5分でまとまる国

(前頁より)



「日本からこちらに来られると、ストライキとかティー・ブレイクとか驚か
れたでしょう」
日本では春闘で私鉄のストライキが時折話題になるが、まあうまい具
合に労使の話し合いがついて片付いていたから、英国の炭鉱ストや
鉄道ストは生々しい経験である。

ティー・ブレイクというのは、勤務時間中、午前10時頃と午後3時頃に、
15分の喫茶休憩時間が慣習として従業員に認められている。
仕事にエンジンが掛かった頃、現地職員たちが立ち上がって、休憩室
へゾロゾロと入っていく状況に、いささか憤慨し、違和感を持ったもので
ある。

「正直なところ着任当時は随分びっくりしました。でも『郷に入れば郷に
従え』で、すっかり慣れましたよ」
「日本の方々から見ると、英国人はグウタラな国民に見えるでしょう。
でも一旦緩急ある時には、我々国民は5分間でまとまりますよ」
「えっ、たった5分で? まさか?」
「労働党と保守党は、ドロドロの階級闘争をしているように見えますが、
そのふたつがまとまることがありますかねぇ」
河東氏と憶良氏が同時に疑問の言葉を出した。

「信じられないでしょうが、大事な時には国民は5分でまとまります」
ウイットマン氏は、白ワインの銘酒シャブリ・グラン・クリュの入ったグラ
スをちょっと目の上に持ち上げ、自信たっぷり二人にウインクした。




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