第1章 眞白き塔(2)

前頁より



 槍騎兵の大軍団は、戴冠式に列席したアングロサクソンの大貴族
達を取り囲むようにして行列に加え、威風堂々とロンドン市内(現在の
シティ)を行軍した。それは、長年にわたって富を蓄積してきた市内の
大商人達の肝を冷やすに十分すぎるほどの威圧となった。市内や周
辺に潜んでいたアングロサクソンの残兵や間者達は、「何事が勃発し
たのか」と驚き慌てて、姿を消した。

 軍団が次々と市内を通過して、最後の一兵が東の門から見えなくな
るまで、市民達は生きた心地がしなかった。槍騎兵の軍団は、歩兵軍
団の数倍の威圧感があった。大商人や市民達の反抗心を萎えさせて
いた。



 ウィリアム王は、野営地と定めたバーキングに、アングロサクソンの
小貴族や主だった郷士達をも呼集することとした。
 ロンドンに集めれば、彼等が市民と結束して反乱を起こすこともあろ
うが、このバーキングの地では、兵を隠すことも、市民と決起すること
も難しい。アングロサクソンの貴族達やロンドン商人達は、ウィリアム
王の細心周到な気配りに内心舌を巻いた。

 呼びだしを受けた豪族達は、人質を連れてバーキングにやってきた。
 王は、一同に口を開いた。

「余が必要とするのは汝等の命ではない。汝等の忠誠心である。もし、
余に忠誠を誓えば、領土を保障し、領民を殺生することはしない。こ
れに反すれば厳しい制裁もやむをえない。余は、今は亡きエドワード
懺悔王との盟約により、王権を譲り受けたものであることを、汝等に再
度確認認識してもらう。汝等、余に忠誠を誓うか、いかがじゃな」

 と、アングロサクソン貴族に迫った。
「ノー」と言える状況ではない。モルカール伯、エドウィン伯はじめ全員
が忠誠を誓った。

忠誠を誓えば、見返りに領土を安堵し、よき統治を約束するのが、ウィ
リアム王の方針であった。



第1章 真白き塔(3)

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