オックスフォード大、公立高の才媛を拒否

ハーバード大は奨学生で歓迎



今、英国の教育問題で、労働党政府閣僚たちがオックスブリ
ッジ(オ大・ケ大)のエリート主義に噛み付いている。
日本の新聞でも簡単に報じられてはいるが、この問題は英国
に内在する階級制度の矛盾と、エリート主義の本音と建前の
部分が見える。

例により、BBC NEWSをもとに、少し詳しく背景を紹介しよう。
英国中世以来の影の部分が見えてくるであろう。



1 公立高の才媛オックスフォード不合格、ハーバードへ

ことの発端は、スコットランド国境に近いタイン川の河口タイン
マウスから更に2マイルほど北の、北海に面したWhitleyの
公立高校Monkseaton Community HighSchool出身で、
統一テストでAレベルを10科目もとっているローラ・スペンス
さんの入学を、面接試験で不合格としたことにある。
(ちなみに、オックスブリッジへの受験には通常3科目以上が
必要であるが10Aとは抜群であり、すごい。)


彼女はオックスフォード大学のマグダレン・カレッジで医学部
に学びたいと、最終面接に臨んだが、合格できなかった。
マグダレン・カレッジは1448年に創設された名門である。

しかしオックスフォード大に落ちた後に、米国の名門ハーバ
ード大学に、英国から選抜された僅か10人の奨学生として合
格しており、65、000ポンドの奨学資金を受けることとなった。
After being turned down by Magdalen, she became one of
only 10 British students to win Harvard scholarships -
worth, in her case, 」65,000.

「ハーバード大学から歓迎されるほどの才媛の彼女が、名門オ
ックスフォード大に不合格になったのは、田舎のコンプレヘン
シヴ・スクール(公立総合中高校)の出身で、住んでいる地域
も貧しく、明らかにイングランド北部に対する差別である。」
と、出身校の校長先生が不満を表明した。

Her head teacher, Dr Paul Kelley, called Laura an "absolutely
wonderful" student, and said Oxford was missing out.
He believes she has been discriminated against because of
where she lives.
"There is a problem with the poorest region. We have many
other disadvantages, and I think in some minds, there's a
problem with people who come from the north."

「これは今回のローラだけじゃない。昨年もうちの高校からララ
がオックスフォードに落ちて、彼女もハーバード大の経済学部
に進学している。オックスフォードは英国の人材を取り損なっ
ている。」

Last year, Monkseaton pupil Lara Dixon won a scholarship
to read economics at Harvard, after also being turned
down by Oxford.


「これはもうスキャンダルという以外の何物でもない」
と、ブラウン蔵相やブランケット教育雇用相が、オックスブリッ
ジの私学やグラマースクール(公立進学校)優先主義を指弾
した。
The Chancellor, Gordon Brown, has said it is "an absolute
scandal" that a pupil from a state comprehensive was
refused a place at an Oxford College - only to win a
scholarship to Harvard.

グラマースクール(公立進学校)を減らしてコンプレヘンシヴ・
スクール(公立総合中高校)の充実化を進めている労働党とし
ては、我慢ならないケースである。

政府スポークスマンは「ブラウン蔵相が言いたいのは、才能が
大事であって出自は重要視されるべきではないということだ」
と述べている。

The Downing Street spokesman said the Chancellor was
making the point that background should not be as
important as talent.

「もちろん、オックスフォード大学の入試選別手続きは政府が
決めることでないが、もしこの国の才能ある若者が、この国で
才能を伸ばせなかったというのであれば、それは『まことに遺
憾なこと』である」と蔵相は発言している。

He said it was not for the government to determine
admissions procedures at Oxford. But it was "clearly
regrettable" if talented people from this country were
unable to develop their talents here.



2 オックスフォード大の反論

マグダレン・カレッジの発表では、「彼女は筆記試験でも他の
受験者に劣り、面接では十分な応答が出来なかったので不
合格にした」という。

However, after three days of tests and interviews, she was
refused a place at Magdalen College, Oxford, because
according to the academics there, she did not show
potential.

しかし彼女は「私は面接で他の生徒のように自分を売り込む
ようなことはしたくなかった。自分の人格のせいで不利な立場
にされるとは考えたくない」と言う。

"I think that means that I wasn't as keen as other students
to sell myself, which I don't think I should be put at a
disadvantage for because of my personality," Laura said.

