12BH7A パラPPアンプ






 日ごろ、お世話になっているARITO

さんが、新たに一般向けにOPTを発売す

る事となり、これに先立って製品モニター

を募集していたので、早速応募してOPT

評価と作例にもなるようなアンプを組んで

見ました。目指したのは製作の容易なPP

アンプという事で、本機はアンプ部を真空

管のみで構成し、電源部以外には半導体を

使わない回路としています。

 近頃は半導体を多用した真空管アンプが散見されますが、半導体の入手は年々難しくなっています

し、また多くの場合は選別が必要で、この作業も慣れない方にとっては案外と手間が掛かってしまう

ようです。ならば真空管のみで構成しようと思うと位相反転段の選択に迷うところで、アルテック型

(PK分割式)やリークマラード式(共通カソード抵抗の準差動式)等が有名ですが、どれも上下の

ACバランスなどに難があり、PK分割式は巻末紹介の次章で採用したのですが、高域特性が波打ち

素直な特性が得られませんでした。それでも私の駄耳では音に影響が出るほどの事ではないのですが

今回の新型OPTは全く新しいコンセプトで巻かれたトランスで、高域も低域も良く伸びているので

その特徴を存分に生かせるように、特に高域特性の良いアンプを目指す事としました。

 ということで、結論から先にいうと本機ではオートバランス式位相反転回路を採用しています。こ

の位相反転回路は古くからある回路の割には人気が無くて、人によっては「上側と下側で信号が通る

段数が異なるのが気になる」という方もいるようです。しかし下側も本来は利得があるのにPG帰還

で「利得1」にしていて、高帰還により下側の歪はほとんど無視できます。さらに出力インピーダン

スも充分に低くなり出力管を理想的にドライブ出来ます。ただし、ここが工夫のしどころで、上側の

出力インピーダンスは通常のままですから、下手な球では上下の出力インピーダンスに大きな違いを

生じてしまい、これがそのまま出力段上下の高域特性の違いになって現れてしまいます。なので、こ

の位相反転管には内部抵抗の低い球を使わなければなりません。そこで本機の位相反転段には12A

T7Aを使い、上側も低インピーダンス出力を保ち素直な高域特性が得られるようにしました。また

「μ」も高く利得もある程度取れるので、本機には最適なドライブ管となっています。

 出力段は次章の回路を踏襲して(紹介順序が逆で、先に次章の回路で組みました。)12BH7A

をパラで使っています。という事で以下のような回路になりました。




 製作のポイントとしては

1.本機に採用したOPTはARITO's Audio Labから発売されるトランスで、この記事を書いている時

  はまだ発売されてないかも知れません。詳細についてはARITO's Audio Labのページをご覧

  下さい。先にも触れましたが、この新型トランスは低域も高域も良く伸びた一クラス上の広帯域

  の音が得られます。設計理念が量より質の考え方で、ほぼ同じ大きさのタンゴFE10-10が定格

  出力10Wとなっているのに、DE-10K7Wは同7Wと出力を抑えて、その分広帯域となる

  ように設計されているそうです。当機もこのトランスに合わせて設計し直したので、この回路で

  追試をする場合はDE-10K7Wを使用した方が好結果が得られると思います。

2.電源トランスはタンゴ製を使いましたが、今なら野口のPMC-140HGか東栄のP−120が

  使えると思います。

3.出力管には他にも6FQ7や6CG7等が、ソケット周りのヒータ配線に変更が必要ですが同様

  に使えます。その出力管ですが本来は電圧増幅管でペアチューブなどは無いので、入手した四本

  の中でも良いのでプレート電圧を比較して、大体同じ電圧になる様に組み合わせて下さい。

  今回のOPTのP1-B-P2の端子間のDCRはよく揃っていて、この方法でも正確にDCバラ

  ンスを取る事が出来ます。いちいち比較するのも可哀想ですが、タンゴFE10-10の同端子間の

  DCRは大分違っていて、DCバランスを取るにはこの差を考慮しなければなりませんでした。



諸 特 性


 各周波数の特性曲線は、ほとんど同

じようなカーブを描いていて、全帯域

に渡って上下バランス良く動作してい

る事を覗わせます。

 なお出力管がクリップするとグリッ

ド電流が流れるようで、下側に信号が

行かなくなり、オシロ観測でも波形の

頭がスパッと切れて特性カーブも垂直

になってしまいます。


利得 16 dB (6.3倍)

NFB  6.0 dB (2.0倍)

DF= 3 on-off法 /1kHz 1V

無歪出力4.5W THD2.4%/1kHz

残留ノイズ 0.5mV







 さらに周波数特性ですが、新型トランスのお陰で広帯域で素直な特性を見せているように思います。

高域側にも山谷は全くなく滑らかに落ちていますし、最終的に10〜100kHz/−3dBの良好な特性

が得られました。




 高域安定度の確認で10kHzの方形波応答も見たのですが、低帰還という事もあり負荷開放でも綺麗

な方形波を保っていて波形が乱れる事はありませんでした。このリギングのほとんど見られない波形

に今回の新型OPTの特徴が表れていて、裸の特性でも凹凸などは無いそうですが、当アンプ搭載時

でも高域端まで滑らかに減衰している事を示しています。




 次に低域側の実力を検証してみました。手っ取り早いのは正弦波を入れて周波数を下げていき、何処

で磁気飽和して波形が崩れるのかを見る事です。これで該当OPTの低域側の実力を見極める事が出来

ます。定格では7W/40Hzという事なので、本機の最大出力に近い4Wの正弦波を入れて周波数を下げ

ていきました。「磁束密度は周波数の二乗に反比例」なので、仕様の通りなら30Hzで磁気飽和する事

になりますが、実際には30Hzでは全く綺麗な正弦波を出力していて、さらに20Hzまで下げても崩れ

る事はありませんでした。さらに下げると、さすがに磁気飽和して崩れてしまいましたが、以下の画像

のように4W/20Hzの信号を崩れる事なく出力していて、定格以上の実力を示しています。



 それでは他のOPTの低域特性を見る為に、またまたタンゴFE10-10に載せ換えて同様の波形観測

をやってみました。これを見ると4W/20Hzだと磁気飽和して大きく崩れてしまいます。FE10-10の

場合に使える低域は4W/30Hzまでという事で、実力に大分差がある事が分りました。このような結果

になると、度々引き立て役にして可哀想ではありますが、初めに当機に使っていたので載せ換えが容易

でしたし大きさもほぼ同じなので、新型OPTとの比較対象にはちょうど良かったのです。



 以上のように低域再生に於いても一クラス上の実力を示したのですが、実際の音を聴いてみても低音

がよく伸びているのが分かります。そもそも通常の再生装置ではこんな低い音は出て来ないようにも思

うのですが、同時に製品モニターに応募した他の方も同様の感想を述べていたので、私だけの思い込み

ではないようです。という事で、当初の狙い通りに低域から高域までよく伸びた広帯域アンプになった

ように思います。



 雑  感

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