晴耕庵の談話室

NO.50



TANKA ON THE OKINAWA TRIP 

2000/August/24

標題:Welcome back to TANKA poem(2)


A.T.様


 ご無沙汰しております。

>辺境に逐われしケルトの民のごとモルトは仄かに土の匂いす
                     アイリッシュ ウイスキー
 
 「仄かに土の匂いす」実にいい歌ですね。


 ところで4月中旬家人と沖縄に旅してきました。主として八重山
列島に滞在し、自然を満喫しました。

西表島 2泊 竹富島 1泊 石垣島 1泊 沖縄本島 2泊

 沖縄本島は観光化しており、歌が湧くほどの感慨はありません
でしたが、八重山列島では夜中に迸りでて、あわてて夢うつつで
メモなどとりました。たいした短歌ではありませんが、久し振りの
経験でした。

 暮れなずむピナイサーラの瀧見とて英国乙女とカヌー漕ぎ出す

 民宿初日、食堂にぽつんと外国人がいました。話してみるとロン
ドンから初めて日本に来たと。それもマウンテン・バイクの一人旅。
勇敢な乙女もいるものです。
午前中はジャングル・ツアーを共にし、午後は沖縄一のピナイサ
ーラの瀧見に誘いました。夕刻近い満ち潮を待って、「潮もかな
いぬ今は漕ぎ出でな」とばかりにダブル・カヌーを漕ぎ出しました。

 竹富の御嶽(うたき)の奥にしずもれる戦没碑銘白き名の列

 この小さな島からも多くの戦死者が出ておりました。静かな鄙び
た島の観光の合間に胸を打たれた一瞬でした。

 落日は西表へと沈み入り空・海(そら・うみ)燃ゆる旅人(たびと)
 の顔も

 宿の女主人が今日の夕焼けは島でも珍しいくらいというので
西桟橋に出てみると、あちこちに旅行客や村人が腰を下ろして
いました。今まで見たこともない壮大荘厳の落日でした。
沖縄では太陽の入る西をイルとかイリというそうです。イリオモテ
はまさに西の玄関でした。そういえば沖縄の神は西からこの浜
に上陸したという言い伝えがあり神事が続いています。

 魚は群れゆったり揺られ巻貝はコロコロ転ぶコンドイの朝

 翌朝、コンドイ浜を散歩しました。驚くほどの濃く群れた魚たち
が、岸辺を逃げもせずサンゴ礁の穏やかな波に揺られさらに足
元には巻貝が身を隠してコロコロ転ぶ。自然が溢れていました。
今、日本列島の砂浜は消滅しており、足元に巻貝が転ぶ感動を
味わうのは難しいでしょう。

 敗戦を終戦というごまかしはわれらできぬと殿内(どんち)の
 老主

 石垣島宮良殿内(琉球王朝時代の士族屋敷)の当主はビル
マ敗走の経験ある兵だったそうです。私も終戦と言うあいまいな
表現はマスコミの無責任さと思います。戦争責任も反省も曖昧
にされてきました。

 ハナサンゴユビエダサンゴアオサンゴ白保海人(うみんちゅ)
 誇らかに指す

 漁民の民宿に泊まりました。白保は石垣島空港建設で揉めた
ところです。グラス・ボートの船底から巨大な、見事な多種多様
なサンゴを満喫しました。いったん失われたらもう回復は無理と
いいます。

 経済とか生活向上とか開発とかの名目で、壮大な年月をかけ
て作られた見事な自然が、あっという間に消えます。空港の場所
は変わっても、その土砂でいずれサンゴは無残な姿になるでしょ
う。その前に見ておこうと訪れて、感動しました。


 八重山列島の民宿では若いリピーターが多いのに驚きました。
自然が色濃く残っているからでしょう。

 では又

                    ロンドン憶良




TANKA ON OKINAWA

2000/August/27


お久し振りです。

 歌が湧くということが良く理解できる一連拝見いたしました。
リズム感があって軽くならない所は天性のものでしょうか。

 最近の娘さんは勇敢ですね。私の近所でも単身海外に留学
したり、滞在しているのは殆どが娘さんのようです.かく言う私
の娘も休暇をとっては、アイルランド、スコットランド今年はネパ
ールと出掛けており親を羨ませがらせております。チョット昔の
朝日歌壇に載りました拙作、

 沖縄の哀しみ深き海色に若夏(うりずん)とよぶ豆の花咲く

 憶良さんの、竹富の御嶽の奥にしずもれる戦没碑銘白き名の列

色に喚起される沖縄の人々への謝罪が底にあるように思えます。

 ではまた。

ロンドン憶良様
      
                                 A.T.
                  



REGARDS

2000/August/28
 
A.T.様


>沖縄の哀しみ深き海色に若夏(うりずん)とよぶ豆の花咲く

 実に見事にうりずんをお使いになりましたね。ご入選納得です。
私どももうりずんに旅行しましたので、その季節感はよくわかります。
6首のうち竹富の戦没碑銘の歌がまあまあかなと思っていました
ので、ご感想に少し自信を取り戻しました。

>「沖縄の哀しみ深き海色」

沖縄を訪問して、単に太平洋戦争だけでなく、中国(清)と日本
(薩摩・明治政府)の狭間で,王国が苦悩し、滅亡した数百年の、
民族の哀しみとたくましさを感じました。
今、沖縄の芸能文化が元気がいいのは、それがバネになってい
るのでしょうか。
ウェールズやアイリッシュなどケルトの子孫の芸能の才など連想し
ました。

ではまた


                            ロンドン憶良
                  

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