シティはしたたか
(前頁より)




第二次大戦後はドルが世界の決済通貨となった。米国に還流せず、
世界各国をうろつくホット・マネーは、ユーロ・ダラー(欧州ドル)と呼ば
れ、シティを中心に、大規模な預金と貸金の国際的な案件がまとめら
れるようになっていた。

資金の出し手はアメリカやスイスやアラブ諸国やドイツの銀行であり、
借り手は中南米や東欧などの発展途上国の公的機関や企業である。
シティは世界各国通貨の為替決済の場であると同時に、世界の金融
ユーロ・ダラー取引の中心になっていた。

簡単に説明すると、英国はシティという軒先を世界各国の銀行に使わ
せている大家さんである。

ドルなどの外国通貨が、現地通貨であるポンドに転換されない限り、
流入(ユーロ預金)流出(ユーロ貸金)を自由に認めている。

つまりドルからポンドへの転換とか、ポンドからドルへの転換は、直接
英国の金融経済に影響する。しかし、アラブのオイル・ダラーがシティ
に入って来ても、そのままブラジルに貸し出されれば、英国の国内金融
経済には全く影響しない。
こういう取引を銀行では『外ー外取引』(オフ・ショア取引)という。



若い読者諸氏のために補足説明すると、この場合ロンドンでブッキング
(伝票起票と帳簿記帳)が行われ、ニューヨークの銀行でドル資金の授
受が口座振替で行われる。

何億円に相当する単位の、巨額の現ナマの札束がシティの中を動くの
ではない。
定期預金証書が仰々しく発行されるのでもない。電話取引と取引確認
のコンファーメーション・スリップ(確認書)へのサイン、それにニューヨ
ーク・バンカーへの暗号連絡が基本的な仕組みである。

シティではすべてが信用にもとづき取引される。口約束も契約の成立と
なる。
嘘つきはシティでは通用しない。


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