18GV8 三結SEPP







 超ローコストアンプの第2段なのですが

前章のセットはいかんせん非力だったので

今回はもう少し実用的な出力が得られるよ

うに、6BM8シングルアンプ並みの3W

を目標に考えてみました。

 予算としてはさすがに1万円を切るのは

無理でしたが、あれこれ工夫して15千円

というところに落ち着きました。



 今回のセットも前回同様に広帯域低歪を 

目指すつもりなので、やはり廉価なOPT 

でも特性が左右されにくいSRPPかSE 

PP方式を採用する事として、それに合う 

出力管を探したところ、ラジオに使おうと 

思って特性を採っていた18GV8という 

球が使えそうな事がわかりました。この球 

はテレビの垂直偏向出力用の複合管で、欧 

州名をPCL805といい、五極ユニット 

は16A8を低電圧大電流用にしたような 

特性を持っています。右の図がその特性図 

で6CW5並みの低内部抵抗を見せ、もう 

少しプレート損失さえあれば三結で10W 

の出力も狙えそうです。



 OPTは前回も良い特性を見せたSANSUIのトランジスタ用トランスで、マッチングトランスとして

今回は一回り大きな3W型を使う事にしました。このトランスの推奨インピーダンスは120Ωですが、1

次2次直列のオートトランス式にする事で350Ω負荷としています。回路としては出力管の最大プレート

損失が少ないので、AB級動作が可能なSEPPで(SRPPはA級動作のみ)2球で足りるようにPK分

割式のドライバーとしています。通常はこのようなハイインピーダンスSEPPでのPK分割式では打消し

電圧が不足して上側の球を振り切れないのですが、今回は完全に振り切れなくても、とにかく3W出れば良

しという事でバラック実験をして見たところ、3Wまでは何とかドライブ出来るようでした。電源電圧を上

げればもっと楽にドライブ出来るのですが、耐圧の高いケミコンは高価なので予算との兼ね合いでこの電圧

となりました。ということで以下のような回路になりました。



 電源はやはり絶縁トランスで、野口トランスのでも120V端子があるので使用可能ですが、40W型は無く

30Wか50W型になってしまいます。30W型でも間に合うと思うのですが、最大出力が少々低下するか

も知れません。ヒーターも前回同様の直列C点火ですが、フイルムコンデンサーの価格が千円を超えたので

これだとヒータートランスと較べての値段的なアドバンテージは無いかも知れません。

 製作の注意点としては、複合管なので普段でさえソケット周りが混み合うのに、打消し用のケミコンとか

CRが上下のソケット間を行ったり来たりするので、配線を始める前に綿密な実体配線図を描いておいた方

が良いでしょう。私のセットでは、さらに見た目を考えて、トランス等の部品を全てシャーシ内に押し込ん

だので、中はすし詰め状態になってしまいました。

 バイアスの調整は、通常のSEPPでは中点電位が電源の1/2になるように調整するのですが、本機の

場合上は固定バイアス、下はカソードバイアスなので、その分高めにする必要があります。さらにクリッピ

ングレベル付近の波形を見ながら調整してみると、もう少し高い方がクリップ点が上がるようです。ただし

上下の球で大きく損失が違うと、片方の球だけが先にボケる恐れがあるので、回路図に示す電圧程度にして

おいた方が良いでしょう。


 諸 特 性


 最大出力としては4W近く出 

るのですが、さすがにクリップ 

が大きく、実用的な出力として 

はやはり3W程度というところ 

です。特性曲線が上下している 

のは負荷抵抗値が最適負荷より 

低い為と思われますが、1Wま 

では低歪を維持しているので、 

これで良しとしました。



無歪出力2.5W THD 3.6%

NFB 6.4dB

DF=3.1 on-off法1kHz 1V

利得 15.5dB(6.0倍) 1kHz

残留ノイズ 0.52mV




 特筆すべきは帯域特性で、こんな安物トランスを使っているとは信じ難いほどの広帯域特性が得られまし

