百年の計

(前頁より)



「でもね、ずっと田舎の方では石炭も薪も焚いていいのよ」
「それでわかりましたよ。南ウエールズへとドライブした時、BBのお宅の
居間で、大きな暖炉に太い薪をたいて暖をとった経験がありますから。薪
の焔も気分が落ち着いて、暖炉の側に大きなシェパードが寝そべり、うち
の子供たちが犬の首や背を撫でてあげるなど、とっても良かった思い出
があります」

年配の読者諸氏には、BBと聞いて、一瞬セクシイ女優ブリジット・バルド
ーの邸宅かと錯覚された方もいようが、安心したまえ。英国ではベッド・ア
ンド・ブレックファーストの略で、ごく普通の家庭が空いているベッドルー
ムと朝食のみを出してくれる、文字どおりの純粋民宿である。

「英国はアメリカとか日本とかに比べると、経済は駄目になって、少し貧し
いかもしれないけれど、政府は国民のためにいろいろしてくれていると思
いますよ」
口数の少ないハリーさんがうなずく。
  「エリートはね、百年単位でものを考えるのですよ。日本も英国と同じよ
うに古い歴史を持つ国だから、同じように政府は長期的に政治をしてい
るでしょうが・・・」
ドロシー小母さんはニコッと笑った。



(いやいや、とてもとても、下水道・道路舗装の完備していること、非常に
安い公共のプール・テニスコートが沢山あること、木々が茂り広々とした
芝生の公園、それに国中走り回っても無料の高速道路・・・・社会資本の
充実していることは日本の比ではない。東京から大阪まで高速道路を使
えば、一体いくら取られるのか。ましてや庶民のアパートまですべてセン
トラル・ヒーティングとは驚きではないか)

「石炭を使わせないために、政府と国民がとった対策は尊敬に値します
ね」
憶良氏の賛辞にカーン夫妻は嬉しそうな顔をした。
「コーヒーもう一杯いかが?」 



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