エピローグ 
 親英患者のユトリ論
(前頁より)



かつてロンドンに勤務した多くの人々は、少し気取ってはいるが懐の
深いこの街に、古き良き日本の街と同様の感傷を抱くように見える。
いや感傷だけではあるまい。英国勤務の経験者たちは、この商都に
いわく言いがたい不思議な魅力を感じているのではないかと思う。
家族も、どちらかと言えば好感をもって帰国している方が多い。

ロンドン支店勤務に内定した後輩や、欧州に旅する友人が憶良氏を
訪れてくる。
「英国の不思議な魅力、それは何でしょうか?」
との問いかけに、憶良氏は鼻をピクッと動かし、眼鏡をずりあげ気取
って答える。



「かって日本にあって、今は失われているように見える『ユトリ』の精神
かな。
昔は四季折々を、天皇も武将も商人も庶民も、和歌や俳句や祭りや
野遊びで楽しんだ時代があっただろ。現代でもこれらは盛んではある
が、何か少し違っているようだね。

日常生活が、遊びまで何となくせかせかして、『時間のユトリ』が少な
いような気がするねえ。それに他人にまで親切にする『心のユトリ』が
あるのかなあ。
英国には、まだ自分にも他人にも親切にする『心のユトリ』が感じられ
たがね。これは僕の贔屓の引き倒しかもしれないね」

お茶を入れながら、美絵夫人や家族たちは憶良氏の理屈ぽい話に
いつもハラハラするが、話し出したら止まらない。
読者諸氏もここまで来れば、憶良氏の解説好きな性格に慣れて、寛容
な精神でお許しいただけよう。

「国家は人間にも似て、短所も長所もあるから、いずれの国にも、いつ
の世でも学ぶことが多いと思うよ。4年半という短い期間だったけど、僕
にとっては目から鱗が取れたような気がしたよ。英国での貴重な生活
体験と感想を一人でも多くの人に語り、問題提起をしてみたいなと思う
ようになったのでね。
10年20年経っても、本質的なところは、そうそう簡単には変わらないと
思うよ」

「憶良君、君は随分重い親英国病に罹っているな」
と先輩方に笑われそうである。

読者諸氏がコーヒー・ブレークにこの本を読み、どこかでクスリと笑っ
て、
「陳腐だけれどもユーモラス」
と言ってくれたら、ロンドン憶良氏は
「ハイセイコー、大成功」
と欣喜雀躍するであろう。

(完結)

ご挨拶

皆様、2年間の連載にお付き合い頂きありがとうございました。
ロンドン憶良見聞録がご縁で、多くの方々とネット上の知己になりま
した。いろいろなご意見や助言を頂き、感謝しています。

しばらく既掲載分の整理整頓や技術向上の勉強などしたいと考えて
います。
『UKを知ろう』は引き続き掲載の予定です。
どうぞご来訪下さい。

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