UKを知ろう

岩山の要塞ジブラルタルの帰趨(1)




 先般来「晴耕庵の談話室」で、英連邦コモンウェルスや王室領、
自治領あるいは海外領土など、『英国』(日本では通称イギリス)
の関連地域について解説してきたので、多くの方が『英国』の持
つ多面性を理解されたと思う。

 おりしも、2002年3月18日のBBC NEWS WORLD で「海外領土」
の典型ともいうべきジブラルタル(Gibraltar)の領土問題について
報道があった。

 「晴耕庵の談話室」No.69で説明した通り、ジブラルタルは英国
の海外領土の一つである。
 地勢的にはスペイン国境から地中海の入り口に面し、対岸の
アフリカ大陸側とは16キロメートルしかない。いわば地中海の喉
元を制している、軍事的に極めて重要な岩山の要塞都市である。
そのため古くからこの地の獲得を巡って、いろいろな国の間で血
なまぐさい争いが続いてきた。



 まずはBBCの報道により、”今、何が問題になっているか”を
知り、その背景をなす”過去の歴史”と”今後の動向”は、いつも
の憶良氏流に、続編で解説しよう。



英スペイン共同統治案に住民反発
大多数が英領存続を希望

 3月18日、ジブラルタルの大通りは、この地が英領から変更さ
れる動きに反対する25,000人の住民のデモで埋められた。住民
30,000人というから、老人子供病人を除けば殆どの市民がデモ
に参加したようなものである。
あらゆる建物に英国国旗とジブラルタルの旗が掲揚された。
この抗議デモ参加のために、学校や会社、お役所も早めに切り
上げられた。

Residents of Gibraltar have taken to the streets in a huge
protest against moves by the UK to change the territory's
status. Gibraltar's Chief Minister, Peter Caruana, said
25,000 of Gibraltar's 30,000 population took part in Monday's
demonstration.
Flags of the UK and Gibraltar were draped on almost every
building.
Schools, businesses and government departments closed early
to allow people to protest.



 カルアナ知事は
「英国とスペインが、我々の将来についての大事な方針なのに、
住民の意向を全く無視した頭ごなしの合意をしているのは完全
に間違っている!」
と語った。

”It is completely wrong for the UK and Spain to agree
principles about our future, completely above our heads ”
(Chief Minister Peter Caruana )

 次回で紹介するがスペインにしてみれば、ジブラルタルは英国
に奪われた国土であるから、かねがねその返還を求めてきた。
しかし英国にすれば戦略的拠点を簡単には引き渡しがたい。そ
こで浮かんだのが、両国の妥協案としての共同統治案であった。
両国は今年8月までに結論を出すべく会談を開始した。
英国政府は、どのような変更であれ、まずは住民の了承が必要
との前提条件でスペインと交渉している。

The UK and Spain have begun talks on Gibraltar's future,
pledging to settle their long dispute over its sovereignty
by the summer.
The two governments are thought to be ready to agree on
joint sovereignty, but the UK has said any changes must
first be accepted by Gibraltar's residents.

 ジブラルタルの住民は、今回英国・スペイン両政府の交渉に激
しく怒っている。それは、英国政府によってジブラルタルがスペイ
ンに「密かに売り切られようとしている」と感じているからである。

 因みに、"sell out"は日本語同様「裏切る」”betray"という
俗語でもある。

The Anglo-Spanish moves have provoked the fury of Mr Caruana
and many other residents, who claim they are being "sold out"
by London.

 つまり、住民投票の前に、ジブラルタルを「英国の海外領土」か
ら「英国スペインの共同統治」に変更する方針を公表することは、
遅かれ早かれジブラルタルがスペイン領に変更されることを示し
ているに他ならぬという点である。

The effect, he said, would be to tell Gibraltarians: "'Sooner
or later you are going to have to be Spanish - if you don't
want it to be now it's up to you to choose the timing in the
future'."

 英国がスペインに譲渡しやすいようにと、バルセロナ・サミット
でEUが代替条件に提案した対ジブラルタル金融支援の話を、カ
ルアナ知事は拒絶した。

 Mr Caruana has also rejected a promise of financial aid
from the European Union, made at the Barcelona summit on
Saturday, to sweeten the deal being negotiated by Spain
and the UK.

 英国の海外領土となってから数百年の間に、住民は英国人と、
なり、スペインへの返還は彼らにとっては大問題であった。
 スペインへの返還を問いかけた1967年の住民投票では、賛成
した市民はわずか44名だけであったという。

A referendum held in 1967 showed only 44 people were prepared
to consider a Spanish Gibraltar.



 英国は、軍事費削減のためと、歴史的因縁のジブラルタルを
返還し、帝国主義時代の悪評を清算したいのであろうが、住民
はスペイン領になっても良いことは何もない、英国籍のメリット
を満喫したいというのが本音らしい。

 次回でその背景を検証しよう。



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