オックスフォード大のコリン・ルーカス副学長は
「蔵相の批判にはがっかりした。この種のクレームは事実を知
らなさ過ぎるところからきている。オックスフォードは有能な若
者を求めており、生まれ育ちの背景やアクセントなどは考慮し
ていない。(アクセントというのが階級社会を意味する)
入学の判定に差別はしていない。今年の新入生の53%は公
立校出身であるが、これに自己満足してはいない」

Oxford University is constantly seeking out the most able
students to come and study with us - whatever school
they have been to, whatever their background, whatever
their accent.
"None of this matters in our pursuit of the best students
who would benefit from what Oxford has to offer."
Oxford had "opened its doors", he said.
This year it had made 53% of its offers of places to UK
students from the state sector, but was not complacent.

「更に、オックスフォード大では公立校の生徒にサマースクー
ルを開催して、オックスフォードでの大学生活がどのようなも
のかを公開している」
と反論していた。


3 英国政府は両大学のエリート主義を更に追求

ところが、彼女の面接試験での不合格の判定理由を書いた
コメントが外部に漏れた。
「彼女は将来優秀な医者になるであろう。しかし物静かで、他
の公立校出身者と同様に自信に欠ける」
というのである。

「それ見ろ。『他の公立校出身者と同様に』というのはやっぱり
偏見はあるじゃないか。このような才女の希望が叶えられずに、
他国の一流大学で奨学資金付きで歓迎されるような英国名門
大学入学制度は一体何のか」
と、議論はいっそう大きくなってきた。

「英国の高校生の90%以上が公立校に通学している。しかしな
がら、両名門大学は、公立出身の入学生は半数にすぎない。
両大学のOB ネットワーク(つまり縁故主義)は改善されねば
ならない。」
と、エリート主義の改善にいっそう取り組む姿勢である。

国民の反応も多様である。
「限られた時間で筆記や面談での自己表現が、他の志望者に
劣っていたのならしかたないじゃないの」
というのもあれば、
「いやいや僅か20分ほどの筆記や面接では、ゆっくり型は十
分出来ないよ」
などさまざまである。

4 政府は公立校出身をとる大学に財政支援の方針

5月30日のBBC NEWSでは、プレスコット副首相は公立校
の学生をとる大学に、より財政支援する方針を述べている。

Cash incentives could be made available to universities which
recruit more state-educated students, Deputy Prime Minister
John Prescott has hinted.

英国における教育の機会均等を推進することは、選挙前から
労働党の重要な選挙公約であったから、なんとしても旧来の
名門大学のエリート主義(私学優先主義)を打破したいので
ある。

特権階級でない階層の子女に英国の一流大学に進学する
道を閉ざすのは、まさに「道徳に反すること」ではないのかと
も述べている。

He argued it was "immoral" to deny those from less privileged
backgrounds access to the best education

結論として、「彼は労働党は過去も現在も今後も常に大衆の
為になる政党であり、一方保守党は、過去も現在も今後も一
部の特権階級のための政党だ」と付言した。

He added: "The Labour Party is, always was, always will be,
the party that fights for a better chance for the majority.
"The Tory Party is, always was, always will be, the party
that stands up for a privileged few."



副学長がいみじくも「アクセントなどには差別はない」とコメント
しているように、労働者階層は英語の発音や訛りが違うことを
公の席では気にする。ローラ嬢はついつい面接で口数が少な
かったのではなかろうか、などと憶良氏は憶測している。

才媛ローラ嬢は、大きな話題を残して自由の国アメリカへ留学
する。そこではイングランド北部の庶民の出自やアクセントを
気にすることもなく、物静かであろうと闊達であろうと、実力が
評価されるであろう。

今回のニュースは、英国には依然として根深い階級制度とエ
リート主義があることを如実に示している実例である。

面白いことに、この労働党内閣の閣僚のうち、なんとブレア首
相(オ大)など7名が、オックスブリッジの出身である。
そのブレア首相は、教育改革を政府の最大課題にしている。

日本のエリート教育の問題とも絡めて、今後の動向に注目した
い。



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