う

ようにシールド板を固定したら、左右とも良好な数値になりました。




 以上のように、製作例の少ない回路にしては中々の特性が得られましたので、追試してみようと思われ

る方もいらっしゃるかも知れません。その場合、カソードチョークは適当な小型OPTを2次巻線開放で

使えば代用出来ますが、OPTについてはCSPPでは最適負荷がDEPPの1/4になるので、市販品

には適合するOPTが無いようです。しかし、6CW5のような低rpの球ではなく6BQ5のような球

を選べば、最適負荷がCSPPでも2kΩとなるので、2次側に16Ω巻線がある5kΩのOPTなら、

(ISOのFE-25-5、ノグチOPN-15-5、東栄変成器OPT-15P-5KΩ等)2.5kΩとして使えるので追試も

可能だろうと思います。さらに染谷電子の ASTR-20Sなら1次巻線を並列にして2kΩですが、このOP

Tはバイファラー巻トランスですから、これを使うなら始めからマッキントッシュタイプで組んだ方が、

余計な部品が必要なくなるので遥かに良いでしょう。それでも、とりあえず ASTR-20Sでサークルトロン

や島田式の試作をしてみて、それからマッキントッシュタイプで本製作に取り掛かるというのなら、大い

にアリだと思います。

 また島田式で本製作をする場合には、チョークやタスキ掛けケミコンの配置や取り付け等に苦労すると

思いますので、本機のように全てシャーシ内に納めるよりは、例えばチョークだけでもシャーシ上に取り

付けた方が製作は楽だろうと思います。(本機は外観を優先するあまり苦労した物ですから・・・)


 謝  辞

 文頭でも述べましたが、このアンプを設計するに当たってはARITOさん、鱸さん、Ayumiさん

宮崎@大蔵さん、K.ameさんらから大変有意義なご意見やご助言を頂戴し、またARITOさんには専用

のトランスまで巻いて頂きました。ここにあらためて感謝の意を表するものです。


* * * * *

 なお、日頃からご助言を頂いているAyumiさんのページに、昭和27年11月のラジオ技術誌に発

表された島田式CSPP回路のオリジナル記事が掲載されていますので、参考になると思います。

「クロス シャントPP回路を使った6A3BPPと6AR6PPの試作」