6AS7G MT付SEPP







  このアンプは、OTLの選別ではじかれた

 球の活用を狙って組んだ試作機が(次章を参

 照)意外と良い特性を見せたので、常用機と

 して新たに組み直したものです。当初は適当

 なマッチングトランス(以下MT)がなくて

 試行錯誤したのですが、ソフトンから発売さ

 れているMTを使って見たところ、予想以上

 に素直な特性を持つMTだったので、不安定

 な6AS7Gを使いながら、良好な特性と安

 定度を兼ね備えるセットになりました。

 ところで、真空管アンプを自作する者にとって、真空管OTLは一度は組んで見たいアンプなのですが

高電圧小電流を得意とする真空管の特性に相反する動作が要求されるので、どうしても規模が大きくなっ

て、なかなか手軽には作れません。またたとえ製作したとしても、電熱器並みの発熱に足を引っ張られて

冬季以外の出番は少なくなりがちです。しかし、その音質はOPT付アンプとは一線を画すものがあり、

(どちらが良いなんて事は私には分かりませんが)ある高名なオーディオ評論家の大先生は、「OPT付

のアンプなんぞは羊頭狗肉である!」とまで述べています。そのように言われても、多くの方にとって大

規模アンプは手軽に製作出来ないのも事実ですから、なるべくOTLアンプのエッセンスを残しつつコン

パクトなセットを組み上げる為には、MT付SEPPというのが最適な組合せではないかと思います。

 そのような意味もあって、どうせなら差動電源を備えた本格的なSEPPにしようと思ったのですが、

市販の電源トランスではこれに適合するトランスがなかったので、春日無線に特注して各段に最適な電圧

が得られるようにしました。特にドライブ段の電源は、平滑ケミコンを二階建てにして500Vを超える

電圧を供給する事で、ドライブの難しい6AS7Gをフルスイングしています。(手軽に製作出来るよう

にと言っておきながら、特注トランスを使ってしまったのですが、MT付でもここまでやれるという事を

試してみたかったのです。)

 という訳で、以下のような回路になりました。一見すると電源が複雑そうですが、上下の出力用の電源

とドライブ用およびバイアス電圧を取り出しているだけです。




製作のポイント

 ソフトンのMTは128Ω用ですが、4Ω端子に8Ωを接続して1次側256Ωとして使用しています。

一般的にこのような使い方をすると低域の特性が下がるのですが、このMTは50Wもの伝送能力を持つ

高性能トランスなので、あとの特性に示すように何ら問題はありません。

(有)ソフトン TEL 045−989−4642   http://www.icl.co.jp/audio/k-mt.htm


 電源トランスの特注は春日無線に依頼しました。巻線容量にあまり余裕がないのですが、これは総容量

が200Wを超えると値段が上がるので、200W以内になるように各巻線の仕様を考えたものです。

 (有)春日無線変圧器 TEL/FAX:03-3257-0337  http://www.e-kasuga.net/km_sp_odr.htm

しかし実際に組み込んで電圧を見ると、巻線の仕様は以下のように変更した方が良さそうです。



トランスの仕様をこのようにすれば、ドライブ段用の電圧を嵩上げする20Vのトランスも不要ですし、

出力用電源の整流直後の47Ωも不要になると思います。


諸 特 性

 本機のように高い負荷で受ける

SEPPに6AS7Gを使うと、

一層ドライブが難しくなるのです

が、この段の電源電圧を上げた事

が功を奏して、目標の出力10W

が得られました。さらにDF値も

約14.3と真空管アンプらしからぬ

高い値を得ています。しかしやや

残留ノイズが多く低出力側の歪率

が芳しくありません。


無歪出力10.6W THD0.74% 1kHz

NFB  約15.9dB

DF=14.3 on-off法1kHz 1V

利得 25dB(17.8倍) 1kHz

残留ノイズ 1.1mV


 補正無しの特性では200kHz以上/-3dBまで伸びるというOTL並みの高域特性を見せています。本機

では軽く補正を掛けていますが、それでも130kHz/-3dBまで伸びているので十分な特性です。




 補正無しでは僅かにオーバーシュートが見られたのと、負荷解放では数秒後に発振を始めてしまうので

軽く微分補正を入れたところ、下の波形のような整った形になりました。




 雑 感

 本機は常用機と言っておきながら、回路が複雑になるのも構わずに、目標出力を設定したり差動電源を

採用したりと、今から考えれば試作機のように特性を追いかけた面もあるので、当初の計画の通りに作り

易さを重視して、既製規格の電源トランスを使うようにしても良かったかも知れません。



6AS7G MT付SEPP VrU


 というわけで、次のセットは作り易さを優先して出力段の電源は単一電源とし、ドライバー段への電源

も500Vのケミコンで間に合うように電圧を下げたものです。実際のセットの電源トランスはサンスイ

製の古いトランスを使ったのですが、今なら野口トランス等の既製の電源トランスが使えます。




 電源周りが簡略化されたおかげで、回路全体まですっきりして見えます。これでも特性としては上記の

差動電源のセットとさほど変わらないのですが、トライバー段の供給電圧が下がったので、最大出力は少

なくなっています。


諸 特 性

 歪率特性としては右のようなも

ので、先のセットとの一番の違い

は最大出力が低下してしまった事

で、ドライブ段周りの定数をいろ

いろ弄って見ても、これ以上良く

なる事はありませんでした。



無歪出力6.5W THD1.1% 1kHz

NFB  約15.9dB

DF=10 on-off法1kHz 1V

利得 25dB(17.8倍) 1kHz

残留ノイズ 1.1mV


 つぎに周波数特性ですが、高域の特性が先のセットの特性より悪いのは、安定性を考慮して補正を多め

に入れたからで、補正を少なくすれば、ほぼ同じ様な特性が得られます。


 以下はクリップ・ポイントを周波数毎に採ってグラフにしたものです。低域の特性は15Hz付近まで

ほぼフラットに伸びていています。通常のPP回路での特性でしたら、どんな高級品のOPTを使っても

これだけの低域特性は得られないと思います。




出 力 Up 対 策

 このセットは、音質的には先の差動電源のセットと同じようなものですが、最大出力の低下が大きいの

で、小型のヒータートランスを追加して、ドライブ段への供給電圧をケミコンの耐圧目一杯まで上げてみ

ました。以下のように10Vのトランスを倍圧整流にして上乗せしています。




歪 率 特 性

 追加費用としては千円程度なの

ですが、無歪出力は8W近くまで

上がりました。ただグラフにする

と大して違わないように見えます

し、実際に鳴らしてみても違いを

実感する事はないと思います。

 どちらを選択するかは、好みの

問題というか気分次第という事に

なりそうです。


無歪出力8.0W THD1.5% 1kHz

それ以外の特性は、ほぼ変らず。


 電源トランスに付いては、サンスイのPT220だと巻線電圧が高くてすっきりするのですが、野口ト

ランスに比べると値段が倍以上するので、どちらにするかは予算と相談して選べば良いと思います。




落ちこぼれ球 
 救済型試作器

6AS7G OPT付SEPP



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