42三結 打消し式シングル






 省エネ版打消し方式の第三弾で、前章ま

でのアンプは既存のOPTを流用して使っ

たので、打消し方式の長所を存分には発揮

出来ませんでした。PP用OPTの場合は

本来の使い方とは違う為に、巻き線仕様が

シングル回路には合わず高域にアバレが出

てしまいましたし、一方シングル用OPT

ではインダクタンス不足で、DCカットし

ても十分な低音は得られませんでした。

 そんな時にARITOさんが本方式にぴったりの全く新しいコンセプトのOPTを頒布してくれたので、

お手軽に旧作セットに載せ換えるのではなく、その真価を確かめるべくアンプの方も新規製作する事としま

した。このOPTの仕様を簡単に説明すると、巻き線はシングル用として巻いていますがコア組みはラップ

ジョイントでシングル用にもかかわらず直流は流せません。その代わりPP用に匹敵するインダクタンスを

持つので、低域再生能力においてはPPアンプと同様の低音が得られるというものです。

 そこで今回のOPTはビンテージの直熱三極管と組み合せようかとも思ったのですが、このOPTならば

出力管の魅力に頼らなくも良い音のアンプに仕上がるのではないかと考え、傍熱管の中では比較的音が良い

と評判の42を三結にして鳴らす事としました。本機は定電流回路等の付属回路もあるので、直流点火回路

でこれ以上煩雑にしたくなかったのです。ただ出力2Wは欲しいので、42を直結ドライブのA2級動作に

したいのですが、そうなると初段だけで100倍以上のゲインが必要になりそうです。また定電流回路など

に半導体を多用している事もあって、どうせなら半導体でドライブしたいと考えました。そして終段と直結

とする為にフォールデッドカスコード回路を採用する事としました。

 このフォールデッドカスコード回路は、負電圧を与えれば出力電位を任意の電圧に設定出来ます。なので

これを負電圧側に設定すれば、出力管のカソード抵抗を無くして固定バイアスとする事も出来ますが、本機

では0Vに設定する事としました。今回採用した42はビンテージと言うほどの球ではありませんが、それ

でも半世紀以上前に生産された古い球なので、なるべく大事に扱いたいと考えたからです。つまり出力管を

カソードバイアスとしておけば、もしも前段半導体の動作が温度等で変動しても、出力管の動作はカソード

抵抗で制限されるので、大切な球を痛める恐れが少ないと考えました。

 また前段の電源は間違っても高電圧が掛からないようにサブトランスで供給し、負電圧側を定電圧化して

中点を設定するとともに、ドライブ段の出力電位(段間の0V電位)も安定させています。

 という訳で以下のような回路になりました。






  製作のポイントとしては

1.本機の肝は何といっても特別な仕様のOPT有っての事で、他章のアンプでも優れたトランスをいくつも

  頒布して頂いているARITOさんが、数種類の小型OPTを新たに製作販売するにあたって、その派生

  バージョンとして、販売に先立って中身だけ頒布して頂きました。なお、実際に販売されるOPTは角形

  ケース入りのみとの事で、これは42との見た目のバランスも良い丁寧な仕上げのケースです。

   さらに概要についてはARITO's Audio Labのページを参照して下さい。まもなく販売開始されると思い

  ますので乞うご期待です。ただ本機に使ったギャップレスコアのシングル用OPTは特注扱いで、頒布に

  ついては要相談のようです。

2.フォールデッドカスコード回路は私も初挑戦でしたが、成功の秘訣は使用半導体の選別で、まず定電流用

  のK30はIDSSが2mA〜4mAの揃う石を選別します。次にK117で100Ω前後のソース抵抗を入れて

  上記の電流の半分になる石を探します。この抵抗はNFの基準抵抗にもなるので、やはり2個揃える必要

  があります。一方、カスコード用のバイポーラTrは、最大定格をカバーする同型番の石ならば特性を揃

  える必要はないと思います。

3.また上記の回路のCB間に22PFの補正が入っていますが、これが無いと確実に発振します。その発振

  の影響は出力のDCカット用ケミコンに来るようで、当初は補正を入れてなかったので、このケミコンが

  発熱してジューという異音まで出していました。あわててケミコンを交換したのですが、バイポーラには

  補正が不可欠のようです、ただ、この値が大きすぎると終段の高域カットオフと重なるようで、高域端が

  盛り上がってしまうので要注意です。

4.定電流回路は前々章で採用しているのと同じなので基本動作説明はそちらを参照して下さい。ただ本機の

  B電源は本来単電源なのですが後ろにバイポーラTrを入れて電圧を下げ、疑似二段電源としています。

  これは単電源で定電流回路をインバーテッドダーリントン接続にすると、連続したクリップ動作で気絶し

