ロンドン憶良見聞録

瞼のマレークラブ


「憶良氏の話は結構面白いが、少し色気が足りないな」と感じている
読者諸氏に、ほんの少し垣間見たロンドンの夜を紹介しよう。

銀行員である憶良氏は、人様の大事な虎の子を預かる職務柄、面白
味のない不粋な石部金吉族の一人である。
とはいえ身体には熱き血潮も流れているので、たまには息抜きに美
女を眺めながら一杯飲むぐらいは、世間様も認めてくれよう。

さて、マレー・クラブと聞いてキーラー嬢を思い出し、さらに、プロヒュ
ーモ陸相の名まで口に出す読者諸氏がいれば、その方はたいした記
憶力であり、尊敬に値する。

中には、
「タンタララン、タンタララン、イングリッシュ・カントリー・ガーァァァル」
と口ずさんで、ニヤッと含み笑いをしている読者がいるかもしれない。
その方たちは、ロンドン駐在の長い60代とか70代のエグゼクティブ、
あるいは50代後半のビジネスマンであろう。
しかし、多くの若い読者諸君の理解を容易にするため、若干説明し
よう。

マレー・クラブというのは、ロンドン紳士の集まるメンバー制の夜のク
ラブであった。
過去形で書いたのは、もう消えてしまって存在しないからである。
この小さなナイト・クラブが世界に知れ渡ったのは、英国中を震撼させ
た大スパイ事件の舞台となったからである。
そう、「プロヒューモ事件」である。





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