ロンドン憶良の世界管見


ロンドン憶良のホリエモン資本論考(3)


――自由主義・資本主義経済と経営の原点は何か――




5 経済と経営の原点

(1)経済や経営の本質は何か?
    ――ひとり一人の暮らしがよくなること――

 今回ホリエモン氏の登場に、「若者のマネーゲーム的感覚の企業
買収はけしからん」といった感情的発言が目立ちました。

この機会に経済や経営の原点に立ち戻って、アメリカ型の市場資本
主義経済の本質を見直して見ましょう。
なぜならばわれわれが選択しているアメリカ型自由主義経済圏は、
好むと好まざるとにかかわらずマネーゲームの世界だからです。

 50年前、憶良氏はK大学経済学部でA教授の二年続く経済原論
の最初の授業を受けた日を、生涯鮮明に覚えています。
「経済とは、国民ひとりひとりの暮らしをよくすることである。
経済学は、これを研究する学問である」

 漢和中辞典(角川書店)をひもどいて、『経済』を見ましょう。
@国を治め民を救うこと。経世済民。〔文中子〕「皆有経済之道」
A(経済学)財貨を得たり使ったりする各種の行為や状態
B<国語>つましくする。費用のかからないようにすること。倹約。

 これを経営に置き換えますと「株主や社員や仕入れ販売の顧客、
末端消費者の一人一人の生活をよくすること」となりましょう。


(2)世界の経世済民はどうなっているのか?
    ――有限の地球で覇権主義が激突している――

 一方、世界を概観しますと三種類の国に大別されます。
(1)人民民主主義を標榜しながら本質は人間性抑圧的な一党ある
  いは個人独裁型の社会・共産主義的な階級制度の政治経済圏
(2)自由な政治的発言や経済活動を前提とするが、貧富差の大き
  い自由主義・資本主義経済圏
(3)軍事政権によって国民の政治経済活動の自由が束縛されてい
  る国

 自由主義・資本主義国家であれ、人民民主主義の共産圏であれ、
為政者は常に「国民一人一人の生活の向上」を標榜していますが、
実態は為政者の資質や主観により、かなり差異があります。

 たとえばマルクスやレーニンは、帝政ロシアの皇帝や貴族たちの
富の収奪と悲惨な農奴や労働者を比較して、労働の価値と富の分
配のあり方に疑問を持ち、共産主義革命を起こしました。
上記@の経世済民の思想でした。しかし皮肉にも、ソ連はスターリ
ンに象徴されるように、帝政ロシアの皇帝に代わる新たな共産党と
いう一党支配下で、国民の暮らしは精神面ではよくならず、ソ連は
崩壊しました。

 中国には、都市生活者と農村生活者には、貧富差とともに、都市
戸籍、地方戸籍という厳然たる身分差別があるようです。
共産党員が上部構造という階級制度になっているのも周知の事実
です。13億人の経世済民は容易ではありません。

 自由主義・資本主義国家の典型であるアメリカは、「アメリカン・
ドリーム」に象徴される自由闊達な個人の経済活動がある反面、貧
富差が広がっています。資源豊かであるために、顕在化していない
といえましょう。
 しかし富の増殖願望は、いまや世界を飲み込まないといけないほ
どに肥大化しています。極論すれば、世界のどこかで戦争がないと、
アメリカの軍事産業や関連産業はパンクするという状態でしょう。
現代のアメリカは、経世済民よりもAの方に力点が置かれ、自由競
争尊重の結果、敗者はやむなしとの考えのように見えます。

 しかし、過去の時代と異なり、この半世紀の経済活動は、地球の
存続を脅かすほどの規模となりました。このような、地球資源や環境
が有限ななかで、アメリカ型の「優勝劣敗」の政治経済活動がいつま
でもいいのか、疑問です。

 欧州諸国が連合したのも、根底には暴走するアメリカ型政治経済
活動への懸念があるからでしょう。
 アメリカ型の資本主義経済に対して、欧州型や日本型は社会主義
の思想を加味した修正資本主義(あるいは混合経済)といえます。

 日本の政治経済は、バブル経済崩壊後危機に面しています。
日本政府はケインズ経済学を丸呑みにして、万年「公共投資による
景気刺激対策、法人税増収による財政収支改善」を標榜しました。
その結果750兆円に及ぶ財政赤字となっています。

 欧州各国政府の政治経済活動や国民の生き方は@Bに力点が
あるように思います。財政は均衡しています。
日本政府も、早くBつまり無駄な支出をやめることに力点を置くべ
きでしょう。国民もコストカットに耐え協力しなければなりません。