  てしまうのです。通常の音楽信号では問題ないようですが、測定時に連続信号を入れるとクリップ以上の

  測定が出来ないので、疑似二段電源としました。なぜ気絶するのか確かな理由は分からないのですが、こ

  れで問題なく動作します。

5.その定電流回路のC4953/C3446は7W近い発熱をしますので、必ずシャーシに貼り付ける等の

  入念な放熱対策をして下さい。さらに二段電源のC4572も120Kのブリーダー抵抗の値が低すぎて

  1W近い発熱をしますので、相応の放熱器を付けて下さい。このブリーダー抵抗は220K程度でも良さ

  そうなので、機会があったら変更したいと思っています。

6.今回の出力管42は正式にはUZ−42で、その名の通りUZベースのST管で昔は電蓄や五球スーパー

  ラジオ用として広く使われたので、今でも流通在庫はあると思います。私はそのダルマの姿が好きで使い

  ましたが、もし入手困難でしたらGT管の6F6GTも全く同規格の球ですからソケットを替えるだけで

  同様に使えます。さらに6K6GTや国産改良版のCZ−504も同様に使えますが、これらはおそらく

  入手困難でしょう。ちなみにMT管の6AR5も特性は同じですが、バルブが小さくった分だけ最大定格

  も小さくなっているので本機には使えません。


諸 特 性


 歪率特性はシングルアンプなのに

中域のカーブと低域のカーブがほと

んど同様の特性を見せています。

 出力は目標のノンクリップ出力で

2Wが得られました。ただ高域はや

や早めにクリップしてしまうのです

が、これは定電流回路の高域特性の

ようで改良の余地があるかも知れま

せん。


利得 18.2 dB (8.1倍)

NFB  14 dB (5.0倍)

DF= 10 on-off法 /1kHz 1V

無歪出力2.0W THD1.7%/1kHz

残留ノイズ 0.7mV




 さらに周波数特性ですが、専用トランスの面目躍如の広帯域で十分な特性を見せているように思います。

高域端に山谷は全くなくて素直に落ちていますし、最終的に10〜110kHz/−3dBの良好な特性

が得られました。




 高域安定度の確認で10kHzの方形波応答も見たのですが、負荷開放でも波形変化は少なく、全く安定して

います。当初は前段が発振したのですが、これ以上の補正は必要ないでしょう。



 この高域特性については安定性、帯域特性ともに問題ないのですが、先に述べたように出力を上げていく

と高域の歪率が中域よりも若干多くなっています。クリップ付近の動作なので音への影響は感じられません

が、前章前々章ともに見られる現象なので、打消し式シングルアンプに共通していて、どうやら定電流回路

由来の特性のようです。

 これは定電流回路の高域インピーダンスが早めに落ちているのかも知れないので、直列に小型インダクタ

を入れたら改善するのではと思っています。つまり定電流回路は負荷の7kΩに対して交流的に並列になる

ので、このインピーダンスが下ると出力ロスとなり最大出力が下ってしまいます。前章までは流用OPTの

所為かと思っていたのですが、ARITOさんはチョークをDC負荷としたパラレルフィード式のアンプを

発表されていて高域の劣化は見られないので、上記のように思うようになりました。いつか小型のコイルを

入れて試してみたいと思っています。



 後  記

 私は普段は真空管ばかり弄っていて半導体回路は苦手だったのですが、本機は出力管以外は全て半導体で

構成するアンプになってしまいました。それは掲示板でお世話になっているARITOさんや、めのさんが

半導体を多用したアンプを数多く発表されていて、いつのまにか感化されてしまったようです。このお二方

は、発表される回路や発言を見れば分かる通りプロの技術者の方で、仕事現場で使うデバイスは今では半導

体オンリーですから当然ですが、趣味のアンプ製作でも半導体を縦横無尽に駆使されています。

 もう何年か前の事ですが、めんさんの製作された真空管アンプを聴かせて頂く機会があって、見せて頂い

た回路図にも半導体が多用されていて、素人の私には理解出来ませんでした。そこで自身の勉強不足も顧み

ずに、「めのさんの使う回路は難解で分からない!」と、ほとんど言い掛りに近い感想をほざいたら、後日

なんと自筆の解説ノートを書いて見せて下さいました。それがフォールデッドカスコード回路というもので

これを写メして持ち帰り何度も読み返して理解に努めたのですが、自分のものにする為には、とにかく実際

に使ってみる事だと思い本機の前段に採用してみました。



 謝  辞

 以上のように、本機は特別なOPTをARITOさんに頒布して頂き、回路はめのさん自筆の解説ノート

で勉強させて頂きました。本機の完成は、このお二方のお力添えあっての事で、お二方にはあらためて感謝

申し上げます。




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