晴耕庵の談話室

NO.9


REPORT

98/10/19
標題: Chatsworth 訪問記

ロンドン憶良様

台風の方はいかがでしたでしょうか。御丹精の畑に被害がないとよいのですが。

15日アップロードのHP拝見させていただきました。いつもながらの適所の挿し
絵が楽しかったです。もうすぐこの地を我が目で見に行くと思うと、わくわくし
ます。 まだ日程など詰まっていないのですが、なにぶん2歳児がいるので強行軍
にならぬよう、いつもそれが第一優先になってしまいます。憶良様ご一家は、御
旅行の際どのようになさっておいででしたか。上の子の興味にあわせると、末っ
子は退屈するし、下にあわせると上には物足りないという具合で、調整が大変で
す。

さて先週の土曜日10日に、Derbyshire Buxton近郊のChatsworthへ行ってきました。
Duke and Duchess of Devonshire が現在でもおすまいになっているお屋敷です。
こちらの友人から一度行ってみるように薦められていたので、天気のよい日を待
ってこの日の訪問となりました。

我が家から車で2時間弱、ピークディストリクトに入ると、いかになだらかなイ
ングランドの山とても、さすがに少し急な山道になります。見通しのきかない狭
い道をくねくねと上っては下り、子供達がいささかげんなりしはじめた頃、目指
すお屋敷につきました。突然視界が開けたと思ったら、あたり一面緩やかな起伏
の続く芝の丘が広がり、そこここで羊が草を食んでいます。前方少し低くなった
ところを、幅4、5mほどの川が静かに流れていて、そこにかかる石の狭い橋を渡る
と、いよいよ正面にお屋敷が見えます。



 
建物そのものは,あちこちに彫刻の像やレリーフの装飾こそついていますが、
少し黒ずんであまり美しいとは思えないのですが、数々の芸術品を含む、豪華な
調度品で飾られた内部はそれは素晴らしいのだそうです。 私達は同伴の2歳児の
ことを考え見学をあきらめたのですが(どうせゆっくり鑑賞するどころではない
に決まっています) 今ここでパンフレットの説明を引用してみますと、

Chatsworth has been the home of the Cavendish family for nearly
450years. The Elizabethan house built in 1555 contains one of the most
important private art collections in the world, which includes paintings
by Rembrandt, Veronese, Gainsborough and Freud, furniture by Boulle and
Kent, and the finest neo- classical sculpture collection in Britain.

とあり、イングランド貴族の生活をかいまみたい方には必見のポイントかと思い
ます。

庭園(残念ながらこれも私達は行きませんでした)は、100エーカーを越える敷
地の中に、池や噴水はもちろんのこと、水路や薔薇園が配してあり、5マイルに
も及ぶ遊歩道があるのだそうです。 そして、バックヤードには、なだらかな丘
が背後へ向かって緩やかに上り、奥の森へと続いていく自然の地形を巧みに利用
して、森から建物のほうへ階段状の滝が数十mにわたって流れ落ちてくるのが、
敷地の外からも見えました。



 
屋敷も庭園も見ないで、いったい何をしに行ったのだとお思いでしょうね。 こ
れらの周りにぐるりと広がる 通称 The PARKがこの日の目的でした。 もちろん
ここもすべて’御領地’内です。 1000エーカーに及ぶ広大な敷地(こうなる
と、もはや敷地という言葉では捉え切れない広さですが)には、幾筋もの
footpathがもうけられ、Chatsworthの土地がどのように利用されているかを紹介
するための農場が開かれています。ここには、牛・豚・羊・鶏の他、雉・ウサギが飼
われており、 毎日搾乳の実演が行われています。 その他にもますの養殖池があ
ったり、あひるやカモのための池があったり、公爵家の厨房を垣間見る思いがし
ます。 この農場にはピクニックテーブルがあって、家族連れがお弁当を広げて
いました。 我が家も、おにぎりをぱくついて、ひと休みです。

午後は、今年新しくなったという、Playgroundへ直行しました。 こちらでは、
こうした歴史的建造物の周囲に子供向けのplaygoundが併設されていることが多
いですね。 大人も子どももそろって楽しめるように工夫されていて素晴らしい
と思います。 3人の子供達も木でつくられた数々の遊具に大喜びでした。 そし
てわれわれ大人も、邸宅・庭園こそみられませんでしたが、のびやかに広がる緑
の中で大いにリフレッシュした一日でした。

