6080(6AS7G) cspp アンプ






  CSPPはプレート側とカソード側に負荷

 が等分に分かれるので、高いドライブ電圧が

 必要ですが、それを解決する為にはチョーク

 負荷によるドライブが有効なようです。以前

 6AQ5CSPPでこの方法を試してみたと

 ころ、ドライブの問題の他にも音的にも良い

 結果を示したので、今回はさらにドライブの

 難しい6080(6AS7G)でチョークドライブ

 の有効性を試してみようと思います。

 一般の多くのアンプのように、ドライブ段の負荷を抵抗にすると電源電圧以上の出力電圧は得られませ

んが、これをチョーク負荷にすると電源電圧以上の出力電圧が得られ、さらに駆動素子を選べば電源電圧

の倍近い出力電圧が取り出せます。

 一方、6080(6AS7G)は10W級の出力管による双三極管で、これ一本で10W強の三極管PPアン

プが組めるという魅力的な球なのですが、μが2しかなく異常に高いドライブ電圧が必要な事から、通常

のDEPPアンプでもほとんど人気がありませんでした。そんな球をCSPPで使うとなると、更に高い

ドライブ電圧が必要になるので、もはや今までのようなドライブ段では6080(6AS7G)をフルスイング

させる事は出来ません。

 そのような理由もあってチョーク負荷ドライブの採用となりましたが、さらにドライブ電圧確保を優先

で考えた結果、ドライブ段はバイポーラトランジスターとする事にしました。というのも三極管では負荷

が低いと電源電圧の倍近い振幅は得られませんし、五極管でも肩特性で約50Vのロスが出るからです。

(実はもう一つ理由があって、チョークに場所を取られてシャーシ上に電圧増幅管を立てるスペース等が

なくて半導体にせざる得ませんでした。)

 という事で以下のような回路となりました。




 6080(6AS7G)の動作例ではPPで得られる出力は13Wとなっていますが、CSPPでは静電流を

絞っても音質の劣化が少ないので、深いAB級として計算してみたところ20W近い出力が得られるよう

です。ただ、この出力管を純粋な固定バイアスで使うと安定動作に不安があり、適当な値のカソード抵抗

が不可欠なので、実際にはもう少し下がってしまいます。

 本機のドライブチョークはARITOさんの特製ですが、OPTと同じ(株)染谷電子で注文すれば入手

できます。設計者のARITOさんが測定作成した特性図を見ると、無負荷ではカマボコ型の特性で平坦

な特性を得る為には負荷を下げた方が良いようです。また出力管の安定動作の為にも負荷となるグリッド

リーク抵抗は低い方がベストなので、本機では33kΩとしています。となると差動動作のドライブ段に

流す電流も増えるのですが、トランジスターの安全領域との兼ね合いで、300V10mAという動作点

を選びました。ただ高耐圧トランジスターの規格を見ると高電圧になっていても、データシートのASO

特性図をみると高電圧領域では思ったほど電流を流せないので、手持ちの石を使う場合などは必ずデータ

シートで確認する必要があります。


 このドライブ段の石は特性を揃えるのが難しいので、エミッタの10Ωの電圧を見て上下の電流を揃え

るようにするのですが、バランスボリュームが接触不良になっても問題ないように片側可変としているの

で、揃わない場合は上下の接続を入れ替えて揃うようにします。もっとも私はクリップ波形を見て上下が

同時にクリップするように調節しました。(本機ではドライブ段の方が出力段より先にクリップするので

この調整で最後の一伸びが違ってきます。)

