「雪風」のごとく

(前頁より)



「僕はプラモデルがいいや」
憶良氏と一郎君は、人形を選んでいる美絵夫人たちと別れて、プラ
モデル・コーナーに向かった。

英国空軍(ロイヤル・エアー・フォース)の誇るスピッツ・ファイヤーや
ドイツ空軍のメッサーシュミット、「空の要塞」と呼ばれたアメリカ空軍
の爆撃機B29や、戦闘機のグラマン。日本の零戦(ゼロ・ファイター)
もある。

軍艦の方では英国海軍(ロイヤル・ネイビー)のプリンス・オブ・ウェ
ールズや、ドイツ海軍の潜水艦Uボート、アメリカ海軍の空母エンタ
ープライズなど。

「お父さん、戦艦『大和』があるよ。でも僕はこれがいいや」
一郎君が手にしたのは意外にも駆逐艦であった。

「YUKIKAZE(ユキカゼ)って書いてるよ。お父さん知ってる?」
「いや、知らないね。ユキカゼねえ。初耳だなあ。どんな駆逐艦(デス
トロイヤー)なんだろう。プラモデルになっているのは、マニアには有
名なんだろうな」

自宅に帰った一郎君は、早速生き生きとして組み立て始めた。
しかし憶良氏は、駆逐艦『ユキカゼ』が何故世界のプラモデル・マニ
アに好まれているのか、気に掛かった。何人かの邦人ビジネスマン
に尋ねても「ユキカゼ?知らないね」という答えしか帰って来なかった。

何事も興味を持つと、情報の方が近づいてくるものだ。
後日、駆逐艦『雪風』の生きざまを知った時、憶良氏はこの小艦艇に
深い感動を覚えた。何か自分の生きざまにも重ねられて、『雪風』が
他人事でなく、身近な存在となって来た。

その全貌は、豊田穣先生のご労作『雪風ハ沈マズ』(光人社)に詳し
く書かれている。


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