君はイストか、アーなのか

(前頁より)



銀のポットから注がれた薫り高い紅茶を飲みながら、古葉先輩が話題
を変えた。

「英語って面白いね。エコノミストのように-istで終わる職業は、意外に
も腕を使うプロフェッショナルな職業が多いんだ。例えばケミスト(化学
者)は試験管を振り、タイピストはタイプライターを機銃のごとく打つ。
アーチストも腕前がなければアーチストと呼ばれない。エコノミストとい
えば知的労働の最たる職種のようだが、もともとは算盤と鉛筆で書き物
をするスペシャリストという認識なのかな。頭を使う方や人の上に立つ
職種は、-er とか-or の語尾で終わる例がどうも多い。



例えば新聞雑誌の記者などを総称してジャーナリストというが、論説委
員はエディターだろ。プロフェッサー(教授)、ドクター(博士・医者)や
ディレクター(取締役・指揮者)、ミニスター(大臣)、メイヤー(市長)が
そうだろう。
生徒はスチューデントだが先生は教える立場だからティーチャーだ。
技術者(エンジニア)はもともと頭脳を使うからだろう。オーサー(作家)
は知的創造者だろう。
バンカーも知的頭脳労働をするから、 名誉ある-er で呼ばれるんだ。
これは我田引水だがね」

「成程そう言われてみますと、同じ音楽家でも作曲家はコンポーザー
だし、演奏家はピアニスト・バイオリニストですね」
「医者はドクターだが歯医者はデンティストだ」

「手足をつかう職種はマンなんだ。スポーツマン、ミルクマン(牛乳配達
人)、ポストマン(郵便配達人)、クラフトマン(工芸技術者)、それに憶
良さんのいたボート部の漕ぎ屋はオアズマン。ぴったりだね」

「サージェント(軍曹)、サーバント(召し使い)、アカウンタント(会計士)、
アシスタント(助手)などの-antはどうなんですか。大統領・社長・校長
というプレジデントは-entだから、この範疇ですかね。社長も召し使い
も頭を使うというより、機能的な職種なのでしょうか」
「オフィサー(管理職)とクラーク(事務職)の関係も面白いね」

「フィールド・マーシャル(陸軍大将)、エアー・マーシャル(空将)、アド
ミラル(海軍提督)は-al で終わっていますね。伍長はコーポラル。アル
は戦争と関係があるのですかね」
「どうしてこうなんだと英国人に聞いたところ、彼らも今まで気がつかな
かったと言ってた。よく分からないらしい」



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