神よ、助けたまえ
(前頁より)



ともかく融資している金額に相当する預金を集めねばならないから、
「引き揚げるなんてあこぎな仕打ちをせずに、継続してよ」
と下手に出て懇望せざるを得ない。どうしても量が必要なのだ。

「いやいや、トミー、日本経済はもうすぐポシャルと聞いているから駄目
だよ」
「そこを何とかしてくれよ。フォレックス(外国為替ディーラー)仲間じゃ
ないか」
「じゃ金利をもっとはずんでよ」

ディーラーたちの涙ぐましいタフな交渉によって、LIBOR(ロンドン・イン
ターバンク・オファード・レート)と呼ばれるマーケット・レート(市場の通
常の利率)をはるかに上回る特別の金利(特利)を支払って、やっとこさ
必要な資金量を確保する日々が、しばらく続くことになった。

背に腹は変えられぬ。屈辱的な「ジャパン・プレミアム」である。

邦銀各行のディーラーの目は血走り、胃は痛み、体重は減っていった。
支店幹部は手分けして、潤沢なユーロ預金を持っているヨーロッパや
アメリカやアラブ諸国に出張し、取引銀行に頭を下げて、クレジット・ラ
インの確保を図った。

神様、何とかお助けください!

ディーラーの奥方たちは、主人を送り出した後、密かに『苦しいときの神
頼み』をしていた。この頃ディーラーたちは憔悴し、彼らの顔面には悲愴
感が漂っていたからである。




次頁へ