(3)資本主義下、利益目標の経営に哲学や倫理は必要か?
  ――必要である。古くから商道がある。信なくして立たず――

 今回白馬の騎士か?といわれています北尾氏は論語を座右の書
にされていると報道されました。論語は孔子の言葉です。国家の
参謀の地位を求めましたが、為政者は、孔子の教えがあまりにも
現実とかけ離れた理想論のために、孔子を採用しなかったと伝え
られています。
   しかし、その説くところは、現代にも通用する国家や個人の有り
方、規範です。

 西洋でも資本主義の倫理や企業経営の商道徳哲学などをまじめ
に考える学者や商人が皆無ではありません。

 日本では古くから大阪には、上記Bに示されるようなつましく生き
る「商人道」というような商道徳があります。投機的に生きる商人は、
長い目で見ると、何らかの形で淘汰されてきたようです。
番頭や店員丁稚を大事にしない商家は、いつか内部から破綻します。

 300年を越す大阪商人住友家の家訓に「浮利(バブル)は追わず」
「公私利害相反する時は公益優先」の教えがあります。大阪天王寺
美術館や東洋陶磁美術館など、土地建物収蔵品などの寄贈の形で、
さりげなく利益還元が還元されていることを、大阪の人は知っていま
す。
(昨今流行の相続対策や節税目的の個人美術館経営ではありません)
 アメリカでも心ある財閥は社会へ何らかの利益還元をしています。

 個人も企業も国家も、哲学や倫理観を失った時には、たとえ一時
期強大な存在を誇っても、やがて外の信用を失い、衰亡するのでは
ないかと思います。

(4)ホリエモン氏のコストカットが話題になっているが?
    ――企業経営に倹約(コストカット)思想は必須である――

 報道された情報では、ホリエモン氏はコストカットで買収企業の
経営を立て直してきたそうです。
 日産のゴーン社長も、日産社員から見れば、異邦人の天下りだっ
たでしょうが、コストカットを徹底的に見直したでしょう。
 つまり経営の基本は、売り上げを図る前にコストカットを見直す
ことです。

 憶良氏が企業再建に派遣されたW社は、F氏の主宰するU社が経営を
譲り受けて再建に成功し、上場廃止を回避し復配にこぎつけました。
ホリエモン氏のごときアントレプレナー(起業家)F氏が最初に手を
つけたのは、徹底した原価の見直し、冗員整理といったコストカット
でした。その手腕に、管理担当役員の憶良氏は目を見張りました。

 今回のニッポン放送は優良会社ですが、250人の会社に19人の取締
役は多すぎるような気がします。徹底した原価の見直しをすれば、
さらにいい会社になるでしょう。つまり含み資産のある会社です。
投資対象としてはすばらしい先に着目したといえます。
「コロンブスの卵」同様、ホリエモン氏の慧眼には驚きます。
俊敏な起業家経営者でしょう。

 今後の課題はコストカット経営と従業員福祉という自己矛盾の止揚
解決でしょう。賢明な彼は、コストカットは、単純な人件費の削減で
はなく、無駄な経費や、適正な能力評価による人員削減など、内容の
よい上場企業には社員のプライドを尊重したそれなりの対応をすると
見ています。
 コストカットは無駄を見直すことです。有能な社員の給与削減を
してモラールを下げるような馬鹿な人事政策は採らないでしょう。

 経済や経営の目的は、関係者一人一人の生活をよくすることです。
関係者には、株主も、社員も、顧客も、末端の消費者もいます。政府
もまた法人税の納付を受ける関係者です。西武が信用を失った事例
は度の過ぎた節税という名の脱税でした。

 日本では株主にはこれまでやや配慮が手薄だった感があります。
配当よりも内部留保の充実が優先していたようです。

たとえば、憶良氏が数年管理担当役員をしていた日米合弁(対等50%)
企業では、日本側株主は配当よりも社内留保の充実を望み、米側は
若干でも無配から有配を希望しました。米国側がNY市場上場の企業
でしたから、海外投資で無配よりも有配のほうが、経営者が株主から
評価されるのだなと思いました。

 ユシロ化学が外資のTOB攻撃に対して増配策で防衛したと報道され
ました。大幅な増配により株主は、配当金増加と株価の値上がりという
二重の効果で、売りを見合わせます。一方TOBを仕掛けた方は、株価
の値上がりにより、買収資金が巨額になり、買収攻撃をやめました。
このことは、換言すると、内部留保の厚かったユシロ化学の株主への
配慮はややおろそかだったということになります。

経営者は、西武問題やニッポン放送問題を他山の石として、経営の
原点を再考しているでしょう。



 次回はM&Aや貸し株など、企業戦争の戦略について



ロンドン憶良の世界管見(目次)へ戻る

ホームページへ戻る