帰路は、御領地の外れにあった作業場を改造してつくられたfarm shopに立ち寄
り、英国でも指折りのbutcherで、Chatsworth牛(松阪・神戸のごとく)ヒレ肉を
ためしてみることにしました。その日の晩餐を、公爵家のパーティを想像しつつ
楽しんだことは言うまでもありません。おいしかったですよ、本当に。

’御領地’内には、これらの他、昔馬車のための厩だったところを利用したレ
ストラン・会議場、Caravan Park、狩猟場、釣り場等もあり、1000人を越える人
が働いているそうです。

見渡す限りどこまでも続く’御領地’は、牛のための柵こそあれ、他にはそれ
らしい門も塀もなく、それだけで一つの村のようで、おりしも打ち鳴らされた教
会の鐘の音が緑の丘を響き渡っていくさまは、まるで自分がコンスタブルの絵の
中に迷い込んだような錯覚を与えたのでした。 今改めてパンフレットを見直し
てみますと、1996年 National Heritage 金賞受賞とあり、多くの人々から愛さ
れる場所となっていることがわかります。 貴族としての自らの体面も保ちつつ、
公共の福祉にも反しない、こうしたあり方だったからこそ、Chatsworthは長い年
月変わらぬ姿を保ち得たのだろうと思いました。

写真が実物の素晴らしさを少しでもお伝えできるといいのですが。
ではまた・・・
N.N.


YHANKS


N.N.さん

詳細なChatsworth 訪問記及び素晴らしい写真ありがとうございました。

早速手許にある「Treasure of Britain」(AA)及び「Irrustrated Guide to
Great Britain」(AA)を開けてみました。

両著ともThis Classical mansionと表現していますが、内装も調度品も
素晴らしいマンション(こういうお屋敷がmansion)ですね。

初代デヴォンシャー公爵のために1707年に建築されていますが、
彼のGreat,Great Grandmotherのべスがデザインした古い建物
(The Elizabethan house built in 1555 )を、1687−1707年に、
ハンプトン・コートの建築も手がけていた屈指の建築家William Talman
が改築したようですね。

> 幅4、5mほどの川が静かに流れていて、そこにかかる石の狭い橋を
> 渡ると、いよいよ正面にお屋敷が見えます。

「Treasure of Britain」には、御家族が渡った眼鏡橋の向こうに建物が
見えますが、その写真が小さいので、Nさんの写真はうれしいですね。

> 庭園(残念ながらこれも私達は行きませんでした)は、100エーカーを越える敷
> 地の中に、池や噴水はもちろんのこと、水路や薔薇園が配してあり、5マイルに
> も及ぶ遊歩道があるのだそうです。

19世紀にクリスタル・パレスの庭園をデザインしたSir Joseph Paxton
が庭の改造を手がけたようで、噴水は当時欧州第2の高さ296ftとか。
マンションといい庭園といい、公爵ともなると王室御用達の建築家や造園師
を雇っていますね。

お子様達と大変よいピクニックをされたのではないでしょうか。
英国では貴族のマナーハウスがナショナル・トラストとかあるいは私営で
公開されているケースが多く、国の富の厚さやユトリを感じますね。

日本は相続税が過酷で、このような文化遺産は残りにくい社会システムになって
いるのではないでしょうか。
ナショナル・トラストの制度はもっと真似してもよいのではと思います。
(日本政府は国費を無駄遣いするために、必死で徴税しているように見えます)


> 憶良様ご一家は、御旅行の際どのようになさっておいででしたか。

時と場所により、私と長男、家内と長女次女次男の二組に別れました。
たとえば館の見物組と庭で遊ぶ組、あるいは遺跡巡り組と市内見物組など
です。それぞれ別の経験を楽しみました。

> 畑に被害がないとよい

お見舞い有り難うございます。台風よりも8月丹沢の鹿が下りてきて、
秦野の芋畑のさつまいも200本の大半を、ものの見事にやられました。
もののけ姫に感動したことや、今年は開墾早々であり、年貢とあきらめ
ました。
気候の異変で大山の鹿も大変なようです。御百姓さんはさすがにネット
を張っていましたので足跡はわが畑に直行していました。トホホ・・・

ではまた               ロンドン憶良

晴耕庵の談話室(目次)へ戻る
ホームページへ戻る