た。低域の10Hz付近については、低域の第一ポールを9Hzとしているので設定通りに落ちているので

すが、高域については正直なところ何も考えずに設計していました。それは、特性も定かでないトランスで

高域のスタッガ比などを考えても無駄だと思ったので、波形を見てから適当に高域補償を入れようと思って

いたからです。ところがその波形も以下の10kHzの方形波応答のように実に素直な波形でしたので高域

補償は必要ありませんでした。おそらく、この特性曲線の高域の伸びはトランスの特性そのものというとこ

ろです。なおT−600というのは東栄変成器の600円のトランスで、インピーダンスが600Ωなので

歪率特性は良いのですが、波形も丸くなっているように高域特性が悪く、10kHz付近から落ちてしまう

ので今回は使えませんでした。これも値段を考えたら決して悪いトランスではないのですが、SANSUI

のトランスの方が予想外に良かったという事です。




 部品表は以下になりますが、今回使用した18GV8という球は、ヒーター電圧が使い難い所為か優れた

特性を持っているのに人気が無く、ほとんどの店で千円以下で入手出来ます。ジャンク屋の店先で300円

なんていうのも見ましたが(もちろん即ゲット)一応平均的な価格で取上げています。またケミコンなども

基板取付け用のジャンク品が安く出回っているので、それらを上手く使えばいっそう安く出来ます。



 雑  感


 今回のセットは回路図だけを見たら、たかが2〜3Wのアンプにしては部品点数が多くて、製作に手間が

掛かると思うでしょうが、完成後に得られる音はその苦労に十分報いるものです。ソケット周りの混雑する

複合管を使っているので、入門用としてはハードルが高いかも知れませんが、この予算でこの性能なら、今

までにない最高のコストパーフォーマンスになると思います。





18GV8 SRPP



 上記のセットは性能本位で回路を決めたので、先にも触れたように部品点数が多くて製作にも意外と手間

が掛かってしまいます。そこで出力は少なくなりますが、調整個所も無く、より手軽に製作できるSRPP

アンプを紹介します。本当は紹介する順序が逆で最初に試作したのはこのSRPPでした。しかし当初目標

とした出力3Wには届きそうに無かったのでAB級動作のSEPPに変更したのですが、SRPPの回路は

以下のようにすっきりしていて、どなたにでも組み立て易いものです。



 諸 特 性


 歪率特性は数値的な事よりも 

各曲線が全域で揃っていて、無 

理のない動作をしている事を覗 

わせます。さらに特性曲線が上 

下することなく、素直に右肩上 

がりに上昇している事や、負荷 

600Ωの特性よりも低歪な事 

から、SRPPの場合は350 

Ω付近が最適負荷になっている 

ものと推測されます。



無歪出力1.8W THD 2.9%

NFB 7.6dB

DF=3.6 on-off法1kHz 1V

利得 16.1dB(6.4倍) 1kHz

残留ノイズ 0.48mV





 値段表は以下に示しますが、出力が少なくなっても基本部品は変わらないので、総予算もあまり安くなり

ません。それでも使用するケミコンの数が少なくなり、またケミコンの耐圧も下がったので二千円ほど安く

なっています。これは、どうせ目標の出力が得られないのならと予算重視で電源電圧を下げた為で、さらに

該当部品の大きさが一回り小さくなった分、組み立て易くなるものと思います。


 後書き 2008/08/02

 このセットを製作した当初は、18GV8の値段が安く割安感があったので採用したのですが、最近、

次章で紹介するセットを組む為に買い足そうとしたところ、秋葉原では値段が倍以上になっていて、新規

に購入してまで18GV8を使う意味は無くなってしまいました。そこで今だったら、ヒータートランス

で点火する事になりますが、出力管には6CW5を前段には6DJ8、6N1P、5670辺りを使って

作る方が安くて良いと思います。