 なおCB間の1.5MΩは自己帰還を掛けて出力インピーダンスを下げようとしたのですが、コレクタ

が高電圧なので必然的に高抵抗となり大した効果はないようです。ここは無くても大勢に影響がないかも

知れませんが、後で述べる高域の問題等もあるので、少しでも下がればと気休めで入れています。

 この少しでも出力インピーダンスを下げたいと考える理由ですが、ドライブ段の負荷となるチョークの

周波数特性は上の図のようにカマボコ形で、バイポーラのような「定電流特性」の素子で駆動すると出力

特性にもカマボコ形の特性がそのまま表れてしまいます。さらに最大出力電圧も、負荷が下がると当然に

下がってしまい、これは負帰還を掛けてもどうにもなりません。しかし例えば三極管のような内部抵抗の

低い素子で駆動すると「定電圧駆動」となり負荷がカマボコ形でも出力特性はよりフラットな周波数特性

が得られます。という訳でチョーク負荷の場合は、本来なら内部抵抗の低い三極管で駆動するべきでした

が、シャーシ上にスペースが無かったので、グリッドリーク抵抗値を下げて、さらに自己帰還を掛ければ

何とかなるだろうと思って製作に取り掛かりました。


・・・はたしてその結果は・・・

諸 特 性


 最大出力としては先に述べた

通りクリップポイントで15W

となっています。それでも従来

の動作例では計算上でも13W

なので大健闘だと思います。

 ただ高域については歪が多め

でグラフ上のクリップポイント

も10W付近のように見えます

が、これについては後ほど説明

したいと思います。



無歪出力 15.1W THD1.1%1kHz

利得 19.8dB(9.8倍)1kHz

NFB  9.5dB

DF=6.7 on-off法1kHz 1V

残留ノイズ 0.56mV



 次に周波数特性で、上側がだいたい50kHz付近から落ち始めて10〜77kHz/−3dBという

特性になりました。これはドライブ段に使ったチョーク特性の影響で、一見すると帯域が狭いように見え

ますが実際の音にはほとんど影響ないようです。

 さらに信号経路にOPTの他にチョークも入るという事で、負帰還に対する安定度が懸念されたのです

が、特段の補正を入れなくても安定しているようで全域に渡ってフラットな特性になっています。




 ただ上の図のように落ち始めてからの傾斜が急なので、これが方形波応答にも現れていて少しリギンク

が出ています。それでも安定度に問題はないようで、負荷開放でも乱れはありませんでした。上記のよう

にOPTの他にチョークも入れているのに負荷開放でも乱れは無く、これだけ整った波形を見せられると

もはやチョークを敬遠する理由はないように思われます。(スペースと値段?)




 さらに先に述べたように、高域だけ早めにクリップしているように見えるので、クリップ付近の波形を

観測してみました。これを見ると10Wまでは正弦波の形を保っていますが、これを超えるとクリップで

はなく波形の頭が尖って三角波になり、さらに出力を上げると浜辺に寄せる波のように頭の傾いた三角波

となって歪が急上昇していたようです。先の6AQ5csppの時はチョーク負荷でもこのような事はな

かったので、これはバイポーラトランジスターの特性のようです。しかし、高耐圧のバイポーラは種類が

少なく他に選択種はないですし、少なくとも10Wは出ているのでこれで良しとしました。




 最後にクロストーク特性をご覧頂きたいと思います。5kHzより下の領域はほぼ平坦ですが、これは

残留ノイズを測っているようなもので、それより上の領域でも急激に跳ね上がる事無く左右とも良好な特

性を見せていると思います。当初はR→Lの数値が極端に悪かったので調べてみたところ、右側の出力管

の近くにボリュームがあるので、ここで信号の飛び付きが起こっていたようです。そこでボリュームを覆

うようにシールド板を入れたら左右とも良好な数値になりました。

 本機では左右のチョークを密着させてシャーシ中央に配置したので、当初はチョークによる信号漏れを

懸念していたのですが、Rコア構造が功を奏したのかチョークでの信号漏れはなかったようです。



 OPTは容量的には染谷のASTR20で十分ですが、5kΩでは6080(6AS7G)の負荷としては高

めなので出来ればASTR12を使うとベターです。なお電源トランスも特注で(MFさん感謝です!)

当初は20Wの出力を狙っていたのでDCで250V350mAが得られる仕様にしたのですが、実際に

はドライブ能力により最大出力15W程度になったので、もっと電流が少なくても大丈夫だと思います。

それでも市販のPTにはDCで250V300mA程度が得られるトランスは無いので、どうしても特注

になってしまいますが、この辺りの事情も、6080(6AS7G)が廉価にも係わらず人気が無い要因なので

しょう。一方ドライブ段の電源は、電圧が足りなくて初段の電源でゲタを履かせて290Vとしたので、

ここの巻線電圧を230Vとすれば単独で300Vが得られる筈です。また回路図では省略してしまいま

したが、この他にも出力管用に6.3V2.5Aのヒーター巻線が2回路必要です。

 なお初段用電源の三端子レギュレーターは手持ちを使ったのでツェナーで嵩上げしてますが、7918

を使えばツェナーは要りませんので、念の為申し添えます。



 雑  感

 このアンプの特徴は、散々述べているように廉価なのにドライブが難しくて敬遠されがちな6080

(6AS7G)をチョークドライブで料理するというものです。そしてチョークを入れると特性データ的には見

劣りする傾向がありますが、出てくる音は案外と気持ち良く聴いていられたので、データの数値だけを見

てあれこれ論じるのは、このアンプに限ってはさほど意味がないようです。

 核心となるドライブ段は本来なら三極管を使うべきだったので、データを採っている段階では、本機は

失敗したかなと思ったりしたのですが、出てきた音を聴いてそんな危惧は徒労だったと一安心しました。

電源トランスが特注品になるので手軽に作るという訳には行きませんが、自信をもって披露できるセット

になったのではないかと思っています。

 という訳で、いつものように自画自賛になってしまいました。ご容赦です。



 謝  辞

 このアンプのバイファラー巻OPTとドライブチョークはARITOさん、電源トランスはMFさんに

それぞれ巻いて頂きました。ここに改めて感謝申し上げます。





目次へ →