第2章 凱旋(1)




 冷静なウィリアム王とウォルターは、イングランドの国内統治と郷里
ノルマンディーでの凱旋の戦略を詳細に打ち合わせた。
側臣ウォルターは、次のような案を示した。

「まず第一は留守家老の人事です。
前ハロルド王の南イングランドの領地は、異父弟オド司教と親衛隊長
オズバーン卿の管理下に置きましょう。
なかでもノルマンディーとの交通の要衝ドーバー城と広大なケント州
の領主には、オド司教を任命し、足元を固めましょう。
その他の南イングランドは、オズバーン卿に任せてはいかがでしょう」

 ウォルターは共同管理案の理由をウィリアム王に説明した。

「オド司教は、若さに似合わずバイユーの教会領を上手く管掌してお
り、統治能力も教会筋の信望もあります。うるさいカンタベリー大寺院
との絡みや折衝もありますから、『剣を持たぬ聖職者の武将』として、
ケントの領主に最適でしょう」

「オズバーン卿には、ゴッドウィン家の広大なウェセックス州やサセッ
クス州の領地に分封した諸侯を、その指揮下に置きましょう。
オズバーン卿は王の最も信頼厚い忠臣の一人である上、その豪勇さ
はノルマン騎士の尊敬厚いものがあります。ノルマン騎士間に多少の
いざこざがあっても、彼なら上手くまとめるでしょう。古都ウィンチェス
ターの城主としましょう」

「なるほど適材適所の名人事じゃ」

「第二は、降伏したアングロサクソン貴族の処置です。
バーカムステッドとバーキングで2度の臣従を誓約した中部,北部の貴
族の領土は、当面安堵するにしても、留守中の反乱を防止しなければ
なりません。
またノルマンディー領土での勝利宣言をして、領民だけでなくフランス
王や近隣諸侯に周知徹底する必要もあります。
この二つの目的のため、人質はアングロサクソン貴族の子女ではなく、
大貴族、高位聖職者本人を人質として軟禁連行しましょう。
その顔ぶれは、エセリング王子、エドウィン伯、モルカー伯、ウォルソー
フ候、スティガンド大司教その他数名でよいでしょう」

「ウォルター、お前もなかなかきついのう。ハハハ」



「第三は、凱旋のタイミングと宣伝効果です。
ノルマンディーでの凱旋祝祭は、4月の復活祭に焦点を当て、3月か
ら行いましょう。
凱旋は有効な広報手段です。アングロサクソンだけでなく、ノルマン
ディー内外の度肝を抜くように、麗々しくやりましょう]

「カーン修道院のランフランク僧院長に、戦勝と戴冠の報告および凱
旋の事前連絡をしましたところ、『最も大事なのは、神のご加護と出
征時に世話になった土地に感謝し、戦没者の鎮魂のミサを忘れぬよ
うに』との書状が参りました。この機会に寺院僧院への寄進や慰霊祭
など手厚く教会対策をしましょう」
と、ウォルターは強調した。

 ウィリアム王に異存はなかった。
「天の時、地の利、人の和」というランフランク僧院長の言葉を、あらた
めて心にかみしめていた。



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