やっと開いた落下傘
「ノーブレス・オブリージ」について
(前頁より)




プリンス・オブ・ウエールズであるチャールズ皇太子は、海軍士官であ
った。名目だけの軍人ではない。一般の士官同様厳しいトレーニング
を受けていた。
ノルマン・バイキングの血をひく英国王室の教育はなかなか厳格であ
る。
その日、チャールズ皇太子は重いパラシュートを背に、上空から勇躍
機外に飛び出した。体はどんどん落下するが、肝心の落下傘がなか
なか開かない。
これを見た指揮官や同僚たちはあせっちゃうが、どうしょうもない。
「南無算」と言ったかどうか、もはやこれまでと覚悟した時うれしやパッ
とパラシュートが開いた。胸撫ぜ下ろしたのはご本人や軍関係者ばか
りではない。
この報道を知った国民は、沈着冷静な皇太子に拍手を送り一層尊敬
の念を深めた。



このような各種の訓練を受けた後、皇太子は掃海艇の艦長に任命され、
北海の荒波の中で、機雷の駆除に従事している。ちっちゃな掃海艇の
艦長勤務により率先垂範するのである。海軍のみならず国民誰しも脱
帽せざるをえない。
国のため命を懸けて「高貴な身分の者としての責務」を果たそうとして
いる姿が見えるからである。


「ノーブレス・オブリージ」は貴族だけの意識ではない。オックス・ブリッ
ジの出身者、政治家、実業家など人の上に立つ者は、強い権限と高い
報酬を受ける反面、一旦緩急ある場合には、「率先垂範」して国のため
社会のため責務を果たしている。責務を果たさない者は社会から軽蔑
される。責任をとるべき時には「出処進退」を心得ている。

エリートは私生活も十分エンジョイする。ヒース首相が休暇に大型ヨット
でクルージングを楽しみ、労働党のウイルソン党首がバカンスをのんび
り過ごす写真が報道されるが、国民は当然と受け止める。重い責務を
果たしているからである。

ここらあたりにも「ノーブレス オブリージ」を当然のこととして行動する
気風と、これを受け止める国民の風土がある。


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